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お姫様と船長達

 数分後、各艦の艦長三人が集まって、橘さんも起きた。


 もちろん、船も武器は全部俺のモノにしておいたから、急な発砲はない。


 体術で取り押さえられたらどうしようかとも思ったけど、セバスチャンがいつもの台詞を口にして、大丈夫なことになった。

 曰く、昔修行のために山ごもりをしたことがありますので、素手での戦いは心得ておりますとか。

 本当に一体何者なんだよ? 転生者かなんかなの!? 前世の記憶でもあるの!?

 もはや突っ込む気力すら失せた俺は深く考えずに甲板で会合に参加した。


 まずはフランが島崎の支配能力を説明すると、皆どこかに心当たりがあるようで、ハッとした表情を見せた。

 島崎のやつ、そこまでしてフランと結婚したいのか? 必死過ぎるだろ。

 なんてよそ事を考えていたら、フランから爆弾が投下された。


「そして、この方が海賊王グリードの能力を引き継ぎ、私の夫となった毛利君です」


 ガタッ! という椅子の音とともに艦長三人が立ち上がった。そして、同時に机をバント叩いた。

 息がピッタリ合いすぎて、意味が分からない。一体どうしたんだろうと思って、艦長達を見てみると目がそりゃもう真っ赤に血走ってた。


 四十、五十のおっさん達が怒りを露骨に見せてるってどういうこと!?


「むうぉり君、フラン様の言ったことは本当かねぇええええ!?」


 語尾が超上がってる。何この人、超怖い。


「まさかフラン様を傷物にしてはいないだるぉねえ? むぅおり君!」


 二人目のおっさんもムダに巻き舌で威圧感満載。


「フラン様に踏まれる心地は私以外知ってはならない。君は踏まれたかね? むぅおり君!」


 三人目に至っては変態だった。そんなぐいっと顔を近づけられても困るって!


 何なのこの人達!? 巻き舌三兄弟なの!? 助けてフランさん!


「止めなさい。三人とも。私の夫を侮辱することは、私の侮辱に繋がりますよ。それと毛利君はとても紳士的です」


「そ、そこまで言うのなら……」

「仕方がありませんね……」

「罰として踏んで下さい」


 さっきはスルーしたけど、やっぱり変態が混じっているな。

 フランが動揺している俺の表情を見て、苦笑いをした。どうやら俺の気持ちが通じたらしい。全て島崎を倒すための演技だと伝えて、このおっさん達を静めてくれるんだろうか。


「皆さん落ち着いたようですし、毛利君も一緒に踏みます?」

「どうしてそうなった!? というかちゃんと気付いてたんだな!? 完全スルーかと思ったよ!」


「小さい頃から私の面倒を見てくれた叔父様達ですから。私の船乗りのスキルも全部叔父様達から教えて貰ったモノですよ」

「いやいや、急に真面目に答えられても!? おっさんの変態は何一つ改善されないぞ!?」


 フランにとっては面倒見てくれた叔父さん達との懐かしい記憶かもしれないけど、一名やばいのが混じってるって。危ない思い出だって。


「まぁ、冗談はここまでにして。本当のことを伝えるわ」

「頼むぞフラン。あんたじゃないと話が通じないんだからさ」


「飛空艇の船長ごっこで、叔父様達の背中に乗って走り回っただけよ。安心して毛利君。私はまだ純潔よ」

「そっちの心配じゃねええええええ!」


 ダメだ。フランのヤツ完全に遊びモードに入っていやがる!

 というか、艦長のおっさん達もいい歳して、顔を赤らめるなよ!?

 本当にダメだなこの国! どうしようもねぇ! そりゃ島崎が来るまで負けるわ!

