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島崎との交戦

 船に戻った俺達は一度アジトで作業をしてからファイブランズへ戻ってきた。

しかも、船の偽装をといて臨戦態勢で居住地区上空へ侵入しようとしている。

 もちろん、武装した船が島内部へ入ることは許されない。

 でも、俺達は空賊だ。そんなこと知ったことじゃない。

 港湾警備隊が俺達に止まるよう警告するけど、無視して港を突破する。

 そのまま居住地区の上空へと侵入して、俺はマイクをオンにした。


「怒れ! ファイブランズの住民達よ! 皇女フラン=ドレイク=ギリスが島崎の悪行を暴いたぞ!」


 同時に大量の紙を空から地上にばらまいた。

 そして、数秒後、その紙を拾った人達の一部が怒り出した。


「島崎が俺達を騙してたのか!」

「物資はもう船に積み込み積みで配る予定なんてないだって!?」


 紙には島崎の罪状を書いてばらまいてある。

 もちろん、生け贄にされた二人の証言もバッチリ書いてあるし、極めつけは皇女フランの署名付きだった点だ。

 王様や島崎は誘拐事件が狂言だと知っていたから、大事にはしなかったし、世間に情報を流さなかった。

 それを逆手にとって、フランの名前を使ったんだ。

 おかげで手に取った人達の半分くらいが怒りの声をあげた。


 半分程度と思うかも知れないけど、これで十分だ。島崎に対しての疑惑さえあれば、自分が下だと思いにくい。

 こんな怪しい奴に従いたくない、信じられないと思ってもらえれば、島崎のスキルは効かないはずだから。

 でも、それはあくまで島崎のスキルを止めるだけの話しでしかなくて、島崎本人は止められなかった。


「やぁ、元気が良いね。毛利君」

「島崎――っ!? おいおい、マジ?」


 島崎からの無線通信で俺はハッとして後ろを振り向いた。

 こんな短時間で島崎が俺達を追いかけて来たとなると、情報が漏れたとしか思えない。刑務所にいた人達の中に島崎の支配下にいた人が混ざっていたか。


 恐らく俺達が紙の印刷をしている間に、準備を整えたんだ。

 赤い巨大な龍のような飛空艇、戦艦ティアマトが俺達の後ろに回り込んでいた。


 全長四百メートル、装甲は何層もの木板と鉄板が重ねられ、厚さは七十センチもある。攻撃が当たっても貫かれなければどうということはない、っていうガチムチ仕様。


 主砲である四十六口径四十六センチ三連装砲を五基搭載され、火力は普通の戦艦の二倍くらいある。

 ティアマト一隻だけでもヤバイっていうのに、その後ろに三十隻近くの大小様々な軍艦が浮かんでいる。


 ティアマトに比べると、どれも手こぎボートなんじゃないかと思うほどサイズ差があるから、絶望感は薄いけど、十分に厄介だ。


「毛利君、クラスメイトの全員と感動の再会を果たした気分はどうだい?」

「恥ずかしくて裸足で逃げたくなるね。最高の気分だよ」


「ふふ、煙に巻いたつもりで真理を見ている。そう、この場では逃げるのが最善の選択だ。やはり君は賢いよ毛利君、フランが君を選ぶ訳だ」

「知ってたのか」


「あぁ、最初からね。君がカードを受け取った瞬間から、僕にはフランの考えが手に取るように分かった。交易船なんて偽装、分かりやすくて仕方無かったよ」


 ストーカーかよ。気持ち悪い。とはとても言える雰囲気じゃない。

 島崎だって居住区の真上で大砲をぶっ放すようなことはしないだろうけど、それでもでかい大砲の威圧感が半端ない。

 でも、ちょっと待て。最初から俺の偽装も知っていたのなら、何で俺だけわざわざ解放したんだ?


「最初から分かってたなら、何で俺を見逃したんだ? フランと一緒に、お前に刃向かうって分かってただろ?」

「だからだよ。フランが希望を託した毛利君、毛利君がその希望に応えて、さらに希望が大きくなっていく。そして、いつかその思いは、淡い恋心へと変わっていく。僕はその希望が育つのを待つつもりだったんだよ?」


「一体何を言ってるんだよ? 意味分かんないぞ」

「そうだねぇ。君のレベルに合わせるのなら、僕は他人の物を手に入れると興奮を覚えるのさ。いや、それだと語弊があるな」


 いやいや、俺をお前と同じ変態にしないでくれるかな!? レベルが合った気が全然しないぞ!

