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幼なじみ  作者: 麗華
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2時間近く走って到着したのは、都心からはかなり離れたアウトレットモール。

出来たばかりころは、かなり色んな番組で特集してて、行ってみたいなぁ、と思ってたけど、

車なかったら行けないじゃん!って場所にあるから一度も来たことはない。


「ここなら、会社の奴にはあわねぇだろ?」


それで、わざわざ。

なんで、私に?


平日のアウトレットモールは空いている。

服も小物も季節を先取りしたものから、今の季節に合ったものまでそろっている。

と、いうか今の季節に合ったものは売れ残りらしく、ほとんど半額近い。

売れ残りでも可愛いし、明日からすぐに着られて、来年も着れる。

軽めのジャケットをいくつか選んで、鏡の前に立てば少し離れたところに徹の姿。

店内の女性がチラチラと視線を送っている。


色の深いジーンズに、紫のTシャツ、グレイのパーカー。

シンプルなのに人目を引くのは、徹だから?

なんで、私の側にいるんだろう。


アサミと笑っていた姿が頭をよぎる。

土曜日、何してたの?たったそれだけのことが、聞けない。

私には、関係のない話しだし。




「お前、暗い色好きだなぁ。」


私の手にあるジャケットを見て、徹が呆れたように笑う。

ダークグレーに、カーキ、黒。デザインは可愛いのを選んだが、確かに暗い色ばかり。

明るい色は、苦手なんだよね。


「暗い色ばっかり着ていると、老けるぞ?」


これは?と言って徹が私にあわせたのは、柔らかいクリーム色のジャケットにブルーのカーディガン。

可愛いけど、私には似合わない。

そのまま伝えれば、そうかねぇ、と困ったように笑う。

なんでも似合う人はイイよね、と心の中で舌打ちをする。


「徹もどっか見てきたら? 私の後ついて歩いてもつまんないでしょ? 」


少し考えるようにしていたが、たまにはいいかねぇ、といって一人で納得している。

なにが、たまには、なんだか。


「あそこのオープンカフェ見えるか? 買い物終ったらそこにいるから」


そう言うと返事も待たずにさっさと店を出て行った。

徹の言うこと、逆らう人なんていないんだろうなぁ。



一人になった私は、適当にモールをウロウロ。

『暗い』といわれたダークグレーのジャケットはやめて、同じデザインでライトグレーのジャケットの写真を携帯に収める。

別の店でも、気に入った服を一つずつ写真に撮っていった。

いくつか集まったところでベンチに座って一人再検討。

お財布と相談して、ジャケットと春物のニットを数着購入。

少しずつ明るい色を選んだけれど、まだまだ『春らしい色』には届かない。

それでも、私にとっては大冒険。


がんばった感満載でカフェに向かえば、とっくに買い物を終えたらしい徹は本を読んでいる。

ページから見るに、相当待ってたのかも。


「ごめん、遅くなった」


「いや、読みたい本があったからちょうどよかったさ。

 もう少しで区切りがつくから、待ってろ。」


はい。


紅茶を頼んで徹が本を置くのを待つ。

歩きまわったから正直ちょっと疲れた。

紅茶を呑みながら少し休憩。


徹の横には、私が買ったものの倍は軽くあるだろう紙袋が積み重なっている。

アウトレットとはいえ、すごい。

私の倍以上買ったのに、時間はかなり余ってるって、即決ってことなのかな?

判断力があるって、こと? それとも衝動買い派?

紅茶を呑みながら眺めていれば、本を閉じて徹が笑った。


「俺の買い物、気になるか?」


「あんまり乗り気じゃなかったみたいなのに、たくさん買ったんだなぁ、と思って」


「あんまり買い物行くことねぇからなぁ。めんどくせぇんだ。

 まとめて買った方が楽だろう?」


「そう、なんだぁ。まぁそうかもねぇ」


なんとなく、徹らしい。

買い物袋は、シンプルでセンスのいいブランドのものばかり。

こだわりがないわけじゃないんだろうに、おおざっぱにも適当にも見える買い方。

思わず頬が緩めば、徹が少しムッとしたように紅茶を飲む。

あれ?

