俺の選んだチートの結果 ～もう少しがんばりましょう～
＊R15要素として軽い性的表現があります。
俺は目覚めると見渡す限り真っ白な空間に立っていた。
確か通勤途中に交差点で信号待ちをしていたら、反対車線から大型トラックが突っ込んで来たんだっけ。
慌てて見たトラックは、運転席の親父がこれ以上ないくらい見事に寝てたんだよ。
それこそ逃げるのも忘れて感心したくらいの爆睡っぷりだったな。
……そうか、俺はあのままぶつかって死んだんだな。
さて、改めて見直してもただただ真っ白な場所だ。
これが死後の世界なんだろうか？だったら寂しいな。
このまま立っていても何も起きそうに無いので、とりあえず「おーい」と呼び声を上げてみる。
すると白い服を身に纏った爺さんが出てきた。
文字通り何も無い空間から唐突に出てきた。
外見も白い服に加えて白髪に白い豊かな髭と、誰もがまず思い描く神様のようだ。
ひとしきり眺めては見たものの、推定神様も出てきただけでこれと言った反応が無い。
仕方ないのでこちらからファーストコンタクト行きます。
「えーと、あなたは神様ですか？」
ド直球。
「わしはガイじゃ。おぬしを導くためにいる」
これはファールで返されたのだろうか。
「導くというと、やっぱり俺は死んだんですかね？ここ天国？」
「確かにおぬしは死んだ。しかし天国ではない。まあ落ち着くのじゃ。今から一通り説明してやろう」
ガイさん曰く。
ここは生命の間というステキ空間で、死者が生まれ変わる前に『来ることもある』場所らしい。
『来ることもある』と言う通り来ない人もおり、その時はそのまま通常の輪廻の流れに戻るらしい。
じゃあここに来た人は何なのかというと、ある程度の輪廻転生を経て次の転生先の選択が出来る場合らしい。
その際にはこちらの希望を多少は汲んでくれると言う。
何でらしいばっかりだって？
だって、君はいきなり現れた初対面の爺さんを信じられるのかい？
すまんな、俺はそこまで人が良くは無いんだ。
「こちらの希望を汲んでくれると言いますが、どのようなことが出来るんですか？」
「健康、長生き、生まれに関すること。最近の流行だと魔法とか、人並み以上の身体能力とかじゃな」
「おっと、何だそれ。ゲームかな？」
「選ぶのは若者が多いし、ゲーム脳というやつじゃな」
違うと思う。
しかし良いことを聞いた。魔法とか特殊能力もあんのか。
これはファンタジーのような剣と魔法が楽しめるかもしれない。
「そういえば特典貰っても、普通に転生したら記憶無くなるんじゃ？」
「そうじゃな。だから生前の記憶も持っていくものも多い」
記憶もっていけるのか。なら現代知識で内政チートとかも出来そうだ。
うーん、悩むな。一体何を貰ったら正解なんだろうか……
ラノベとかである異世界転生ものは身体能力や魔法が凄いのが定番か。
それか領主の息子に生まれて、現代知識で領地を豊かにしていくのもありだな。
大金持ちに生まれて夢のハーレムを形成するのも捨てがたい…
「あの、例えば能力を貰うとして、どの程度まで許されるんですか？」
「そうじゃな。世界を破壊する、などと言う破綻した能力は許可できん」
そりゃそうだよね。そんな危険思想持ったやつを送る気が知れない。
いや、目的によってはありなのかもしれない。『世界を滅ぼしてくれ』とかね。
そうなるとどの辺りが分かれ目なんだろうか。
あ、さっき最近の流行って言ってたな。
そういうのはどんなの持っていったのか聞いてみよう。
ケース① 14歳男性
人並みはずれた身体能力と、全属性を使える魔法の才能がある。
田舎でも外れのあばら家に祖父と住んでおり、二人で質素な生活をしている。
しかし本来は王家の王子であり、誕生の際に左手に悪竜が寄生していることが判明。
左手の封印と共に、引退間近だった大賢者(祖父)に引き取られて都落ちする。
左手は封印の影響から漆黒に……
Oh……これぞまさしく中二病。
実際はまだまだ設定が続くそうなんだが遠慮した。
俺のガラスのハートがミシミシと音を立てるからね…
ケース② 32歳女性
私はとある伯爵家に生まれた長女。
容姿端麗、文武両道。人当たりもよく誰からも好かれる存在。
上に二人の優しくてイケメンの兄がおり、私を可愛がってくれる。
幼馴染にはその国の金髪美少年な王子様や、知的眼鏡な大臣の息子『など』がいて、彼らに愛されて育つ。
成長して進学した王立学院では他国から留学している、これまたイケメンで……
……乙女ゲーの世界ですね。
やっぱり設定はまだ続くそうなんだけど、こちらも遠慮しました。
男性に限らずこういう願望はあるんですね。
ケース③ 25歳男性
剣と魔法の世界。容姿はそれなりに長身で美形。
訓練すればするだけ育つ能力を持ち、能力の上昇率も通常の5倍増し。
異世界という点から多言語理解、ある程度の財力、最初から身を守れる装備など多種多彩。