 橘さんもどん引きしっぱなしで、顔引きつらせたまま固まってるよ。


「橘さん……大丈夫か? 現実に戻ってくるんだ」

「す……すごいわね。これがお姫様……」


「頭のネジがダース単位で飛んでるだろ?」

「えぇ……。私、お姫様ってもっとお淑やかなイメージがあった……」


 初めて自分の感覚に同意してくれる人が現れた。やったー。

 とても喜んでいられる話しじゃないんだけどな……。

 当の本人はこれでどや顔しているし……。


「さてと、これで私の身の安全も叔父様達に分かって貰えたでしょう。皆様、これから本題に入ります」

「もう突っ込む気力も起きない……本当に本題なのかよ?」


「今回の戦闘で重大な発見が二つありました」

「あ、本当に本題っぽい。でも、二つ? 洗脳の解き方じゃなくて?」


「はい、島崎の支配は立場と居場所を奪えば解けること。それと、指揮官の洗脳を解けば部下の洗脳も解けることの二つです」

「言われて見れば、今回橘さんの部下になった艦長さん達と乗組員さん全員の洗脳が解けたっけ」


 一石二鳥どころの騒ぎじゃなかった。

 意外な弱点発見だ。

 とは言うけど、ちょっと待てよ?


「あのさ、フラン。さらっと言ったけど、立場と居場所を奪うのってもしかして、俺にしか出来なくないか?」

「そうだよ? 毛利君が全ての要だから、本当に頼りにしてる。ごめんね。もっと他の方法があれば、毛利君だけに負担をかけないんだけど」


「それしか方法がないんだな?」

「うん。毛利君の全てを奪う力じゃないと、島崎の手からは奪えないから。私も出来ればよかったのにな」


 そこまで言われたら仕方無いよね。

 クラスメイトのみんなが洗脳されている今、俺しか島崎止められない訳だし。


「でも、安心して。これからはこの三人が毛利君の指揮下に入って、露払いをしてくれるから、敵艦隊の旗艦だけに集中出来るよ」

「あぁ、それだと今日みたいな罠にも対応出来るから、少しは気が楽かも」


 さすがにどれが当たりか分からず、一隻一隻船をぶつけて確認するなんて勘弁してほしいしな。命と船がいくつあっても足りないって。

 てか、このお姫様はまーた勝手に決めてるけど、艦長達はいきなり言われても納得するのか?


「承知しました。このアール、姫様とともに参ります」

「ベルトも同じ気持ちでございます」

「ガンマルもでございます」


 あっさり納得しやがった。


「私も参加するよ」

「橘さんまで!?」


 なんなんだ? フランも洗脳術が使えるのかってレベルで参戦してくるぞ。

 しかも、巻き込まれて洗脳された橘さんまで戦うなんて言い出すっておかしいだろう?


「橘さんは戦わなくても良いんだぞ?」

「ううん、戦うよ。だって、友達が島崎に操られたままなんでしょう? 放っておけないよ」


 橘さん超かっけぇ。言っていることが完全に主人公だよ。俺がヒロインなら惚れているよ。

 男として惚れるのは何か負けた感じがするあたり、複雑なときめきだよ。

 でも、あの速度があるなら心強い仲間であることに違いない。


「よろしく橘さん」

「毛利君、迷惑かけるかもしれないけど、一緒にがんばろうね」


「うん。任せといてよ」


 そうだよ。この感覚だよ。こうやって、お互いに真っ当な感じで取り返していこうっていうのが、王道の展開でしょ。

 そこから淡い恋心とか芽生えて、気がつけば良い感じになって、元の世界に戻ったら結婚しようとか言っちゃうんだ。


 いきなりさらって自分のモノにしろっていうのが、おかしいんだよ。

 そう例えば、今この騒ぎの中心になっているお姫様とか。


「毛利君、今失礼なこと考えたでしょう?」

「考えてない……」


「それじゃあ、私が変なこと考えた」

「へ?」


 大概変なことというか、とんでもないことばっかり言っているヤツだけど、今度はなんだ?

 まさか、クロックアルトヘイストで俺達の船を押して、さらに速度をあげた体当たりを出来るようにって言うんじゃないだろうな?


