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お姫様の信頼度

 フランを連れ去り、艦隊から無事に逃げ切った俺達は暗礁空域を通って別の町へと移動していた。

 目指すのは島崎がいる西方地域だ。


 その中でも最も規模が大きい都市、群島都市ファイブランズ。そこそこ大きい浮き島が五つ繋がって浮いている場所らしい。


 島によって用途を変えているようで、農業、工業、商業、軍事、居住と綺麗に区画分けされているとか。

 その中の軍事の浮き島が隣国の攻略拠点となっているらしく、島崎を始めとして軍隊が集まっているんだとか。


「以上が西方地域についての情報でございます。毛利様」

「ありがとう。えっと、セバスチャンさん……で良かったよね?」


「はい。セバスチャンです。礼には及びませぬ。執事として当然のことをしたまでです」


 俺に仕込み杖の剣を向けた老紳士の執事が恭しく一礼をした。

 杖の中身を知らなければ、普通に接せられたけど、杖の中身を知ってしまうと、どうにも気になって仕方無い。

 一体何者だこの爺さん。


「セバスチャンさん、何で仕込み杖なんて持ってるんですか?」

「昔、少々剣術をたしなんでおりましてな。ちょっとしたお戯れ、趣味でございます」


 趣味が仕込み杖を振ることか。さすが頭のぶっ飛んだお姫様の付き人だ。十分おかしい人だ。

 演技だと分かっていたとはいえ、お戯れで殺されかけたと思うとゾッとするよ。

 この人もフランから計画を聞かされていて、十分に準備してきたんだろうな。


「セバスチャンさんは今回の作戦のこと知ってたんですね」

「いえ、知らされたのは先ほど船で出港した後です」


「さっきじゃん!?」

「はい。今から空賊にさらわれるから、ついてきて。そんなあまりに突然の申し出に、この老骨の心臓が止まりかけました。ですが、フラン様の目を見て、小生も姫様の執事として本分を達成する覚悟を決めました」


「セバスチャンさんも大変ですね……」


 フランめ、お姫様なのを良いことに人を振り回しすぎだろう。

 この人の苦労が簡単に想像出来そうだよ。

 良い人過ぎるぜセバスチャン。


「いえいえ、この老骨を頼って頂けるだけで幸せでございます。それと毛利様、小生に敬語も敬称も必要ありませんよ」

「え? いいんですか?」


「はい。何せ毛利様はフラン様をめとったお方、フラン様の婿ならば、主とすべしです」

「めとったって、あれは偽装だぞ? ただの演技で――」


「構いませぬ。偽装であれど、嘘から真に変われど、毛利様がフラン様を島崎の魔の手から救ったのは事実でございます。その恩義に報いる身なれば、敬称敬語は不要でございます」


 最初は怖い人だと思っていたけど、すごく情に厚い爺さんだった。

 この人も何だかんだでフランのことをすごく大事に思っているんだな。

 全てを巻き込む暴走台風娘みたいな性格してるのになぁ。なんでこんなに慕われるんだ?


 もしかして、それは俺の第一印象でしかなくて、今みたいにドレスを着てお城にいる時は、お淑やかなお嬢様みたいに過ごすのか?

 仮にそうだとしても、セバスチャンの巻き込み方と言い、この偽装略奪結婚の件と言い、暴走台風娘の方が素だよな。


「毛利君、今失礼なこと考えていますね?」


 目線だけで感じとった!? めっちゃ鋭いな!?