 というか語弊があるのなら、今の発現全てが怪しいぞ!?


「そうだな。他人の女を寝取ることでしか性的興奮が起きないんだ」

「余計に酷くなってんじゃねぇか!?」


「酷いかな? みんなにもある気持ちだよ。毛利君も経験したことがないかい? 別にいらないと思っていたモノを、他人が喜んで食べたり遊んでいる様を見て、欲しくなるなんてことをさ」

「お前も大概頭おかしいな!?」


「おかしくなんてないさ。僕は誰よりも優秀で正しい。でも、僕がいらないと不要だと思ったものを愛でたり、楽しむヤツがいる。それって何だか腹立たしくないかい? だからつい奪って試したくなるんだよ」


 他人の芝生は青い。それぐらいのことは確かにあるけど、そこまでこじらせちゃいない。

 しかも理由が自分勝手極まり無い。自分の正しさに自信がないせいで、虚栄心と傲慢を勝手に募らせただけじゃないか。

 というか、まさか俺を逃した理由って……。


「もしかして、俺を見逃した理由って、俺とフランをくっつけて、フランを寝取りたかったの?」

「その通りだよ。僕に憎しみを持つフランが君に恋をし、結ばれた時、一番想いが詰まって愛が熟れた時、僕が君を倒して積み上げた希望と愛情を撃ち砕き、絶望に浸るフランを君の前で犯す。あぁっ! 想像するだけで勃ってきたじゃないか。どうしてくれるんだい毛利君? 君が僕に想像させたせいだよ?」


 やばいこいつ変態だ。どうしようもないぐらいのド変態だった。

 こんなのとは結婚したくないっていうフランの気持ちが、良く分かったよ。


 寝取り趣味ってレベルじゃない。人の不幸をすするのが趣味なんだ。

 ん? ちょっと待てよ? さっきの話が本当なら、クラスの中にだって付き合っているヤツはいたはずで……。


「お前……まさか、さっき言っていたことクラスの連中にやったのか……?」

「あぁ、うん、やったよ。一時的に支配を止めてね。まぁまぁ気持ちよかったよ」


「てめえ! 人を何だと思ってるんだ!?」

「でもさぁ、寝取ってみたのは良いんだけど、意外とすぐ飽きちゃうんだよね。こんなもんかって思えてさ。だから、さっさと操り人形に戻したんだけどね。毛利君も経験ないかな? 美味しそうに見えたのに、口にすると意外と美味しくなくて、食べずに捨てちゃうこと」


 人を何だと思っているに対する直接的な答えじゃなかったけど、島崎にとって人は自分の欲を満たす道具くらいにしか思っていないようだ。

 サイコパスも良い所だよ。


「だったら、フランのことも諦めとけよ」

「それはダメだよ。だって、フランは僕が初めて自分から手に入れたいと思った女性なんだから。僕はその女性を最高の状態に仕上げて、自分の色に染めたいのさ」


 優等生の裏の顔がこんなのとか、洒落になってないぞ。

 野放しにしておく訳にはいかないし、ここらで退場して貰わないと、間違い無くとんでもないことになる。

 止めるとか倒すとかじゃない。殺すぐらいしなければ、きっと島崎の蛮行は終わらない。

 何せあいつは他人を操れる。牢屋の中に繋がれようと、あいつの意思は他人の中で生き続けるのだから。


 でも、こちらから攻撃は出来ない。居住区の住民と建物に流れ弾が当たって大変なことになるせいだ。


 おかげで喉まで出かかっている攻撃合図が出せずにいた。

 恐らく島崎は島の人達を人質に取れるタイミングを見計らって、俺達の後ろに姿を現したのだろう。

 悔しいけど、ずる賢さはあっちの方が上みたいだな。


「まだまだフランと毛利君の気持ちは熟していない。僕は優しいから、ここは見逃してあげるよ? さぁ、この道を通るといいさ。それで、僕を倒す算段をフランと一緒に立ててきて。あぁ、そうそう、戦争も二週間は先延ばしにしてあるから安心して。その間に一緒に愛を育んで欲しい」


