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空賊王の戦い

 はた迷惑な空賊船から四発の炎の塊が飛んでくる。

 とはいえ、俺は別に落とされる心配はしていなかった。

炎の塊の弾速が遅いのと、距離があるおかげで見てから十分避けられる。問題はどうやって俺達が反撃して相手を黙らせるかだ。


「フラン、こっちの武器は何があるの?」

「魔導砲は二十式の中型二連装砲二門、それと六十一式五連装動翼爆雷がある」


「動翼爆雷?」

「敵艦に向かって泳いでいくプロペラのついた爆弾だよ」


「あー、魚雷とかミサイルの類いか。それを敵に向けて撃ってくれ。敵艦を撃ち落とす」

「敵を落とすつもりなら、当たらないよ」


「分かった! って、何で撃っても当たらないの? まさかフランも撃ち方しらないとか?」

「砲撃手がこの船にはいないからね。毛利君の声に反応して主砲を撃つことは出来るけど、僕達は手が埋まっているから砲塔の回転が出来なくて、砲口を敵に向けられないんだ」


 右スティック縛りでカメラが動かせない3Dアクションゲームとかシューティングゲームみたいなもんか。

 逆に言えば真正面にだけは撃てる。それなら――。


「当てられるぜ? 多分だけど」

「そこまで言うのなら止めないよ。偽装解除、砲雷戦用意の合図でこの船は戦闘態勢に入るよ」


「オッケー! 偽装解除! 砲雷戦用意!」


 俺の号令で船の甲板が割れて、中から砲台がせり出した。

 せり出した砲身が二門ついた砲台と、五本筒状の爆雷が刺さった発射管は船の真正面を向いている。牙を向いたワニとかサメみたいだな。


 でも、せっかく出てきた砲台を動かして狙いはつけられない。


 でも、別の方法で狙いをつける方法は一つだけある。

 船がこんなに自由に動くなら、その方法で敵艦に穴を開けてみせよう。

 俺は舵を切って船首を敵に向けながら、真っ直ぐ船を走らせると――。


「全砲門撃て!」


 雷鳴のような音が四連続で鳴り響き、赤い火球が敵艦目がけて飛んで行く。

 そのどれもが敵艦に直撃し、プロペラをへし折った。

 遅れて爆雷が敵艦に突き刺さり、船体の中から爆発が起きて穴をこじ開ける。

 どうやら魔導砲は外部を破壊して、爆雷は内側を壊す武器みたいだ。


「嘘!? 全弾命中!? 一体何をしたの!?」


 攻撃が命中したことに対して、フランが信じられないと言った様子で席から立ち上がって驚いていた。


「船体を傾けて敵と軸を合わせて撃った。真正面にしか撃てないのなら、敵を真正面に捕らえれば良いだけの話しだよ」

「なんて繊細な操舵技術……。毛利君の評価を改める必要がありますね。過小評価していました」


「意外と簡単だったぞ? んで、敵の動きは止まったけど、後は逃げれば良いのか?」

「いえ、この際だから、僕をさらう練習だと思って、敵の船を乗っ取っちゃいましょう。この先に必要な路銀も手に入るし、船の素材も手に入るから一石二鳥だね」


 このお姫様、また笑顔でさらっととんでもないことを言ったぞ。

 人さらいの練習と船を乗っ取る練習って何!?

 しかも、路銀も手に入るって金を奪うってことですよね!?


「盗みに入れって!?」

「空賊の戦いは、船による戦いが終わった後からが本番なんだよ。相手の船の動きを止めたら、相手の船に乗り込んで掠奪する。この掠奪がキモでさ。船を完全に壊してしまったら積み荷は奪えない。だから、敵船の船の動きを止めたら白兵戦で戦う必要があるんだ。もちろん、白兵戦で負けたら、逆に全てを奪われる。ほら、あっちの空賊団の人達が武器を手に待っているのが見える?」