「フランは愛されてるなぁ、って思っただけだよ」

「ふふ、そうですね。私の無理難題に付き合って貰えるほど、愛してくれる人がいてくれて、私は幸せ者です」


「何か一気に腹黒お姫様にクラスチェンジしてしまいそうな台詞だな」

「あら? 一番無理難題に付き合って頂いている旦那様が、私の純粋さを信じて下さらないなんて心外ですねぇ」


「良く言うよ。で、どれが素の性格なんだよ?」

「んー、男装の時の僕と、今のお姫様の時の私を足して、半分にしたぐらいかな?」


「余計分からなくなった……」


 気付いたら全力で振り回されている気がする。

 このお姫様、とんだ食わせ物だな。


 って、そうか。考えてみれば、友達のライカがいるんだから、ライカに聞いた方が早そうだな。初等学校からの付き合いらしいし。


「ねぇ、ライカ。フランってどれが素なんだ?」

「驚くべき事にですね。このコロコロ変わる感じが素です。どれだけこの子の思いつきに振り回されてきたかは、数えるのも大変なので止めちゃいました。意外と十回を超えるあたりから慣れてきますよ」


「えぇー……」

「そういう意味では驚いていますよ? こんなにフランが出会って間も無い人に甘えるなんて、すごく珍しいですから」

「え? 甘えてるんだ。これで」


「はい。心を許していない人には絵に書いたようなお姫様を演じていますからね。無茶言えるなんて随分甘えてるなーって」


 意外だ。こんな甘え方もあるなんて、この世界は変わっているんだな。

 ライカの冗談かと思ったけど、フランが本気で顔を真っ赤にしているあたり、嘘じゃないんだろうな。


「あっ!? ちょっっとライカ! 止めてよ! あ、甘えてなんかないんだからね! ちょっと、からかうと楽しいだけなんだから!」


 わかりやすすぎて、冗談とかネタ振りかと思ったぞ。


 でも、何にせよ、悪戯好きな子だということは分かった。

 悪戯では済まないようなことを何度もやらかしているけど、聞いてみればちゃんと考えはあるもんな。それがまた厄介なところだけど。


「むぅ、毛利君から何か生暖かい視線を感じる」

「気のせいだ。そんなことよりも、目的地は分かったけど、これからどうするよ? とりあえず、島に降りて島崎の船を奪うとか?」


「それは難しいと思う。軍港の警備は厳重だし、さらわれていることになってる私も近づけない」

「となると、島崎の船が飛んだとこを襲うしかない訳だな」


「そうね。それまで暗礁地帯で待機かしら」

「待機かぁ。退屈だなぁ。町に遊びにいけないの?」


 どうせ宝物庫を開けば飛空艇は呼び出せるんだし、島崎がいきなり動いても追いかけられる。

 せっかく異世界の町に来たんだし、食べ歩きとか観光してみたいんだよなぁ。


 修学旅行いけなかった代わりにはもってこいだ。

 フランも良いね。と行く気満々の返事をしたけれど、俺達の出発はセバスチャンによって阻まれた。


「お待ち下さいお二人とも。ただいま傍受した暗号通信記録によりますと、王が戦争準備を進めるために、ファイブランズへと物資を輸送中とのことです」

「あれ? フランの捜索じゃなくて? フランの誘拐って確か王様に戦争させないように混乱させるのが目的だったろ?」


「そちらについては一切の情報が無いですな。フラン様の乗っていたガーディアン号が襲撃されたという情報も無いですし、特別捜索に出ている船はありません」

「おいおい……、まさかとは思うけど、フランが普段からこういう自演誘拐やり過ぎて、もう王様に信用されていないとか?」


 あり得る。この台風のようなお姫様なら、王様を困らせるたり、からかったりするために、狼少年のように嘘を言いまくった可能性がある!


「毛利君はやっぱり失礼だよね」


 確かに勝手に決めつけは失礼だな。ちょっと駄々をこねたり、無茶振りするぐらいで、さすがのフランもそんな大事件ばっかり起こしていないだろう。


「悪い。確かに勝手に決めつけたな」

「そうだよ。誘拐は今回初めてだよ」


「そうか。今回初めて――。ん? 誘拐は?」

「……誘拐も初めてだよ?」


「……他になにやらかした」


 やっぱりダメだこのお姫様……。

 やっぱりトンデモ行為があまりにも普通になりすぎて、驚かれなくなっているだろ。

 可愛く照れ笑いしてるけど、騙されないぞ!


