ピエロ
「何よ、久しぶりに会ったっていうのに!! いつも仕事仕事って!!」
「しょうがないだろ、僕だって君とのデートを楽しみたいけど、上司から仕事の電話がかかってきてしまったのだから…。わかってくれよ」
デート中に喧嘩をしている一組のカップル。そこへピエロが現れ、数個のボールを取り出し、決して上手いとは言えないジャグリングを始めた。最初はあっけに取られていたカップルも、下手くそなピエロのジャグリングに、いつの間にか怒りも忘れ、「あはは」と笑い出した。
笑顔になったカップルを見て、ピエロもニコリと笑い、どこかへと去っていった。
学校帰りの少年。家路に着く足取りは重い。どうやらテストの点数が悪かったらしい。一人しょんぼり歩いていると、突然誰かに肩を叩かれ、振り返るとそこにピエロがいた。ピエロは手慣れぬ様子で、不格好な風船の犬を作り、少年に渡した。
少年は渡された風船の犬を見て、「ふふふ」と笑い、ピエロもニコリと笑うと、その場を後にした。
雨の降りしきる人気のなくなった公園のベンチにピエロが座っている。ピエロはずっと記憶を失っていた。自分の名前も、出生も、家族も、全て思い出せないでいる。
ただ、何故かピエロは、悲しんでいる人、怒っている人を笑顔にしなければいけない、それが自分の務めのような気がしてならないのだった。
気がつくと、ピエロの目の前に一人の美しい女性が立っており、女性が言った。
「悪魔の呪いでピエロにされてしまったあなた…。やっと見つけたわ」
女性は座っているピエロに駆け寄り、抱きつき泣いた。それが自分の妻である事も忘れてしまっていたピエロは、困惑の表情をしていたが、泣いている女性の為に、やはり下手くそなジャグリングや不格好な風船の動物達を作り、女性に渡した。
女性は涙を拭いながら、「うふふ」と笑い、ピエロも笑顔になる。
いつしか、先程まで降っていた雨も上がり、空には綺麗な虹がかかっていた。