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理由

 皇女フランはその後、何故彼女と国を奪ってくれなんてお願いをしたのか、順を追って説明してくれることになった。

 順を追っての説明のはずだった。


「僕は島崎と結婚なんてしたくない」


 残念ながら、最初から意味が分からなかった。


「ちょっと待って。いきなり意味わからないんだけど……」

「島崎と結婚したくない」


「分かった。お姫様にとっては大事なことかも知れないけど、二度も言わなくて大丈夫。それは分かっているんだ。ただ、ちょっと面食らっただけで。そう、そもそも信じられないんだけど、島崎が君に求婚しているの? あの島崎が?」

「そうなんだよ。一年前くらいにこの世界にフラッと現れて、戦争していた敵国を潰して、その見返りに僕との結婚を要求してきたんだ。君のような人は僕にこそ相応しいとか、気持ち悪いことを言ってね」


「あの優等生だった島崎がそんなこと言うなんて信じられないけど……。でも、さっきの態度を見れば本当のことなんだろうな」


 島崎がとった人を駒のように扱い、いらない俺をあっさり切り捨てた冷酷な態度を思い出した。あれほどの冷静さとあの巨大な船があれば、戦争くらい本当にやって勝ったのかもしれない。


 一度こちらの世界に来ていると言っていたのも、フランの言っていることと一致する。


 でも、それなら勝手に島崎一人でやれば良いのに、何で俺達が巻き込まれるんだ?

 その理由は意外とあっさりした内容だった。


「その時、お父様の提示した条件が次の戦争でもこの国を勝利に導くことだったんだよ。それに対して、島崎は次来る時にコマを連れて来るから、もっと素早く終わらせられるって言っていた」

「それで俺達が呼ばれたのか? というか、王様の出す条件も無茶苦茶過ぎるだろ?」


「島崎はお父様の感覚を狂わせるほど強かった。敗戦が確定していた戦争を一日で押し返し、一週間で逆転した。島崎がいれば戦争に絶対勝てる、そう思われたお父様は狂ってしまった。島崎の言葉通り戦争をさせるために重税を課し、軍艦を増やして、英霊を宿す君達を待っていた。そして、その予定通り君達が来たから、多分明日には隣国に向けて宣戦布告する」

「今日の明日って無茶苦茶じゃねぇか!? 俺達の意思は完全に無視かよ! って無視されてたな!」


 娘の頭がイっていると思ったら、親は親で頭のネジが吹っ飛んでいた。大丈夫かこの国!?


「うん、無茶苦茶だよ。だから、僕も無茶をしないと島崎とお父様に勝てない。だから、一つだけ召喚カードに細工をしたの」


 その細工をされたカードを引いてしまったのが俺だったらしい。

 皇女様の言い分をまとめると、島崎が結婚と身体を要求してきたから断りたい。でも断ってくれるはずのお父様は皇女様の身を使って、さらに島崎を戦争のコマとして使いたいから、頼りに出来ない。

 だったら、島崎と同じように異世界からやってくる人間にワンチャンス賭けたというところか。


「戦争狂になった父親を止めたいのは分かったけど、島崎と結婚するのが嫌なのはなんで?」

「占領地で捕らえた娘を自分の奴隷にして、夫や恋人の目の前で欲望をぶつけるような人だよ。そんな人を僕の夫にして、次の皇帝になったら、さらに暴走するのは目に見えている。この国の未来を潰す訳にはいかないから、僕は島崎と結婚しない」


「ちょっと待て。島崎のやつ、マジでそんなこともしてるのかよ……」

「本当だよ。島崎のスキルはあの人よりも自分が下にいると思ったら発動するの。戦争で負けた相手は自分が島崎よりも下だと思うから、国のトップだって意のまま。敗戦国のお姫様が彼の船の中にいるんだけど、一度も部屋から出ないように命令しただけで、本当に一年間外に出てこないままになっているよ。中で何が起きているかは考えたくないけど、悲鳴が部屋の中から聞こえるんだってさ」


 一瞬、背筋がひやりとした。島崎が俺に対して興味を失わなければ、一生操り人形だったってことか。

 ということは、他のクラスメイトはもう島崎に意識を奪われたままってことを考えると、ラッキーだった


「逆に言えば、島崎をコマとして使う私やお父様は立場が上だから操られていない。でも、島崎が皇帝になればこの国の全てを支配出来る」


 支配スキルの発動条件に俺も心当たりがあった。

 島崎はスポーツも勉強も万能で、生徒会長までやってりますほどのリーダーシップを持っている上に、異世界転移が起きた時も一人だけ冷静沈着に対応していたので、皆の信頼を大きく買った。

 そんな彼には敵わないと思った負い目のせいで、俺も島崎のスキルに引っかかったんだ。

 でも、仕組みさえ分かれば次は引っかからない。

 とはいえ、もうそもそも俺って狙われてないから、次も無いはずなんだけどな。


「女の人が半分くらいいたよね。島崎の奴隷にならなければ良いけど……」

「そんなことを――」


「するような人だよ。僕のメイド達も何人も泣かされたから。特に恋人や恋をしている人が狙われた。お願いだ毛利君。僕をさらってこの国を助けて欲しい。そうすれば、君とともにこの世界にやってきた人達も助けてあげられる」

「島崎って寝取りの趣味でもあんのか……」


 島崎の目的が本当にフランなら、俺がフランをさらえば血眼になって探しにくるはずだ。

 あの巨大な竜みたいな船に乗って、手加減無しで襲いかかってくるだろう。

 なら、さっさとフランの計画を漏らして、俺だけ助けて貰うなんて虫の良い選択肢もあるんだけど――。


「分かった。皇女様をさらう空賊か。やってやるよ。まずは貰った船に乗ってフランをどこかに運べば良いのか?」


 俺はあえてフランの味方につくことを選んだ。

 あの、人を石ころ以下みたいに扱った島崎と王様に一泡吹かせたい。

 俺はそんな負けず嫌いな心に従った――のは良かったんだけど。


 俺の意思表明に笑顔になったフランがヤバイことを口走った。


「ありがとう。まずは近くの町に行って欲しい。その後、僕は慰安訪問のために軍艦に乗って別の町にまた移動する。その船の航路を教えるから、僕をど派手にさらって、僕の身柄を毛利君のモノにしちゃってよ。僕の乗る軍艦一隻沈めるつもりで攻めて良いからさ」


 まいったな。選択肢を間違えたかも知れない。

 この皇女様やっぱり頭おかしいわ。目的のために自分の命も身柄も完全にコマ扱いしてやがる。


 でも、この頭がおかしいお願いを、俺は授けられた力で本当にこなすことになった。


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