「二人は恋人同士なのかなーって」

「ふぁっ!?」


 フランさんや、どうしてそうなった!? 確かに冗談で変な妄想はしたけどさ。


「あれ? 図星?」

「図星じゃないよ。あまりにも突拍子なかったから驚いただけだよ……。ほら、橘さんも困ってるし。橘さんからも言ってやってくれよ」


 フランに自分がずれていることをそろそろ認識して貰わないとね。

 今の俺には強力な味方、橘さんがいるんだ。

 きっと、フランのずれっぷりを指摘してくれるだろう。


「ねぇ、毛利君、さっきから思ったことがあるんだけどさ。言っても良いかな?」

「うん、バシッと言ってやって」


「意外と俗っぽいね。ねぇ、お姫様。後でガールズトークしよ」

「そうそう。俗っぽいんだよ。きっとガールズトークも盛り上がる――ん?」


「だよねー! お姫様、後でいっぱいお話ししよ! ふふふ、お姫様から淡い恋のお話し聞けそうだし」

「ええええ!? どうしてそうなった!?」


 味方があっさり寝返った。

 どういうことなの? 女の子にしか分からない何かなの? それとも俺の常識がずれてるの!?


「ぼ、僕があ、あ、あ、淡いこ、こ、こ、恋とか、そ、そんなことないですよ?」


 と思ったらフランが超動揺している。女の子の格好をしているのに、演技中の僕になるほど焦っている。

 橘さんめ一体何をしたっていうんだ!?


「あら? それじゃ、遠慮無くとっちゃうよ?」

「それはダメ! 分かったよ。セバス、お茶とお菓子の用意を。それと、話を聞いてメモしておいて」


「かしこまりましたフラン様。実は小生、昔バーテンダーをしていたことがありまして、悩める乙女達の心をほぐす心得があります。フラン様、橘様なんなりとお言いつけ下さいませ」


 ダメだ。もうどこから突っ込んで良いのか分からない。

 何かもう俺が完全に蚊帳の外だし、こうなったら話の流れを変えて、リセットするしかない。

 何かネタはないか? って、かなり困ったネタがあった。

 しかも、この後すぐに問題になるネタだ。


「なぁ、フラン。味方が増えるのは助かるんだけど、さすがに一緒に動いたら大人数過ぎて不味くないか?」

「あっ、言われて見れば……。島崎の洗脳が解けたまま軍港に入港したら、拘束されるだろうし……。共用港に軍艦が四隻も固まったら明らかにおかしいね」


 気付けば俺はただの空賊船船長じゃなくて、空賊団の団長になっている。さすがに軍艦四隻引き連れて飛び回ったら、せっかくの偽装も台無しだ。

 別々に行動して、戦いが始まる時とかイベントに合わせて合流出来れば良いんだけど。

 となれば、もうあれしかないよな。男のロマンってやつだよ!


「俺達の拠点を作ろうぜ。空賊だけが知る秘密のアジトだ」

「秘密のアジト! さすが毛利君、良いアイディアだと思うよ。でも、資材とか場所はどうするの?」


「場所はこんなに岩が空に浮いている世界なんだし、暗礁地帯の大きめの岩を使おうぜ。物資は俺が空賊王の宝物庫を繋げて、町で買ったモノや敵から奪ったものをどんどん置いていこう。実際、今奪ったモノは元の場所においてあるし、せっかく奪った船とか、整備出来てないしさ」

「空賊王の宝物庫にそんな使い道があるなんて! さっすが毛利君!」

「とりあえず、奪った駆逐艦の中に建築資材とか、工具は一式あるみたいだから、簡単な拠点は作れそうだ」


 もともとの役割が交易船船長だったおかげで思いついた。

 フランと船長達と一緒に地図を広げ、船の行き来が少ない暗礁地帯に目星をつける。

 大きな島がなくても、浮かぶ岩と岩をロープでくっつけて繋げることも出来るみたいで、仲間が増えたらアジトの面積を拡張することも出来るらしい。

 モノと人を島崎から奪って、自分の空賊団とアジトを大きくしていくなんて思うと、年甲斐もなくワクワクし始めた。


「よし、それじゃあ、俺達はファイブランズで情報と物資を集める。みんなはアジトの建設と、壊れた船の修理をしてくれ」

「了解!」


 俺の空賊ライフ、楽しいことになってきたぞ。


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