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幼なじみ  作者: 麗華
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「疲れる週だったねぇ」


 愛衣が、ぐったりとして帰り支度をする。金曜日の8時。事務の私たちは通常ほとんど残業なんてしない。それが、月曜日の影響をもろに引きずり、今週は毎日9時近くまでの残業。

仕事の忙しさだけならともかく、忙しさの張本人の新人ちゃんが翌日欠勤、来たと思ったら退職したいと言い出した。言いたかないけど、『最近の若い子は……』って思わず漏れる。


 辞めるのは、もちろん自由だよ。でもさぁ、あなたが招いたトラブルが片付いてからでもいいんじゃない?そんなことを思いながら、手伝いもせずに総務にこもりっきりの彼女のデスクを見て溜息をついていれば、課長からのお呼び出し。なぜ、私?


「……言いにくいんだけれど」


 言いにくいなら、言わなきゃいいのに、なんて反抗期のコドモみたいなことが頭に浮かんだけど、もちろんそんなことは表に出さない。

 静かに、課長からのお言葉を頂戴する。


 内容は、案の定。総務で泣きながら語ったという新人ちゃんの言い分。


『一生懸命やっているのにちゃんとした仕事は任せてもらえない。うっかりとミスをすれば、皆が無言でせめる。泣くほど反省しているのに、誰も認めてくれない』


 よくもまぁ、そんなこと言えたなぁ。無言で責めるのが悪いなら、言葉で責めればいいの?

 ってか、誰も責めてない、アンタのミスをカバーするために必死だったんでしょう?

 呆気にとられる私を気の毒そうに眺める課長。


「こんな時代だから、さぁ。新しい人材を雇うにも時間も経費も掛かるし、出来れば離職率は低い方がいいんだよね。先輩として、もう少しできることはなかった? 今後、またこんなことが無いように、気を付けてくれないかな? 」


 言葉を選ばれているのが、かえってつらい。いや、私、ちょっと嫌味言われたぐらいで辞めませんから。言い回しなんて気にしなくても、いいですよ?


 そんなこんなで、しばらくは新人ちゃんがやるはずの仕事を愛衣と二人で分担することになり、怒涛の忙しさ。残業に慣れない身体は、毎日家に帰ってシャワーを浴びてから寝ようか、早起きしてシャワーを浴びようかと葛藤するぐらいにボロボロだった。いいことは、帰りの電車がいつもより空いていることぐらい。


「ほんと、疲れたよね。絶対、明日は昼まで寝る!」


 来週からも、仕事の量は多いんだよねぇ、なんて言葉はお互い飲み込む。新人ちゃんが、完全に退職はしておらず、休暇扱いのため人を入れることもできないうちの部署。本当に、辞めるならさっさと辞めてくれ。そうしたら総務に人を増やしてもらうように交渉できるのに。


「ご飯、食べていく? 帰って食べるの面倒でしょ? 」


 久しぶりに愛衣からの誘い。そういえば、今週は怒涛の忙しさのせいでランチすら一緒に行けなかったな。週末だし、帰ってご飯食べるよりおしゃべりしながら食べた方がリセットされるよね。


「どこ行こうか? 」


 選んだのは、2駅先にあるチェーンの居酒屋。座席は全て区切られていてゆったりと座れるし、メニューも豊富。会社の側だと落ち着かない私たちは、時々愚痴りにここに来る。

 

「疲れたけど、色々あって面白かった週だよね。今の若い子は、なんて会話もできたし」


「……愛衣のそういう所、本当に尊敬するよ」


「そう? 私は由夏の仕事の速さに感動してたけどね。無言でバシバシ片付けていく感じ、カッコいいなぁって思ったよ? 」


 無言でバシバシ。それは、苛立っていたからです。なんてことは飲み込んでおこう。

 うん、愛衣が感動してくれているんだから、それでいいよね。


 話しそびれていた先週末に来た馬鹿彼氏の話、不思議な縁で行くことになった占いの話をゆっくりと話した。そう、会社に行ったら話そうと思ってたのに、忙しくて今週全然おしゃべりしていない。


「占い、かぁ。いいなぁ、私も行ってみたい」


「ほんと?名刺あるよ。愛衣の家からなら近いんじゃないかなぁ? 今度行ってみなよ」

 

 差し出した名刺を写真に収めている愛衣の真剣な目が可愛い。わかっているのに、ついつい。


「ねぇ、何を聞くの? 」


「え? いろいろ? 」


「ふうん」


 武人さん? と聞いた私に、困ったような照れたような顔をする愛衣は、本当にかわいい。

 大丈夫、私占い師じゃないけど、予言する。愛衣しだいだよ。武人さんなら、いい人だし、愛衣が気になるんなら、付き合っちゃえばいいのに。



「じゃぁ、お疲れ様。ねぇ、もしよかったら、明日一緒に……」


「お疲れ様。明日は一日ぐったり寝てるよぉ。来週も忙しいんだから、休んどかないと」


 愛衣の言葉を遮って笑う。少し寂しそうな顔をした愛衣に、悪かったなぁとは思うんだけど。


「お休み」


 元気に笑って電車に乗り込む。




 言葉通り、私の土曜日は気づくと終わっていた。そもそも目が覚めたのが昼過ぎてたし。家から出るのが面倒で、でもお腹が空いて、一人なのにピザを取ってしまった。いいや、これ、明日も食べよう。撮りためていたドラマを見て、もう読み飽きた漫画も読んで、あっという間に、日が暮れる。


これってちょっと、ダメな人かも。


そう思いながらテレビをつければ、徹といった遊園地が映っていた。

リニューアルのため一時閉鎖、らしい。

もう行くことも、ないんだろうけど。

ちょっと、さみしいな。


映像が変わったとたんにメールの着信。名前を見たとたん、心臓が1センチは上に上がった。

どうしよう、なんで?なんで?

恐る恐るメールを開く。


『こないだ行った遊園地、リニューアルするの知ってたか?』


どうしよう、と思いながらも指が勝手に動き出した。


『知ってる。テレビでやってた。』


自分でも、そっけなすぎるなぁ、と思いながらも送信してしまった。

送ったと思ったら、すぐに返信がきた。


『明日、行かないか?』


いや、まて。

こないだの話、聞いてた?

徹の横に立つの、嫌だって言ったんだよ?

なんて返事しよう、と悩んでいれば徹から着信。

うわぁ、どうしよう。


「もしもし」


私の意志とは関係なく、指が動いた。


「明日、暇か?」



「明日って、急じゃない?外寒いし……」


「また連れてってやるっていっただろ?

 リニューアルしたら、同じ遊園地じゃ無くなっちまうからな。」


「……」


「明日、なんか用事あるのか?」


徹と話せる、チャンスなのに。

そう思うのに、私の意志とは関係なく、口が動く。


「日曜に、遠出すると来週キツイから。」


これは、本当。だって、来週も忙しいし。休んでおかないと、絶対に身体を壊す自信がある。


「そうか」


「うん」


「じゃぁ、今から行くぞ」


「は?」


「テレビ見たんだろ?リニューアル前で夜中までやってるらしいから、今からでも間に合う。

 30分で行くから、厚着しとけよ?」


じゃぁな、と言って電話は切れた。

え?え?


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