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幼なじみ  作者: 麗華
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「……なんか、情けないなって」

「今さらぁ?」

 今更って、そんな。週末まで待てなくて、思わず千夏さんを呼び出した水曜日。一番疲れる日に私の愚痴に快く付き合ってくれた千夏さんの最初の一言はまっすぐに私に刺さった。はい、私以外は皆様わかっていることなんですよね? 知ってて見守ってくれているんですよね。

 わかってはいるんですが、どうしても自覚できなかったというか、なんというか……。

 口の中でモゴモゴと呟く私に、呆れたような溜息をついてビールのお代わりを頼んだ姿はすっかり姉御だ。かっこいい。

「まぁ、自覚、したくなかったんだろうね。自分に対しても気づかないふりしちゃうのは、由夏ちゃんの特技だよね。なかなかそんな長期間できないよ」

 言葉は思い切りキツイけれど、嫌味なわけではなく心底そう思っているんだろうことは伝わる。きっと、苛立ちながらも見守ってくれていたんだろう

「それで、自覚して、これからの事は決まったの? 」

 やっぱり、そこですよね。

「ええと……」

 決まっていないです。っていうか、それを相談したかったんです。

「まだ、そこまで行けないのかぁ」

 心底呆れ顔をした千夏さんに、情けない気持ちがさらに膨らむ。

「一緒にいたい、まではたどり着きましたが、彼女になりたいのか、まではまだちょっと……」

 これは、本心。隣にいたい、他の女が隣に並ぶのは嫌。だけどこれは大事な兄に対しての嫉妬、小姑根性なのでは、とも思う。何より、彼氏彼女として徹と一緒にいる自分、というのが想像つかない。

「重症だねぇ。まぁ、幼なじみってなるとその辺面倒なのかなぁ? 私にはわからないけどねぇ」

「千夏さんって、幼なじみとかいないんですか? 」

「うん? 私の親、転勤が多くてさ。小さい頃に何度も引越ししているんだ。今親が住んでいるところも、私は住んだことのない町。だから、地元の友人っていうのもピンとこないんだよね」

 そうか、そういう人もいるよね。同じ場所でずっと過ごせた私は、きっと幸せだったんだろう。ずっと、徹の側にいられた。

「側にいたいっていうのは、好きっていうことじゃないの? それは、由夏ちゃんの中では違う事なの? 」

「よく、わからないんですよ」

 呆れられるのを覚悟の上で、ゆっくりと話す。私は、何が怖くて何が欲しいのか。

 

 中学時代までの二人の関係は、良好だった。中学生になって、お互い性が違うのだとはっきりと自覚したのは、徹を好きだといった子からの、嫌がらせ。ああ、徹の側にいるのは、贅沢だったんだな、と思った。離れても、狭い町の中、華やかな徹の噂はすぐに届いた。それに一喜一憂する彼女達、そんな人だったのかと引いていく自分。それは、自分を守るためだけの時間だった。

 それなのに、再開した途端、距離を詰め笑いかける徹。そして、それを楽しい、嬉しい、と思いながらも卑屈になる自分。なんなんだろうなぁ、と思いながらも、彼氏とはちょっと違う立ち位置の徹の、側にいたいとも思った。


「私は、どうなりたいんでしょうねぇ」

「知らんわ」

 のんびりとした疑問に対しての一言。いや、わかってはいるんですけどね。いくら何でも冷たくないですかね?

 不満が顔にでたのか、千夏さんは大きなため息を一つついて、私に向き合ってくれた。

「どうなりたいのかなんてわからないけど、由夏ちゃんは徹と一緒にいたいんでしょう? 」

「はい」

 そうだと、思う。側にいたい、徹が作ってくれた人間関係が心地いい事は、はっきりしている。それでも、徹の側にいる一年先の自分が、想像つかない。

「じゃぁ、徹に聞いてみれば? どうなりたいのか」

「は? 」

「由夏ちゃんがわからなくても、徹はわかるかもしれないでしょう? 徹はどうなりたいのか聞いてみて、それで決めるのも、ありだと思うよ」

 アリかナシかで言われたらアリかもしれないけど、でも、それもまた勇気がいる話ですよね? オロオロしている私のまえで、涼しい顔をした千夏さんが笑う。

「背中を押す役として、私を呼んだんでしょう? 背中を押すどころか、蹴っ飛ばしてあげるから、とりあえず行けるところまで行ってきな」

 まぁ、そうです。一人でできないこと、背中を押してほしかったんだと思う。わかってはいるのに、人から言われるとすごく情けなくなるっていうのは不思議でしょうがない。

「行けるところ、ですか……」

「そ、行けるところまで。由夏ちゃんの場合は、もう駄目って思ってからもかなり行ける。そうだな、駄目って思ってからさらにフルマラソン走るぐらい? 」

 いや、それは流石に無謀です。そう思うのに何も言えないのは、カラカラと笑う千夏さんが心底私を想ってくれているのがわかるから。彼氏の友達の幼なじみ、という遠い存在の私。臆病で我儘な私なんか、苛立って見捨てて当然なのに、こうして仲良くしてくれている。これって、すごいことだと思う。

