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結婚式の真意

 島崎の包囲から逃げ出した俺達は暗礁地帯のアジトに戻っていた。

 ちなみにこのアジトの周辺はかなり飛ぶのが面倒で、宇宙のデブリ帯とか、土星の輪っかみたいに無数の岩が浮かんでいる。おかげで周りがかなり見えづらくて、隠れるには素敵な空域だった。


フランの一言で俺達はその空域の岩に建設された仮設テントみたいな建物に集めらたんだ。参加者は四隻の船の船長で、俺と同じく地球から来た橘さんもいる。

 そんな俺達はフランの提案した無茶に早速驚愕していた。


「みんなに私とソラの結婚式の準備を手伝ってほしいの」

「「結婚式!?」」


 無茶振りになれているライカとセバスチャンは声を大きくしたぐらいたったけど、無茶振りに慣れていない軍人さん達は大人とは思えない驚き方だ。

 というか、涙を流すわ、嗚咽まで聞こえるわ、大変なことになっている。


「あぁぁぁ……フラン様が……フラン様がぁぁぁ……我々の元からついに巣立ってしまうのかああああ!」


 娘を嫁に出すお父さんより酷いことになってる気がするよ。

 そして、橘さんも突然の展開について来れないのか、フランに詰め寄って――。


「結婚式するって言った?」

「うん、そう言ったよ」


「そ、そっか、結婚式かー……。うわぁ……考えられないなぁ……」


 橘さんは驚きのあまり手をふるふると振るわせて、声も段々小さくしぼんでいった。

 そうだよな。これが正しい反応だよな。いきなり結婚式の準備をしろと言われても、意味分からず聞き返しちゃうし、考えられないよね。


「ブーケトスはあるのかな!?」

「もちろんあるよ」


「私最前列に並んで良い!? 絶対キャッチするからさ!」


 橘さんはノリノリだった。


「おいいいい!? 橘さん!? なんでそんなにノリノリなの!?」

「だって、面白そうじゃん。異世界の結婚式に参加するなんて、普通できないしさ!」


「ポジティブ過ぎる!?」

「というか、そもそも毛利君の結婚式でしょ? 一生に一度の思い出になるんだから大事にしないと」


「この世界に来てから、何もかもが一生に一度の経験になってるよ……」


 この結婚式だってただの結婚式じゃない。

 だって、あのフランが普通の結婚式をする訳がないだろう? ブーケトスする余裕なんて多分ないぞ。

 フランはまだみんなに説明していないけど、ちゃんと狙いがある。


「この結婚式で島崎を誘い出し、彼を討ちます」


 フランが真意を告げるとざわついていた部屋が一気に静まり帰った。

 そう、この結婚式はただの結婚式じゃない。

 俺からフランを奪い取りたい島崎をおびき出すための罠だ。

 あいつは俺達の関係が熟したら奪いに来ると言った。

 だから、俺達が結婚式を開けば島崎は必ずやってくる。

 永遠の愛を口づけで誓うなんてイベントがあったら、寝取りに来ること間違い無し。


「作戦を説明するね。結婚式会場へ島崎達が進行を確認したら、私達は結婚式会場を脱出し、一度逃げる」


 逃げるという言葉をフランが口にすると、橘さんが手をあげてはーいはーいとアピールを始めた。


「フウコ、どうぞ」

「せっかく誘い出したのに逃げるの? そこで真正面から正々堂々と戦うんじゃなくて?」


「私もその方が好きなんだけどね。それだと島崎は罠なんて丸ごと潰してしまうような大部隊を連れてくるだろうから、小細工ごと木っ端微塵にされちゃうよ。真正面から正々堂々戦ったら私達は絶対に勝てない」

「な、なるほど。でも、逃げてどうするの? 追ってくる数は変わらないよね?」


「そうだね。でも、私達は島崎の船一隻だけを相手に出来るんだ」

「どういうこと? 島崎がわざわざ一隻だけで来ないって言ったのフランちゃんだよ?」


「ソラが既に島崎の船を奪っているんだ。だから、あいつの船だけを逃げた先で召喚して、船団から引き離して、孤立させることができるんだよ。そうすれば五対一。私達にも正気があるって訳」

