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エピローグ

 島崎を倒した後の話をしよう。

 王様は戦争を周りの国にふっかけようとしていたけれど、やっぱり島崎のスキル支配下にずっとあったみたいで、自分が何をしてきたのか、一年単位で覚えていなかった。

 フランから事情を説明されると青ざめた顔になって、ひたすら俺達に頭を下げて許しを願った。

 思った以上に腰が低くて拍子抜けしたぐらいだ。


 とはいえ、王様という立場に立っているだけあって、心は強かったらしい。

 島崎に屈服するか劣っていると思う気持ちが、島崎のスキルにかかる鍵だったが、王様は屈服しなかったそうだ。

 島崎の勝利は国の勝利。国の勝利は民の勝利。という感覚だったらしく、島崎がどれだけ強かろうが、それは国と民の物であって、王はその力を用意出来たことを誇っていた。


 だから、王様は別に島崎に自分が劣っているとは思わなかったそうだ。

 そのせいで島崎に暗示をかけられて、攻撃性を刺激され凶悪になったんだとか。


 おかげで島崎も国民や兵士達を一気に支配することは出来なかった。とはいえ、狂っていた状態で島崎が戦争を成功させたら、その時は完全に屈服したとなると、俺達のやってきたことは間違いじゃなかった。


 それとは別に、もっと拍子抜けしたのは、王様があっさりと俺達クラス一同を元の世界に帰すと言ったことだろう。

 二度と元の世界には戻れないと思っていたから戻れるのは驚いただけじゃない。


 俺達は飛行機事故にあった。でも、その飛行機事故自体は召喚術による影響で、もとの世界に送り帰される時は、飛行機事故がなかった時間まで戻せるそうだ。


 つまり、この世界で起きた大冒険は一種の夢落ちに近いモノになる。

島崎は記憶を残していたと言っていたけど、実は彼も現実世界ではこの世界の記憶をほとんど持ってなかったらしい。


 精々、こんな夢を見たかな、くらいの曖昧な記憶しかなくて、あくまでこっちの世界にやってきた時に、記憶のフタが外れて思い出しただけなのだそうだ。


 そういう訳で、俺もきっとこの世界のことを忘れるんだろう。

 短い期間だったけど、濃厚で振り回された日々を忘れるなんて信じられなかったけどさ。そういうものだと言われたら、きっとそうなんだろう。


 だって、あのフランがやけにしおらしくそう言ったんだから。


 そして今、俺はフランに異界送りの儀式の前に、二人きりの遊覧飛行に誘われて、二人きりで空の上でゆっくり飛んでいた。

 町が一望出来る高度にまで達すると、俺達は船を止めて甲板に出て、太陽の光と柔らかな風を浴びながら話を始めた。


「ソラともお別れなんだね……」

「だな。フランといたおかげで退屈しなかったよ。修学旅行よりも楽しかったかもな」


「そ、そう? そうなんだ。私と一緒にいれてソラも楽しいんだ」

「いやー……散々振り回されたからなぁ。あれで退屈なんてしたらどんな壮絶な人生だよって話しだ。命が何個あっても足りなかったぜ」


「あ、あれぇ? もしかして、けなされてる?」

「ま、楽しかったのは本当だよ。色々あったけど、フランに会えたのは良かったよ」


 フランが一瞬不安げな顔をしたけど、すぐに嬉しそうにはにかんだ。

 うん、やっぱり、かわいいな。笑顔だけ見ればさすがお姫様だよ。

 楽しそうな時の笑顔も、無茶振りする時のどや顔も、忘れられないお姫様だ。


「ねぇ、ソラ、最後にやり残したことある?」

「んー、そうだな。観光なら昨日したしなぁ」


「それじゃあ、私のやり残したお願いを聞いてもらってもいい?」

「今度はどんな無茶振りだ?」


 俺は冗談めかしてそう言うが、フランは真剣な表情で俺の目を見てきた。

 一瞬でこれはヤバイパターンの前振りだと経験から察した俺は、慌てて目を反らそうとしたけど遅かった。


「このまま、二人きりでどこか遠くに飛んで行って、二人で生きてみない?」

「相変わらず無茶を言うなぁ……」


「うん、今のは冗談。こっちが本当のお願い」


 そして、相変わらず俺を振り回すのが好きみたいだ。

 全く今度はどんな無茶を言うつもりだと思ったその時だった。


「ん? んっ!?」


 正面を向くと、視界いっぱいにフランの顔が映った。

 そして、そのままフランの顔が近づいて来て、唇が触れあって、俺達はそのまま数秒間固まった。


「フ、フラン?」

「誓うよ。ソラ」


「え? え?」

「私はソラを忘れない。ずっと忘れない。病めるときも健やかなる時もソラを忘れないから……。だから……」


 フランの言葉の最後は涙混じりだった。

 やり残したことの意味を、俺はフランの言葉から理解した。

 これは結婚式の誓いの言葉だ。

 島崎のための罠だとしか思っていなかったけど、実は本気だったのかもしれない。

 本気で俺を好きになってくれたんだとしたら、俺は何をしてあげられるんだろう。

 もうこの世界から消える俺は、何を残してあげられるんだろう。


「開け、空賊王の宝物庫」


 俺は船の甲板を埋め尽くす数の花束を呼び出した。

 空に現れた花は風に吹かれ、色とりどりの花びらが空で舞い踊る。


「俺も誓うよ。フラン、何かあった時はいつでも呼んでくれ。俺はお前の空賊王なんだから」

「ソラ……ありがとう」


「それと、最後にやり残したことを思い出した。ブーケトスやっとこうぜ」

「飛空艇でど派手にだね」


「あぁ、大砲に詰めて、街中にぶっ放すぞ」


 地球からの転移者が帰った日、王都には花の風が吹いた記録が残った。でも、誰もその意味を知らない。一緒にばらまいたフラン以外は。

 そして、別れがやってくる。

 転移の魔法陣に乗せられた俺の前に、フランが別れの挨拶にやってきた。


「さようならとは言わないよ。またね。ソラ」

「あぁ、またな」


「さすが空賊王だね。ソラはとんでもないものを奪っていったよ」

「へ?」


「何でもない。また会おうね」


 フランはそう言って笑って手を振った。



 やけに長い修学旅行が終わって家路についた後、何故かやけに身体がぐったりとしていた。

 着替えの入った重い鞄を引きずりながら歩いていたら、横から突っ込んでくる車に気付かないくらいに、意識がもうろうとしていたんだ。

 あっさり車にはねられ、死んだと思ったら――。

 全部思い出した。


「また会ったね。ソラ」


 仰向けに倒れた俺の目の前に、青い空と一人の少女が映り込む。


「フラン!?」

「呼び出しちゃった」


「え? え!?」

「今から家出するところだから、家出につきあってよ」


「はああああ!?」


 再転移に驚くよりも、やっぱりフランの行動に驚かされた。

 これは空賊王になった俺と、おてんばなお姫様が出会った最初の事件の記録だ。

 そして、この後も俺達の記録は続いていった。


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