徹もこんな顔するんだぁ。

珍しくて、じろじろ見ていたら、睨まれた。


「なにか、おもしろいか?」


「別にぃ。徹も人間なんだなぁ、って思って」


思ったままを言えば、なんだそれ? と少し不満そうながらも笑ってくれた。

うん、やっぱり徹も人間なんだなぁ。

なんだか、完璧に見えていた徹が少し近くなった気がした。




「そろそろ、帰るか」


そうだね、と徹について立ち上がる。

私よりも多い荷物を持って先を歩く徹が、ちいさい頃の徹に重なった。

モタモタとしている私を振り返り、遅れないように待っててくれるのに、絶対荷物は持ってくれない。

こいつ、ほかの女の子にもそうなのかなぁ。

アサミ、には。



モールを出れば駐車場はガラガラ。

もう薄暗い。

今日は三日月。私の好きな、消えそうな月。

三日月、徹と似てるなぁ。

消えそうで、切なくて、でも強い光。

これから、満月になれる強さをもった光。



ぼんやりと月を眺めていれば、私の荷物は徹の手で後部座席に押し込まれた。

あれ?徹の荷物は?


「俺のはトランク。混ざっちまったら困るだろ?」


早く乗れよ、と促されて助手席に乗り込む。少し甘いバニラの香り。

ここに、アサミが乗ったんだろうか……。

私には、関係ない。

そう思うのに、アサミと一緒にいたときの徹の笑顔が頭から消えない。

私の横にいるとき、徹はどんな顔してるんだろう。。。




「どうかしたか?」


暗くなる田舎道を走りながら、徹が問いかける。

さすがに、無言じゃ怪しいよね。

でも、なんて言っていいのかもわからない。


「別に、なにも?ちょっと、疲れたかなぁ」


このぐらいしか、思いつかない。

笑ってくれたけど、ホントはそうじゃないことぐらいはわかってるんだろうなぁ。



帰り道、ファミレスでご飯を食べて、家まで送ってもらう。

家の前で車を下りようとしたけど、聞きたいことが聞けなくて、聞きたくて、足がうまく動かない。


「どうか、したか?」


さっきと同じセリフ。

不思議そうな顔。

きっと、私が聞けば答えてくれるんだろうなぁ。

なんて、答えるんだろう。

私は、どんな答えを求めているんだろう。


「土曜日、ね」


「土曜日、ね。

 一人で、映画見に行ったんだ。」


「あ?」


「その時、女の子と一緒に歩いている徹、見かけた……」


「見かけたんなら、声かけりゃぁよかったじゃねぇか。」


「……そうだね。でも、私が声かけたら女の子嫌だと思ったんだ

 こうして徹の車に乗るのも、きっとその子嫌だと思う」


「考えすぎなんだよ、お前は」


「そう、かな。そうかも?

 でも、考えちゃうんだ。

 私、徹の横に立つの、嫌だ。

 徹の横にいると、どんどん自分が嫌になっていく」


「ふぅん……」


肯定とも否定ともとれる返事。

それっきり、言葉は帰ってこない。

私は黙って荷物を持って車を下りる。

さっきまでうまく動かなかった足は、自然に動くようになっていた。

早く、徹の視界から消えなくちゃ。



部屋に入るまで、自分でも気付かずに息を止めていたみたい。

ドアを閉めた途端に大きく息を吐きだした。

聞きたかったことも、言いたかったことも、あんなんじゃなかった。

まともに顔も見れなかったから、徹がどんな表情で私の話を聞いていたのかもわからない。


『なんだってんだ?俺が何かしたのか?』


そう言った中学時代の徹の不機嫌な声を思い出した。

あの時も、徹の顔が見れなかった。

家族みたいに、親友みたいに、いてくれてたのに。


わかっている。

徹は、何一つ悪くない。

悪いのは、強くなれない私。

聞きたいこともきけない、私。


徹は、やさしい。

強いから、やさしい。

でも、傷つかないわけなんてない。

きっと、傷つけた。

ごめん。


どうしたら、強くなれるんだろう?

私は、何を知りたいんだろう?

私は、何をいってほしいんだろう?


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