「本当だ。剣とか斧とか拳銃とか持って待ってるー。って、アレと戦えだって!? 船ならまだしも生身でやり合えと!?」

「うん。その通り。船で体当たりした衝撃で吹き飛ばし、相手の体勢が崩れた所を強襲するのが教本に書いてある基本だよ」


 そんな基本を伝えられても、武装した敵と戦うための武器なんて俺は持ってない――、あ、持ってた。

 もし、これが思った通りに使えるのなら、確かに勝てそうだ。


 空賊王の宝物庫に登録されているアイテムを見ていると、新しく武器一覧が追加されていた。そこにあった物を見て、俺は戦えると分かった。


 というか、この武器は敵と戦うための物では無い。

 敵を圧倒するための物な気がする。


「体当たりは真っ直ぐ開いた穴につっこめば良いんだな?」

「そうだよ。敵の船は動かないし、恐れず真っ直ぐつっこんで!」


「分かった行くぜ! 突撃だ!」


 俺は自分の船を真っ直ぐ敵の船の土手っ腹につっこませた、

 敵の船体が悲鳴を上げ、骨組みとなっている木がバラバラに砕け散って宙に舞う。

 モニター越しだから飛び出る3D映画みたいだけど、これ目の前で起きてる現実なんだよな!?


「アンカー固定、ハッチ開放、毛利君! 敵の船長を捕らえるんだ!」

「あぁもう! やってやるよ!」


 船室の扉が開き、甲板に出る道が開かれる。

 俺はその道を進んで甲板に飛び出ると、敵の船にあいた巨大な穴が目の前に現れた。

 その穴の中から、傷だらけになった空賊達が武器を振り上げて飛び出してくる。


 数は二十人くらいだろうか。一人一人真正面から戦ったら勝てないだろうな。


 だから、俺は全員まとめて正面から叩き潰すことにしたよ。

 俺の手に入れたスキルとアイテムで、敵を蹂躙してしまおう。


「開け。空賊王の宝物庫」

「うおおおおおお!」

「やろおぶっころしゃああああ!」


 自棄とか自暴自棄とかそんな言葉が良く似合いそうな必死な形相と、怒鳴り声だ。

 数秒後には吹き飛ばされることも知らずに、近づいてくる。

 そんな可愛そうな空賊達に向けて、俺はスキルを使い、何もない空間を歪ませた。


「来い。二十式二連装砲」


 俺の声に応えて、空間の歪みから砲口の直径二十センチの大砲がせり出す。

 飛空艇に搭載してあった主砲を呼び出して、俺は敵を確実に吹き飛ばすために、人へ向けたのだ。


「なっ!? 飛空艇の魔導砲!? やべえええ! 逃げろおおおおおお!」

「発射!」


 空賊達が気付いて逃げだそうとした頃にはもう遅かった。

 敵の船を行動不能にした大砲が火を吹き、空賊達を一瞬で炎に飲み込んだのだ。

 敵船の中は死屍累々。火傷に苦しむ空賊達がのたうち回り、うめき声をあげている。


 シューティングで例えれば、ノータイム、ノーモーション、ノーリロードでロケットランチャー撃ち放題みたいなスキルだな。一瞬で敵が吹き飛んだよ。

 でも、爆風を食らっても生きているあたり、この世界の魔法って人体にはある程度優しいのかな? まぁ、死なない程度でメチャクチャ痛そうだけどさ。


「船長は――あぁ、お前か」


 痛みに苦しむ空賊達の奥に、縁の広い帽子と赤い外套をマントのように羽織った男がいた。

 見るからに船長っぽい。

 そんな船長が頭を抱えて情けない声を出している。


「ば、ばかな。情報では乗組員が一人しかいないただの交易船だって……こんなの夢だ!? このグラール様が!?」


 ん? おかしいな。俺はフランと二人で船に乗った。でも、その情報を知らず、俺が船を手に入れたことを知っているのは、島崎と王様くらいだ。

 どっちだ? どっちが俺をはめようとしたんだ?


「誰の情報だ? ……まさか島崎か?」

「そうだ島崎だ! あいつの使いがさっきいきなり俺達の船を奪って、あんたを殺せば、俺達を無罪放免にするって! あぁ! そうか! 俺達ははめられたんだ! 俺達もあんたも島崎にまとめて殺されそうになったんだ。分かるだろ!? 手を組まないか!? 手を組んで島崎のヤツをぶっ倒そうじゃねぇか! 俺様はグラール! 戦いには自信がある!」


