空賊王の初仕事
俺は船の甲板の上にドクロのマークが描かれた旗を突き刺した。
空賊が掠奪しに来たことを知らせ、船の乗組員達に降伏を求める合図であり、抵抗した場合は皆殺しにするという脅しでもある。
「空賊王グリードがこの船を占拠した! 俺様の要求は皇女フランとありったけの武器弾薬の引き渡しだ! 見返りはこの先の安全な航空。この要求を無視した場合、貴艦を撃沈する!」
人間一人が全長二百メートルの軍艦を乗っ取る。
そんな馬鹿げたことは出来ないと、タカをくくったのだろう。
船の艦長は既に船を乗っ取られたのに、即座に拒否の意思を表明した。
「断る。人間一人で軍艦に勝てるものか! 総員戦闘準備!」
当然の反応だ。
人一人で軍艦には勝てる訳が無い。それが異世界での常識だ。
でも、常識に例外はいつだって付き物だ。
「開け! 空賊王の宝物庫!」
俺の声で空間が歪み、軍艦に積んである砲台が消えて、代わりに二十門の砲台が俺の周りに召喚された。
「一斉発射!」
そして、発射のかけ声で火球が大砲から放たれ、敵艦の艦橋前で大爆発を起こす。
「さて、今ので分かって貰えたかな? 貴艦の操舵と魔導砲は全て俺様が奪い去った。さっきのは警告射撃。次は全部直撃させる。さて、貴艦乗組員が俺様を殺すのが早いか、俺が貴艦をお姫様ごと吹き飛ばすのが早いか、よく考えて返答すると良い。一分間待ってやる!」
「何が起こった!? 舵が利かない! 機関も止まったぞ!」
俺は全てを奪う力を使い、船を丸ごと奪い取って自分の物にしたのだ。
俺の力は物を奪い取り、どんな時でもどんな場所でも自在に物を出し入れして、使うことが出来るようになるものだった。
俺はその力を使って剣や槍を空中に召喚し、兵士がやってきても武器を射出して射貫く準備をした。
たった一人で軍艦一隻と百人の兵士を従えているような俺の姿に恐れをなしたのか、軍艦に乗っていた最も偉い人間が甲板に姿を現す。
「私の名はフラン=ドレイク=ギリス。この国の皇女である。空賊よ。あなたの要求を受け入れましょう。その代わり、この船の安全を約束しなさい」
純白のドレスに身を包んだ金髪のお姫様が現れて、俺の目の前までやってくる。
「約束しよう。空賊王グリードの名に賭けて」
ちなみに俺の名前はグリードなんかじゃない。毛利空良という名前がちゃんとある。
それでも、俺はグリードとして演技し、姫様を誘拐した。
そして、高らかに宣言する。
「この時を以て、皇女フラン=ドレイク=ギリスを我が妻とする! ギリス連邦は島崎の物では無く、俺様のものだっ!」
伝説の空賊王が現世に蘇り、異世界の英雄と結婚を控えた皇女を連れ去る。
国全体に喧嘩をふっかけるような大事件だ。
そんな大事件が俺の異世界でこなした初仕事になり、クラスメイト達と戦うことになる決定的な出来事となった。
こうなったのも俺がクラス丸ごとの異世界転移に巻き込まれて、転移特典でとあるスキルを与えられたせいだった。
空を飛ぶ船《飛空艇》に乗って他の飛空艇を襲う盗賊団、空賊。そんな空賊船の船長が異世界にクラスごと召喚された俺の演じる役割だった。
クラスメイト達は戦艦や巡洋艦の艦長になって国のために戦争に参加しているというのに、俺だけ武力で艦を脅し、掠奪を繰り返す空賊になった。
しかも、俺はクラスメイト達が守る国を対象に、空賊行為を働いているのだ。
そんな風にクラスのみんなと俺にズレが生じたのは、転移した時に起きたとある出来事からだった。