当然元の記憶も持ち合わせており、イメージ力で魔法を発展させる模様。
各種バッドステータス無効などを保有。
これはなかなか地に足が着いている。
全体の傾向としてゲーム寄りなのがちょっと気になるところだけど、大変参考になる。
特に多言語理解とか凄いね。モンスターと話でもするのかな？
でも最初から身を守れる防具って、赤ちゃんじゃないのだろうか？
ほうほう、この人は異世界転移のパターンですか。なるほど、それなら必要だね。
というか異世界転移もあるんかい。俺は転生らしいので選べないが……
なんとなく掴めて来たぞ。
たぶん、これは言ったもの勝ちだ！
俺の要望
前世の記憶持ち。容姿端麗、文武両道で才能に溢れている。男性。
体は健康、寿命も長く、毒といったバッドステータスは無効化する。
武器の扱いや魔法は成長と共に全て使いこなすことが出来るようになる。
それなりに裕福な家に生まれ、両親の愛に包まれて育つ。
集落の周囲も安全な地域で、魔物や盗賊といった暴力に襲われる心配も滅多に無い。
自然と異性に好かれる。順風満帆な人生を送る。
ポイントは寿命は長いが不老不死じゃない。死ねないことは苦しみにも繋がるからだ。
それなりに裕福という良い環境を得つつも、周囲の安全を確保。
更には大金持ち過ぎないので、金目当てに襲われるなんて悲劇を回避した。
それでいて順風満帆な人生と、もう最後まで成功を確保しておく。抜かりなし。
異性に好かれるのはまあ……男子の夢ですよね！
と、結構盛った要望をいたしたところ見事採用。
俺はガイさんに見送られながら、笑顔で元の輪廻の輪を外れることとなった。
晴れて新天地にて新たな栄光の人生を送るんだ！
これが数年前。
要望の通りに俺の人生は順風満帆だった。
父親は街一番の勇士で人々から尊敬されているし、母親も美人で有名だ。
家もそれなりに大きくて、少数ながらも召使いを雇っている。
何より俺の誕生の逸話がすごい。
なんせ俺は受精卵になる前から光り輝いていたらしい。
それに気付いた母は腰を抜かさんばかりに驚いたそうだ。
加えて信仰する神から『すごいの生まれるぞ』という啓示が来た！
……いや、啓示は概念的なものだからね。ぼんやりと伝わってくるらしい。
そんなこんなで母は慌てて父を呼んできて、俺をこしらえたと言う。
…随所に生々しい表現があったことをお詫びいたします。
でもそう教えられたからね！俺が！
生まれて意識が芽生えた頃には自分の能力に気付いていた。
能力は何となくこうすれば良いというのが分かり、体は動かせば動かすほど俊敏に、そして力強くなる。
3歳を迎える頃には既に王者の風格があるとまで言われた。
実際に偶然街に飛び込んできたサメの魔物を撃退したこともある。
両親は大喜びだし、街の人々も大いに祝ってくれた上に、成長した戦士にのみ渡される特別な銛を正式にくれた。
そんな俺を女性が放って置くわけがない。
何度と無く求婚されたし、子供を作ってくれ！なんて直接的なお願いも来たりする。
応えたかどうかは君たちに想像にお任せするよ！はっはっは
俺は着々と希望通りの人生を手に入れているのだ！
……ん？おかしい所があるって？
受精卵になる前から光り輝く？
街に飛び込んできたサメの魔物？
戦士に渡される特別な銛。
生まれて数年で求婚
ああ、言ってなかったな。
俺は人間に生まれたわけじゃないんだよ。
魚人だよ！
まさか魚人って！
生後すぐに陸地と思ってた場所は海の底だよ！
視界に入った親の顔みて驚愕したわ！
人魚じゃないんだよ。魚に手足がついてるタイプだよ！
母さん美人って言っても鱗が綺麗とかさ、模様がどうこうって話なんだよ。
俺はケモナーの素養はあったけど、魚類はちょっと……
ちなみに3歳でも普通に子供作れるからね。
女が先に卵産んで男が後からかけるシステムだけど。人間と違うんだよ！
2歳くらいの時に色々調べて確認したんだけれど、この世界に陸地はほとんど無いらしい。
だからガイさんも気を利かせて、この世界で最大の勢力を誇る種族にしてくれたんだと思う。
そりゃどの世界も地球と同じってことないよね。
海洋生物が進化した世界があってもおかしくないさ。はは…
全属性が使える魔法も水と土しか使ってない。
君は水の中で火を起こせるか？無理だろ。
武器もまあ、槍か銛くらいしかないしね。
これも岩や鉄などを土魔法で加工してるんだ。
思ったより便利だね土魔法。
他にも色々あるけれど、俺は異世界で元気にやってます。
最近は女性魚人の美しさもほんの少しだけ分かってきた……ような気がするし。
人より長い寿命もあることだし、いつか完全な悟りを開けることだろう。
ただ、最後に一つだけ言わせてもらえるなら
お前ら、先に転生先の環境を確認しないとダメだぞ！！！
お読み頂きありがとうございます。
現実逃避作です。試験前の掃除と同じですね！
