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幼なじみ  作者: 麗華
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 なんとか徹に謝れた金曜日。

 徹らしからぬ訴え、そらされた視線。自分のしたことが、どれだけ酷かったのかやっとわかった。

 

 一番傷ついたのは、徹。

 逃げた私は、楽だった。


「ちょっと、兄貴らしいことさせてもらうかな?」


 兄貴として、何かしでかす気らしい。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった私に、断るなんてマネできるはずもない。



「今でも、俺の隣は嫌か?」


「嫌じゃ、ない。けど、人の多い所で一緒にいるのは緊張する」


「誰か、他に人がいたら? 」


「人って、誰? 」


「千夏、正樹、修、武人、お前の友達。好きなの選べ」


「……」


 できれば、ご遠慮したい方々です。ううん、誰が一緒なら大丈夫っていうのは、ないかもしれない。考え込んでしまった私に、徹が深いため息を落とす。


「じゃぁ、二人で行くか」


「どこに?」


「買い物。明日、昼前には迎えに来るから、準備しておけよ」


 いうだけ言って、スタスタと帰ってしまった徹。おおい。何なんですかねぇ。


 土曜日

 連れてこられたのは、前にきたアウトレットモール。

 こないだとは全然違う人ごみの中、今日は私が徹について歩いている。


「次、これ」


「こんなの、着ないよ?」


「……」


「ねぇ、徹? 」


「次、これ。ほら、鏡向け」


 普段着ない明るい色のニット、ワンピース、コート。

 着ない、と言い張り試着を嫌がる私を無視して、身体にあわせるだけで何着も買い込んでいく。私、一切お金払っていないけど、それ、本当に私の服?それが、兄貴としてやること?


「買ってもサイズあわなかったらどうするの? 」


「合うだろ?大丈夫だ。」


 女のサイズは、なんとなくわかる。気になるなら、次から試着するんだな、と笑うその顔がだんだんと憎らしくなってきたのは気のせいではないだろう。


「これ、着ていくので」


「は?」


 徹が手にしているのは、ライトグレーのゆったりとしたニットワンピ。インナーには、スパンコールが綺麗な黒のTシャツ。エスニックっぽいストール。

 センスいいなぁ。

 って、そうじゃなくって!

 私、ワンピースなんて着ないよ?

 仕事行くとき以外、スカートはかないし!!!


 なんて抗議もむなしく、試着室に放り込まれた。

 ああ、いったい今日は何なんだ。頑張った結果、これですか。



 当然ながら、人ごみの中でも目立つ徹。横を歩く私は、と言えば。

 選んでくれた服は綺麗で、可愛い。『服に着られる』っていうのはこういうことを言うのかなぁ。鏡に映る自分が恥ずかしくて、つい下を向く。



 以前も来たcaféで紅茶を頼んだ時にはもうぐったり。運ばれてきた紅茶に口をつけることもなくテーブルにうつぶせた私に、徹が笑う。

 

「帰り、寝てていいぞ」


 もちろん、そうさせてもらいますよ。

 

 人の多い所はもともと得意ではない。そこに、徹の隣という緊張感と、着慣れない服。正直、終電間際まで残業した日と変わらないくらい疲れた。

 おまけに昨夜は、緊張でほとんど眠れなかった。

 結果、帰りの車内では、思ってた以上に爆睡。気付けば私のマンションの前。車を降りるとき、手渡されたのはコンビニ袋。デジャブ?と思ったのけど、中身は私一人が食べるには多い量。


「ちょっと、お前の部屋で用事があってな」


 ニヤニヤと笑いながら部屋まで荷物を持ってくれる。もう、日付変わりそうなんですけどねぇ。イイタイコトはあるものの、うまい言葉が思いつかない。不満気な顔をしていたであろう私に、クツクツと笑う。


「嫌がる女に手を出すほど、困っちゃいねぇよ。大丈夫だ。」


 いやいや、女としての危険なんか感じてませんよ?

 徹だったら、女に不自由しないってことも、知ってます。

 でも、やっぱりこの時間に、男が部屋に上がるってどうなの?一応、彼氏もいますしね。    

 あ、今週も電話来てないし、してない。いや、それでも、私も彼氏が地元で幼なじみの女の子家にいれていたら。あれ? あんまり、嫌じゃないかも……。あれ? あれ?


 モタモタと考え込んでいれば、徹はさっさと階段を上がり、慣れた手つきで鍵まで開けている。いつのまに、鍵? あ、私が寝ている間に?