 島崎の言う通り、艦隊が後退していく。

 今回見逃してくれるというのも多分、嘘じゃなくて本気だろう。

 単純に悪い奴なら嘘だと簡単に分かるんだけど、変態的な性的嗜好のための行動だから、嘘じゃない可能性は十分にある。

 それに万が一罠だとしたら、島崎の作った道じゃなくて、このまま島を横断する脱出経路だってある。

 何処へ向かってもきっと逃げられる。


 でも、ここで島崎を置いていく訳にはいかない。


「ライカ、島崎から逃げ切るために、最大速度を維持し続けてくれ」

「了解です」


「進路目標ティアマトの右舷!」


 俺は迷わず島崎の開けた道を通ることにした。

 この決断にさすがのライカも驚いて、椅子から飛び起きている。


「えええ!? 間違い無く罠ですよ!?」

「罠かどうかは関係無い。俺はここで島崎を倒すための手を打つ」


 俺の提案に船内の全員が驚いた。

 あのセバスチャンまでもが動揺して、眼鏡をずらしている。

 いつもは台風の目となって周りを振り回すフランも、言葉がないようだ。


「あいつの船、ティアマトを奪うんだ。一瞬で良いし、タッチ出来るだけで俺の勝ちだ。次会った時、大事な場面で全く動けなくすることで、俺達は勝てる。それまでは気付かせず泳がせるんだ」

「ソラ……本当に大丈夫なの?」


「まぁ、ここで尻尾を巻いて逃げるだけってのも気にくわないからね。駄賃の一つでも奪っていかないと、気が済まない。こう見えても、怒ってるんだ」

「必ず戻ってきてよ?」


「心配してくれるのか? いつも無茶ばかり言うくせに」

「なっ!? もう! 人の気も知らないで! そうだよ! ソラが戻ってこなかったら、誰が私の無茶を聞いてくれるのさ!?」


 島崎の考えだとフランが俺に惚れるとか言ってたけど、別にそんなことないだろ。

 明らかに便利屋程度にしか扱われていない。

 それに俺以上の便利屋もいるんだからさ。


「セバスチャン、操舵を変わってくれ」

「お任せ下さい。こう見えて昔は操舵手の訓練を受けたことがあります」


「だと思ったよ。全速力でティアマトを追ってくれ。俺はロープとアンカーで飛び移ってくる」


 正面切って戦闘をしていたら絶対に出来ない作戦だけど、島崎が油断している今ならやれる。

 俺は操舵をセバスチャンに任せて倉庫に降りると、搬入口にあたる後部ハッチを開けた。

 元の世界なら命綱無しのスカイダイビングになるけど、この世界なら落ちて死ぬことはない。勇気を持って飛び出せば、何だってやれる世界だ。

 恐れるな、飛べ! ソラ!