「由夏ちゃんと、徹の人徳」

 ううん、『徹の』だけじゃないかと思う私は、やっぱり素直じゃないんだろう。


「あ、この週末、私用事あるんだ。ちょっと土曜の武人の家も不参加」

 ごめんね、と顔の前で両手を合わせる千夏さんに、千夏さんがいないんじゃ土曜日は行きにくいなぁ、くらいしか思わなかった私を全力で殴りたい。



「千夏さん、今週もダメだって。しばらく週末は忙しいみたい」

「そうかぁ、なんだか寂しいね」

 もう、1カ月以上会っていない。1年以上続いた週末女子会。もちろん都合が悪くなることもあったけど、それでも1カ月以上会えない事はなかった。姉御肌の千夏さんは、私たちの愚痴を聞いてくれることが多く、自分の事はあまり話さない。

「武人さん、何か聞いていないの? 」

「聞いてみたんだけど、さぁ、しか言わないの」

 正樹さんから聞いていたとしても、千夏さんが言わないのに他の人には言っちゃダメだよね。そのあたりは、武人さんだなぁ。

「ねぇ、明日武人さんの家に来ない? 正樹さんも忙しいみたいで、すっかり土曜日の飲み会も寂しくなっちゃったし、修さんと徹さんは来るから。ね? 」

 いや、人数減ったら逆に行きにくいんだけど。正樹さんと千夏さん、ムードメーカー的な存在だから助かってたし。修さんも武人さんも話しやすい人だけど、人数少なくない?

「女一人じゃ寂しいんだってば」

 まぁ、そうだよね……。



「由夏、おはよう」

 渋る私に愛衣がとったのは、強制連行、もとい車でのお迎え。運転手兼買い物要員に駆り出されているのは修さん。シルバーのステーションワゴンから降りることもなくカーナビをいじっている。

「おはようございます」

「おはよ」

 愛衣と二人で後部座席に乗り込んだのを確認して、挨拶もそこそこに車は出発した。このまま買い物をしてから武人さんの家に向かうらしい。

「基本、飲み物。あとは武人が作れないつまみとか。欲しい物あるか? 」

「武人さんが作れない、つまみ……」

 武人さんが作れない物って何だろう? でも、買って行ってかぶっても失礼だよね。

「俺らはチーズとか乾きものとか買って行くこと多いな。千夏は果物とかスイーツとか」

 ああ、そういうの。確かに、果物欲しいかも。

「あ、武人さん今日プリン作るって」

 マジですか。そんなものまで作れるんですね。すごい。

「え~と、じゃぁ果物ほしいな。カットパインとかいいよね」

「果物、宅配で届くって言ってた……」

 ああ、お取り寄せ果物があるんだ。じゃぁ

「お酒だけ、かな? 」

 参加人数が減って料理の減りが悪いとボヤいていたと聞いたら、つまみは買えない。食材のお金、いつか払わせてもらおう。

 ついたのは、お酒をメインに扱うディスカウントショップ。いつも思うが、お酒こそ宅配が良いんじゃ。

「その場で欲しい物変わるし、選んでから宅配だと呑むまで時間がかかるから嫌だ」

 欲しいときにすぐ欲しい、ってヤツですね。まぁ、気持ちはわかります。大型のカートを押しながら、モヒートだの日本酒だのを入れていく姿は、今欲しいと思ったものをパッパと入れているんだろう。呑み切れるかどうかとか、考えているのかなぁ。

「ほら、好きなの選べよ。正樹は来るかもしれないから、大目に」

 缶チューハイとカクテルのコーナーで立ち止まり、愛衣が1本ずつ選ぶのを待ってくれる。口当たりのよさそうなカクテルを数本選んでカゴにいれ、他に行こうとした愛衣。

「足りなくないか? 」

「え、と。でも、モヒートとかあるし」

「余ったら平日呑めばいいじゃん。足りないと、途中で買いに行くの嫌だろう? 」

 何がいい?と煽る修さんがおかしくて、愛衣の呑めそうなものを片っ端からカゴに入れていく。あっという間にカゴは一杯になり、やっと納得した修さんが歩き始めた。

「あんなに買って……」

 困惑する愛衣が面白い。毎回参加しているけど、お酒が届くときにはいないらしく買い物の量は知らないみたい。呑み始めのペースすごいから愛衣の来る頃にはだいぶん減っていて、気づいていないんだろうなぁ。

「きっと、調度いい量なんじゃない? 」

 目を丸くしてる愛衣も、可愛い。



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