 慌てて後を追えば、部屋の中では今日買い込んだ服が散乱していた。ああ、これ、片付けないと寝るとこないじゃん。


「用事って、なに?」


「ん?まず、愛衣の連絡先教えろ」


「は???」


 月曜日

 徹に買ってもらった服を着て出勤。めったに着ない明るい色、柔らかい印象のスカート。


 恥ずかしい。


「おはよう。徹さんが選んだ服、ちゃんと着てるねぇ」


 メイが嬉しそうに笑って、メールをうつ。


 あの後、徹は1週間分の私の服を選んでいった。

『金曜までに、服に慣れておけ』って言って。今週末も、私が徹と一緒にいるのは、すでに確定らしいです。そのうえ、毎日ちゃんと着てくるかチェックしてメールで報告するように、なんて愛衣まで巻き込んだ。

 

 愛衣は二つ返事で引き受けて、私の気持ちはすっかりおいてけぼり。


「ホントは、写真送ってほしいって言われてるんだけどなぁ~」


「無理!!!」


「だよねぇ。それはさすがに断っといた。

 でも、その服由夏に似合ってるよ?

 徹さん、センスいいねぇ。」


 にっこり笑う愛衣が、天使に見えたり悪魔に見えたり。


 普段の服装とガラッと変わったもんだから、オジサマ上司まで反応した。恥ずかしさのあまり、背中を丸めて小さくなってデスクにこもる。



 金曜日

 毎日着ていれば、だんだん慣れてくるもんだ。背中を伸ばして歩けるようになってきた。


「由夏、姿勢よくなったよねぇ。前よりいいんじゃない?」


「だんだん服に慣れてきた、かな?

 なんか、姿勢よくしてないと服に悪い気がしてさぁ」


「うん、なんか雰囲気変わったよ。

 できるオンナって感じ?最近評判いいの、気付いてる?」


 愛衣が笑う。


「前は、できないオンナだった?

 中身変わんないんだけどなぁ」


「前もできるオンナだったよ。中身はね。

 私達は頼れる姉御なの知っているけど、営業の人達は知らないでしょ?

 それが服装かわって、姿勢よくなって、ちょっと積極的になったから、みんなやっと気付いたんだよ。」


「積極的に?なった?」


 そんなつもりはない。今までどおり、仕事してるだけ。


「今まで、無言でやってたからねぇ。

『これ、こうしておきました』って言うようになったでしょ?

 だから、皆も気付くようになったの。」


 それは、徹から言われたから。目立ちたくない私は、自分がやったことをわざわざ言わない。次から同じこと求められても面倒だし。

『やりっぱなしじゃよくねぇだろ?誰がやったかわかんなきゃ、使いにくくても注意もできねぇ。もう一度頼みたくても、誰に頼んでいいかわからねぇ。誰が何やってるか、把握しとかねぇと意外にやりづらいもんだぜ?』

 そう言われたときに、確かにそうかも、と思った。

 それで、何かあれば言ってね、って意味でやったことを報告するようにしてみたら、それが、『できるオンナ』なんて評価になるんだぁ。やってることは、同じなのになぁ。


 昼過ぎに、徹からメール。

『悪い。ちょっと遅くなる。18:30までには片付けるから、その辺で待ってろ。』

 いや、いいんですけどね。今週入って、初めての連絡、これですか?

 今日だって、どこに行くのか全然聞いてないんだけど。

 なに、考えてるんだろう。徹の仕事が遅くなって、ドタキャンされたらいいのに。


「一週間、終わったねぇ。

 今日は、徹さんとデートでしょ?どこ行くの?」


 メイが無邪気に笑いかける。

 いや、デートって。まぁ、面倒だからもういいや。


「さぁ、どこ行くのかも、聞いてないんだ。仕事で遅れるって言ってたから、時間もハッキリしないし、困った兄貴だよ」


「遅れるんだ、忙しいのかな?

 でも、楽しみだねぇ。どこ行くんだろ?」


「楽しみ、かなぁ?」


「徹さんのお店選び、楽しみじゃない?

 美味しかったら、今度私といこうねぇ」


 笑う愛衣に言いたいことが喉に詰まっているみたい。

 徹の横、まだ怖いんだよ。仕事終らなくて、ドタキャンされたらいいのに。そんな風に思ってしまっている、情けない自分を知られたくない。


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