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結婚式

 王都を占領した俺達は順調に結婚式の準備を進めていた。

 王城を占拠したというのにお咎めがないのは、フランが皇女であったのと、セバスや船長さん達のおかげで、兵士達を丸め込んだからだ。

 大義はフランにあり。なんて言っていたけど、大義のために振り回される人はかわいそうだなぁとも思えた。

 ちなみに逃げた王様は軍港で網を張って貰っていたセバスに捕まっていた。

 フランと二人きりで動いたのは、王様や島崎の手下が逃げた時に捕まえられるようにするためだったんだ。

 その作戦通り、王様は無事に捕まえられて、今は部屋に軟禁させてもらってる。

 そして、俺はフランと一緒に居室にいる。

 ゲストのための部屋にはタンスなどの家具一式と大きなベッドが備え付けられていて、俺はそこでフランと向き合っていた。


「なぁ、フラン、まだするのか?」

「ダメだよ。ほら、もう一度」


「……もう止めようぜ。見ろよ。ベッドの上が俺のでいっぱいじゃねぇか……」

「ダメだよ。男の子なんだから、女の子を満足させないと」


「後何回すれば良いんだよ……」

「私が満足するまで。ほら、もう一度」


 フランのワガママに、俺はため息をつくと、扉がそっと開かれた。

 何だろうと思って振り向いていみると、セバスチャンがそっと床に小瓶の乗ったお盆を置いている。


「おや、気付かれてしまいましたか。これは失礼致しました」

「それ何?」


「小生、以前、薬師の店で働いたことがありまして、その時の記憶をもとに作った精力剤でございます」

「俺に何をさせるつもりだ!?」


「おや? 外から話し声を聞いた時には世継ぎを考え、早速ナニをいたしているのかと思ったのですが、違いましたか」

「服だよ! 結婚式で俺が着る服!」


 セバスチャンの勘違いに俺は大慌てでベッドの上を指さした。

 ベッドの上は白い礼服でいっぱいになっていて、もはやベッドの模様なんかは見られないほど服が積み重なっている。


「あぁ、なるほど。フラン様のお気に召す服がなかなか見つからなかった、という訳でございますね」

「そうだよ。着せ替え人形になってただけだ」


「そうでございましたか。これは大変失礼いたしました」


 ものすごくガッカリした様子でセバスチャンが頭を下げた。

 こんなにしょぼくれたセバスチャンを見るの初めてかもしれない。

 大人で落ち着いた執事って印象しかなかったもんな。

 そんな俺と同じように、いや、俺以上にフランも驚いていた。


「セバスも間違えることがあるのね」

「その驚き方はどうなんだよ……」


 さすが万能執事さんだ。


「では、精力剤はこちらに置いておきますので、初夜にでもおつかい下さい」

「セバスチャアアアアン!?」


 そっちのサポートまではいらないぞ!?

 なんなの!? 勘違いで済んだ話しじゃないの!?


「というか、フラン! お前も黙ってないでつっこめよ!」

「んー、私はつっこまれる方だし? ほら、みんなを振り回す方だからさ」


「一瞬ドキッとした俺の男心を返せ!」


 俺の理性よ、ありがとう。

 偽装結婚の上に、偽装結婚式とは言え、何か偽装じゃ済まないことになりそうな気配に、俺は頭を抱えた。

 そんな俺を放置して、フランがセバスチャンに次の服を用意するよう指示を出している。

 というか、何でフランじゃなくて俺が恥ずかしがっているんだろうなぁ。

 そう思って俺が顔を上げると、フランは不思議そうに小瓶を眺めていた。


「それにしても不思議だよねー。何で一緒に寝るだけなのに、元気が出る精力剤がいるんだろう?」

「さぁ……、どうしてだろうな……。俺も分からないよ……」


 予想以上の純粋さに俺はもう一度頭を抱えた。



 玉座の間と言われる部屋で俺達は結婚式を挙げることになった。

 この国が崇拝する神話の絵や像といった美術品が並び、豪華絢爛な玉座が部屋の奥に鎮座している。

 手順は意外と日本のモノと似通っているところもあって、何とか覚えられた。

 まずは騎士に連れられて入場、聖職者の前でフランと合流し、聖職者から祝福の言葉を貰う。

そして、最後に誓いの言葉と口づけを交わし、フランから王の証である冠を被せて貰って、共に玉座に座る。

 ざっくり言えばそんな感じだ。

 んで、今俺は騎士に扮したセバスチャンに連れられて、玉座の間の前に立った。


「毛利様、フラン様のドレス姿はもうご覧になりましたか?」

「いや、見てないな。俺が選ぶの? って聞いたら、絶対見ちゃダメって怒られた。別に良いけど理不尽だ」


「ほっほっほ。毛利様はフラン様に好かれておりますな」

「どうなんだかな」


 俺達は偽装の関係から始まって、今回だって島崎をはめる罠を仕掛けるための結婚式だ。

 結婚式だって浮かれていちゃダメだ。そもそも俺とフランは恋人ですらない。


「さぁ、開けますよ。毛利様」


 セバスチャンが扉を開くと、既に中にはフランがいた。

 結婚しよう。すごいだろ? あれ俺の嫁なんだぜ。


「毛利様、早く入って下さい」

「あ、あぁ、そ、そうだな」


 メチャクチャ動揺して動けなかった。

 フランのやつ、ビックリするほど綺麗だったんだ。

 落ち着け俺、これは演技、島崎を誘い出すための罠だ。


「毛利様、手と足が同じです」

「わ、分かってる」


 全然落ち着いていなかった。

 俺は深呼吸をするために一度立ち止まって、改めて歩き出した。

 フランの隣に立つと、結婚式が始まって、祝福の言葉が述べられ始めた。

 そして、ついに一番の山場がやってくる。


「では、新たなる王よ、王妃に誓いの口づけを」


 その言葉で俺はフランのベールをとり、彼女と正面から向き合った。

 ハッキリ見えたフランの顔はやけに嬉しそうに笑っていた。

 まるで、本物の花嫁が口づけを待っているかのように、期待に満ちた目をしている。

 本気で動揺してるのは俺だけか!?

 これでバカにされ続けるのも悔しいし、ええい、ここは男を見せてやる。

 と思ったその時だった。

 大砲の音が王都の上で鳴り響いた。


「島崎が来たな」

「だね。フウコの合図だ」


 島崎の艦隊が王都のある島に接近したら空砲を鳴らせと伝えてあった。

 加速持ちの橘さんが偵察をすれば確実に島崎より早く飛んで、こちらに戻ってくる。

 そうして生まれた時間を使って、俺達は一気に王都を離れる。


「作戦開始だ。行くぞ!」


 俺達は結婚式用の衣装を脱ぎ捨て、戦闘用の動きやすい服に着替えると、窓から王城の外に飛び出した。

 そして、空中に浮かんだまま俺は船を呼び出し、王都から全速力で逃げ出した。

 もちろん、足止め用に橘さん達の船は王都に留めてある。

 俺達と島崎の決戦の場所は障害物となる岩が一つも浮かんでいない見晴らしの良い空域だ。

 小回りが利く俺達の空族艇は本来なら暗礁地帯みたいな所で戦うべきなんだが、今回はちょっとした作戦がある。

 その作戦を実行するには広い場所が必要だったんだ。

 さぁ、龍狩りを始めよう。


「開け! 空賊王の宝物庫!」


 ギャラリーのいない空の闘技場に、俺は黒い(ふね)を解き放った。


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