「今だ!」


 島崎の船ティアマトとすれ違う瞬間に、俺は船から飛び降りた。

 空中に飛び出した瞬間、風に煽られるけどそんなのは関係無い。


「開け! 空賊王の宝物庫!」


 俺は宝物庫からアンカーをティアマトに向けて射出して、ロープを船体に引っかけることに成功した。

 巨大な船に引っ張られた俺の身体は、吸い込まれるようにティアマトの壁に向かって近づいていく。


「って、やっべやべ! プロペラが近い!?」


 空を切るプロペラが目の前に迫っていた。

 しまった! プロペラに巻き込まれるのは想定していなかった。

 大砲とかなら奪った船の装甲板とか取り出して止められるけど、プロペラは弾かれる。

 さすがにバラバラ死体にはなりたくないから、この際は仕方無い。


「出来れば無傷で確保したかったんだけどな! 連装砲発射!」


 俺はすぐに宝物庫から魔導砲を呼び出すと、プロペラに向かって砲弾を発射し、爆破した。

 そうしたら、意外と簡単にプロペラは破壊出来て、プロペラの羽根が遠くへ勢いよく吹き飛んでいった。

 装甲は硬くても、プロペラを分厚くすることは出来なかったんだろう。意外な弱点発見って感じだ。


「ふぅ、これで安心して着地が出来る」


 俺はティアマトの壁面に着地して、手をつけた。

 車から車へ飛び移るスタントアクションはよく映画で見たけど、飛空艇から飛空艇への飛び移りはさすがに、俺しかやったことないだろ。

 なんて余韻に浸っている暇はない。


「よし、ティアマト登録完了。来い! ミスティア号!」


 まるで船から船が生えてきたように、俺の船がティアマトの脇腹から召喚された。

 俺はそのまま自分の船に飛び乗り、振り落とされそうになる身体をロープにくくりつけ、強引に止めた。

 これで脱出の手はずは完了。後はこの空域から逃げ出すのみ。


 島崎達は動きを止めているから、いきなり最高速度は出せない。


 反対に、最大速度に達していた俺達の船は敵の追撃を受ける前にその場を逃げ出して、雲に隠れて身を眩ませる――予定だった。


「いいね。とても格好良いよ毛利君。さぁ、君のとびっきりなアクションに僕からささやかな演出のプレゼントだ。フランも君に惚れ直すよ? 吊り橋効果というやつでね!」

「ヤベヤベヤベ! 普通に撃って来やがった!? 後ろの船に島崎乗ってるんじゃないの!?」


 俺の船に向かって、クラスメイト達の船が一斉に砲撃を始めた。

 俺達の船がいる場所は、島崎が乗っているティアマトに流れ弾が間違い無く当たる位置だぞ。

 でも、そんなことはお構いなしに、クラスメイト達は遠慮無く雨あられのように大砲を撃ちまくってくる。


「くそったれ! 爆雷まで散布された!?」


 完全な包囲攻撃だ。でも、それがどうしたっていうんだ。

 俺の宝物庫の中にだって大砲と移動式の動翼爆雷はたんまりあるんだ。

 こうなりゃ戦争だ!


「空賊王の宝物庫、全武器を召喚!」


 橘さん達の船についていた魔導砲とフランの乗っていた大戦艦の魔導砲も全て総動員して、かきあつめた大砲の数は大小合わせて百門。

 島崎率いる船団は三百門を超える。しかも、こっちは一隻しか無い分狙いが集中する。形勢はハッキリ言って酷い。不利通り越して、酷い。


 でも、それがどうした!


 俺は手を前に振ると、用意した武器を全て同時に前方へと発射した。


「発射!」


 耳がおかしくなりそうな発砲音が鳴り響き、空中の色々な所で赤い爆発が発生する。

 俺の砲弾同士が空中でぶつかり、爆発を起こしたり、、クラスメイト達の船に着弾したりして、黒い煙がそこら中にあがり始める。

 破損したクラスメイトの船に今すぐにでも乗り込んで、クラスメイトを正気に戻したいけど、今回は乗り込めない。


 さっきの島崎の戦い方を見ると、平気で自分も味方も静めるつもりで戦ってくる。

 一隻しか船のない俺が誰かの艦に乗り込めば、その艦ごと俺達とミスティア号を破壊するだろう。これ以上フラン達を危険な目に遭わせられない。


「セバスチャン、このまま全速前進! 戦域を離脱する!」

「承知いたしました」

「近づいてくる弾は俺が撃ち落として相殺するから、遠慮無く真っ直ぐ飛べ!」


 俺達は全力でその場を離脱すると、追っ手は一隻も来なかった。

 どうやらさっきの攻撃が効いて、無事に逃げきれたようだ。


 残念ながらクラスメイトを今回は奪還出来なかったけど、それ以上に大きな収入はあった。

 ティアマトという島崎の最大戦力を奪い去った俺は、島崎との戦いに備えて戦力を大きく増強出来たし、島崎を弱体化させることに成功した。

 俺の宝物庫でティアマトの火力と装甲を自在に呼び出せることが出来るようになったのだ。おかげで俺の船は火力だけで言えば、戦艦並の船になってきた。


 そして、もう一つ、ティアマトを奪ったことで、俺は島崎に王手をかけたのだ。

 その王手から完全に島崎を詰ませるには、一旦逃げる必要もあった。

 今の所、作戦は俺の思い通りに動いていて、順調そのものだ。

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