「はへー……フランちゃんすごいねぇ」


「ふっふっふー」


 フランがどや顔しながら笑っているけど、その作戦を立てたの俺だからな。

 お前は橘さんと同じで、誘い出して真正面から殴り合うって言っただけだからな。

 なんて真実はとても言い出せる雰囲気じゃなくなった。

 船長のおっさん達が涙を流すほどに感激しているんだから。


「あのフラン様が策を考えたぞ……」


「自分の身を案じず、他人の迷惑を顧みないフラン様が……立派になられて……」

「我々もついに胃の痛みから解放される訳ですな……」


 フランの評価って一体どうなってるんだろうな……。

 見ていて気の毒になってきたから本当のことは黙っておこう。

 ちなみに俺も知っている作戦の内容はここまでなんだ。


「んで、フラン。その島崎をおびき寄せる場所はどこにするんだ?」

「王都の城にしようと思っているんだ。今は軍隊をファイブランズ地方へ向けているし、防衛は手薄のはず」


「王都……? 王都ってことはあの王様と戦うことになるんじゃないか!? 親父さんと戦うってことだぞ?」

「うん、でも、もう躊躇していられない。ただ物を奪っても、時間稼ぎにしかならないし、民を苦しめることになった。それなのに、お父様は戦争を止める気が無いし、島崎を止めようとはしない。だから、ちょっとこらしめてもいいかなって」


「もしかして、意外と根に持ってる? 誘拐されたのに全然心配してもらえなかったこと?」

「そ、そんなことないよ? 多分……」


 顔を赤らめて、言葉も詰まるところをみると、多分ちょっとは根に持ってるんだろうなぁ。

 にしても、これ実情を知っている人間からすると壮大な親子喧嘩だよな。

 お互いに国を思っての行動だろうに、こんなにすれ違うんだから、王様の一族も大変だよ。


「ソラ、私は君にこの国を奪ってと言ったけど、この作戦で私のお父様から玉座を奪い取って欲しい。私が女王として、ソラが王として、この戦争を止めよう」

「本当にそれでいいんだな? そうなったらもう流れは止められないぞ」


「うん、お父様と島崎、ここで二人を止めてみせる。戦争の悲しみなんて、もうこの前の戦で十分だよ。自分と関係の無いところで人が消えていくなんて、もうごめんだから」


 フランの覚悟に揺らぎはない。

 彼女の言葉は紛れもなく彼女の本心なんだろう。


「みんな。これが私の最後の無茶です。お願いします。力を貸して下さい」


 そう言ったフランが頭を深く下げた。

 初めてこんなにしっかりとしたお願いをされて、俺だけじゃなく船長達も目を丸くしている。

 フランのやつ、ちゃんとお願いすることも出来たんだな。

 でも、俺を始め、セバスチャン、船長達はフランのお願いに笑っていた。


「ハハッ、良く言うぜ。どうせまた次から次に無茶振りするくせにさ」

「ほっほっほ、毛利様の言うとおりですな。フランお嬢様はジッと大人しくしていられる方ではございませんので」


「姫様が無茶をしても、姫様の身をお守りするのが我々兵士の役割ですぜ」


 俺達のリアクションがフランの思っていたのと違ったのか、フランは戸惑いつつも信頼されていないことに頬を膨らませた。ちょっとかわいい。


「ちょっとみんな酷くない!? 何か私がトラブルメーカーみたいな扱いされてるんだけど!?」

「なんだよ、自覚無かったのか?」


「むぅ、ソラはやっぱり失礼だね」

「正直者の常識人だと言って欲しいね。フランの相棒にはピッタリだろ?」


「常識人が私の相棒になんてならないよ。ソラも十分変わり者だって。ふふ」

「今までで一番ショックな言葉だぜ」


 フランも笑顔になって、俺達は大きな戦いの前だというのに全く気負っていなかった。

 王位強奪作戦。

 島崎を誘い込む罠を作るための戦いは、こうして始まった。


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