 そうか。島崎は本気で俺を始末しようとしたのか。

 俺はさっきまで殺されるところだったと考えたら、島崎に対する戸惑いが消えた。


 俺も遠慮は完全に捨てよう。

 島崎を倒すために、俺も手に入れたスキルを全力で使い倒そう。

 まずはこのグラールから全てをむしり取る。どうせ犯罪者だ。心は痛まない。


「あぁ、そうだな。俺も島崎に命を狙われているみたいだ」

「なら交渉成立だな!」


「いつ交渉したんだ? 交渉はこれからだぞ?」

「へ? ひぃっ!?」


 俺は身を乗り出してきたグラール船長の目の前に二十センチの砲門を突きつけて、最高の笑顔を浮かべて見せた。


「この船と積まれている物資、それとお前の貯め込んでいる貨幣、貴金属と宝石類を全て渡して、俺の手下になるというのなら命は見逃してやる」

「そ、そんなこと出来る訳ないだろ!?」


「なら、空賊らしく奪うだけだぜ」


 俺は空賊王の宝物庫を強奪モードに切り替えて、船を右手で触った。

 すると、ピコンという音とともに、俺の目の前にあるアイテム欄にこの船と積まれている物資が全て登録された。


・武装船ジークフリート。状態:大破

・十式単装砲四門、短銃三十丁、片手剣二十本、手斧十五本

・貴金属類および二百万ゴールド

・一週間分の食料と水


 十分過ぎる戦利品だ。

 なるほど。空賊っていうのはこうやって相手の船から根こそぎ奪って生きていく職業なんだな。


 んでもって俺のスキルは、敵から奪えば奪うほど俺の戦闘力が強化されていくみたいだな。


 これで俺は大砲を同時に八門展開することが出来るようになったし、剣や斧を空中から敵に飛ばす攻撃や、拳銃を乱射して敵を一掃する攻撃も出来るようになったって訳か。


「お、俺様の船になにをしたんだ?」

「もうお前の船じゃなくて、俺の船だけどね。さてっと、あ、鉄の鎖と手錠があるじゃん。これで縛って賞金と交換してもらおう」


「分かった! 全部やる! だから、それだけはやめてくれ!」

「ちょっと遅かったよ。お前の物は全てもう奪い去った後だから、後取れる物って言ったら懸賞金くらいだ」


 俺はグラールの船の鍵を歪んだ空間から取り出して、グラールの目の前にぶら下げた。


「ほら、船の鍵ももう俺の物だしね」

「なっ!? 何なんだよ!? 何なんだお前は一体!?」


「空賊王グリード、だったかな?」

「で、伝説の大空賊だとぉ!? そういうことかよ……勝てる訳がない……ちくしょう……ちくしょう……」


 そう言うとグラール船長は大人しく鎖に繋がれ、魂が抜けたような様子で座り込んでいた。



 初めての空賊同士の戦いを制して、自分の船に戻ると、フランが手を叩いて出迎えてくれた。


「さすがだよ。まさに空賊王のような戦い方だった」

「うわああああ! 超怖かったあああああ!?」


「あれ? ノリノリだったように見えたけど?」

「それぐらい演技しないと、ビビって動けなくなりそうだった!」


「毛利君って意外と人間臭いんだね。もっと淡々とした冷たい人だと思ってた」

「それは俺の台詞だよ……」


 よっぽどフランの方が人間くささも感情も無くて、ひたすら演技に徹しているような感じがする。

 まぁ、言っても仕方無いし、島崎に身体を狙われている中逃げてきたのだから、ボロを出さないようにキャラにそれぐらい徹しないといけないんだろうな。


 素は出ていないんだろうけど、今はそれで良い。

 グラールの言葉で俺の利害とフランの利害は一致している。

 互いに島崎がいたら安心してのんびり生きていけない。俺達は島崎を倒さないと狙われ続けるだろうから。


「フラン、どうやら俺も島崎に命を狙われているみたいだ。しかも、本人じゃ無くて手下とか、情報を流した犯罪者とかの下っ端から狙われている。道ばたにあった石が邪魔だから蹴り飛ばそう、くらいのノリで俺は見られているみたいだ。そんな俺が島崎を直接叩くにはフランの協力が必要だ。よろしくお願いするよ」

「うん、なら改めて契約しよう。僕は島崎を誘う囮として毛利君の物になる。毛利君は島崎を倒すために力を使う。頼むね、空賊王」


 俺はフランからさしだされた手を握り返し、俺達の契約はここに成り立った。

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