「ちょっとお父様の乗る予定だった船を借りて、お父様の知らない所に置きっ放しにしたり? 島崎の乗っていた船に事故で艦首を突き刺してみたり?」

「何やってんの!? ろくなことしてないな!?」


「戦いを止めるためには、そうするしかないと思って。裏目に出ちゃったけど」

「何なのその無駄な行動力……」


「えへ、行動力だけは自信があるんだよ」

「褒めてない!」


 借りたというよりはきっと強奪だろうし、事故もきっとワザとだ。

 そんなことをこの数年でしでかしたのなら、確かに誘拐事件が起きても慌てないわ。

 どうせまた娘が気を引こうとしていると思われそうだわ。


「どうすんのさ……俺ただ犯罪者になっただけじゃん……」

「落ち着いて毛利君。簡単な話だよ」


「何が簡単なんだよ!?」

「要するに、お父様は私がさらわれたことを信じていないってことだよね。お伽噺に出てくるような空賊王グリードが出てきたせいで、自演誘拐だって思われたんだと思う。なら、信じられるようにしたら良いだけだよ」


「嫌な予感しかしないんだけどさ……一応聞くぞ。どうやって?」

「今こっちに来ている輸送船団を襲っちゃお♡」


 仮にもお姫様が、よくもまぁ、自分の国の輸送隊を襲うっていう発想を出せるもんだ。

 語尾にハートマークをつけるような声になる楽しいイベントじゃないはずだろう。


「あんた仮にもお姫様だろ……」

「だからだよ。そのお姫様をさらった空賊が、今度は軍隊の輸送船団を襲ったら、さすがのお父様も本物の空賊として判断してくれる。それに、輸送船団の物資を奪えば、戦争の準備も邪魔できる。そうなれば、島崎だってこっちに注意を向けてくるよ」


 恐ろしいことに一見すると、これで戦争を止めることと、島崎の邪魔をするという二つの筋が通ってしまう。

 でも、大事なことを見失っている気がするぞ。


「その強奪作戦で、あんたの国の兵士が怪我したらどうするんだよ? 最悪、死ぬことだって」

「大丈夫だよ。そのためにセバスチャンを呼んだんだし」


「え? どういうこと?」

「頼めるわね? セバスチャン」


 当のセバスチャンは深々と頭を下げてかしこまりました。とか言っているし、一体どういうことだ?


「小生、こう見えても砲撃の心得がございます。毛利様の発射する砲弾の威力を人が死なないように調整致しましょう。まぁ、もともと人は魔法に耐性があるので、微調整ですけどね」

「そんなこと出来るの?」


「えぇ、昔、魔導砲の開発に携わったことがありまして、少しだけ心得があります」


 仕込み杖による剣術を趣味と言ったり、大砲の開発をしたことがあったり、よくよく考えてみれば、さっきもさらりと通信を傍受したとか言っていたぞ!?


「セバスチャンはマジで何者なの?」

「しがない執事でございます。ただ、少しだけ長生きをしている分、経験と手慰みが多いだけでございますよ。ほっほっほ」


 サッと一礼をこなしたセバスチャンに、俺は突っ込みを上手く入れることが出来なくなった。

 もうそれが当然みたいな対応で、つっこむ方がおかしいみたいな態度をとられたせいだろう。もう何者なのかを聞くだけムダっぽい。


「ん? ちょっと待って。威力を弱めたら船に穴を開けられなく無いか?」

「お任せ下さい。船に厳しく、人に優しい調整を施します」


「う、うん、お願いするよ」


 出来て当然みたいな反応された。

 これも元の世界との常識の違いかな。考えてみればこっちは魔法の世界なんだし、魔法の効き具合を調整することも出来るんだろう。


 ゲームにも対なんとか特化武器とかあるし、そういうノリなんだろう。


「人に対する心配が無いのなら、俺も本気でやるからな」

「うん、根こそぎ奪っちゃって」


 何か心配したのがバカみたいだよ!?

 お姫様より俺の方がよっぽど国民のこと考えてるんじゃないか!?

 この明るい危険なお願いが本心でないことを祈るよ。


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