フランの心
今の所作戦は俺の思い通りに動いていて、順調そのものだ。
唯一思い通り動かないのはフランくらいじゃないだろうか。
なんて、考えたらフランが甲板に飛び出してきた。
「ソラー!」
「フラン、どうよ、ちゃんと戻ってきたぜ」
「無茶し過ぎ! プロペラに巻き込まれたらバラバラにされちゃう所だったんだよ!? 無事で良かった……」
「え、そっち? 俺はてっきり脱出の時の砲撃に巻き込まれたことに怒ったかと思ったよ」
「あぁ、そっちは別に心配してないよ? 別に船がバラバラになっても自力で空を泳いで逃げるから」
「相変わらずたくましいお姫様だこと……」
たくましいというか、自分の身体を粗末に扱い過ぎだろう。
でもまぁ、落下死だけは無い世界だし、船が落ちたり、船から落ちることくらいは何ともないのが常識なのかなぁ。
相変わらずこの世界の常識にズレを感じるよ。
やれやれと思いながらロープを解いていると、フランがぽつりと小さく呟いた。
「私は……別にたくましくなんてないよ。ただ、怖いだけだから」
「怖い……のか? 無茶ばかり言うのに?」
恐れ知らずなんて言葉じゃ、収まりきらないくらいの跳ねっ返り娘だと思うんだけどな。
「私は、私と関係無いところで人がいなくなっていくのが怖いよ」
「島崎……のスキルのこと?」
俺が聞き返すとフランは小さく頷いた。
「うん、気がつけばみんな人が変わって、私の周りから消えていった。それに戦いで命を落として戻ってこなかった。でも、私が無茶すれば、私の周りに人は残ってくれた。上手く行く無茶をしている間なら、私は誰も失わずに済んだから」
「それが理由でこんなことを始めたのか?」
「そうだよ。だから、怖いんだよ。私じゃなくてソラが無茶してるのが。私の無茶振りで私が一番危ない目に会うんじゃなくて、ソラが自分でしちゃうから、ソラが一番危ない目にあってる。そのせいで、私の前からいなくなるんじゃないかって」
このお姫様は出会った時から頭がおかしいと思っていたけど、やっぱりおかしいな。
本当におかしいよ。こんなおかしい発想するやつを可愛く感じたんだから。
「フランって意外に、いや、意外でもないか。やっぱり頭のネジが何本か抜けてるよね」
「……ソラは意外と失礼だよね」
「失礼なもんか。人の気も知らないフランの方が失礼だって」
「むぅ、何が不満なのさ?」
「そのまんまの言葉を返すよ。他人が無茶していなくなったり、怪我するのが怖いって思うのなら、フランが無茶することで俺達だって心配するだろ。その気持ちをもうちょっと気にかけて欲しいよ」
「でも、私は皇女だよ。国のために出来ることをしないと。そうじゃなきゃ私の国を守りたいって言葉は綺麗事で終わっちゃう。口先だけなんてなりたくない」
その上、意外と意地っ張りだからタチが悪い。
「だったら、もっとちゃんと自分を大事にしろよ。自分を捨てて国とか他人を守ることが仮に出来たとして、お前がいなくなったら残された連中はどうなる? 何も出来ずに終わるぞ」
「それは……」
「綺麗事にしないことは凄いよ。だから、俺はフランの味方を続けている訳だしさ。みんなもそうだと思うぞ。フランは自分の言ったことにすごい真っ直ぐだからさ。でも、それとフランが無茶するのはまた別だぞ」
「……ありがとう」
フランがあまりにも素直だし、照れているし、なにこれ面白い。
暴走台風娘だと思っていたけど、言われて見れば実は結構色々考えて動いていたっけ。
そう思ったら、恥ずかしいけど、ちゃんと言わないといけないことがあったなぁ。
「フラン、心配してくれてありがとな。でも、これからも遠慮無く頼ってくれ。俺はフランの味方で居続けるからさ」
俺の言葉にフランは目元をごしごし袖でこすると、とても明るい顔を見せて、胸をはった。
「ソラったら、私の心でも盗む気? さすが空賊王のグリードさん。欲張りだね」
「あー……もしかして、くさかった?」
「ううん、格好良いよ。本物の空賊王みたいだった。ほら、ブリッジに戻るよソラ。あ、後さっきの話は恥ずかしいからみんなには内緒ね」
そう言ってフランは俺の手を引いて、船の中に連れて行った。
正直言って心を奪われたのは俺の方かもなぁ。
だって、さっきの笑顔をずっと見ていたいと思ってしまったんだから。
「ねぇ、ソラ、私の秘密を知った以上、私の無茶にこれからも付き合ってもらうからね」
「今のがなければ惚れてたよ」
せめて、常識の範囲内で頼って欲しいよ。
俺が助けると思って、またフラン自身が危ない目に会う無茶をしないことを祈りたい。
「えー!? せっかく面白いこと考えたのに! これなら島崎は絶対にひっかかるって!」
嫌な予感がするなぁ。だって、フランだもんなぁ。
「一応聞くぞ。何するつもりだ?」
「ソラ、私と結婚式しよ」
「はぁ!?」
結局フランはフランで、振り回されるのは俺だった。




