メリーメリー・ストーカー02
ここで浅倉秋の人物像に触れておこう。
実は(と言うにはどうでもいいことだが)、僕が入学した後に最初に話したのが浅倉さんだったりする。
その日、入学式を狙ってか、校門前に沢山、予備校のチラシを配る人がいて、断ることも出来ずに、手に脇にチラシや付属のペンや消しゴムで一杯だった。
新しい環境とはいえ、いやむしろ、女子が怖かった僕は最初に話しかけられたとき、『殺される』と思いドギマギしていたのだが、
「荷物、大丈夫?」
普通に優しかった。
クラスが一緒なのに気づいたのは、自己紹介の時だった。ガチガチに固まりながらありきたりなことを言っていた。
根は優しいが奥手なところがある、といったところか。
この手の人間は、優柔不断だったりするのが特徴だ。
「浅倉さんが無責任なんて、そんな」
「自分でもわかってるだろ、この贅沢者が」
「いや、私は」
「浅倉さんは被害者でしょ!?なんでアンタそんな事言うのよ!」
「確かに浅倉さんは被害者だけど」
「ならなんで!」
「それは!」
「やめて!」
ここで初めて、浅倉さんが議論に参加した。僕たちの頭が冷える。
「立川さん、もういいの」
「いや、そんなこと」
「私も、悪かったの」
「どういうこと?」
「僕が説明する。わかってるなら、目を逸らしてないならそれでいいんだ」
ごめんな。と言って立ち上がる。
さて、お立ち会い・・・というフリは今回は合わないな。
「まず最初にだけど、今回の件の犯人はクラスの人じゃないよ。多分部活関係。浅倉さん何部に入ってる?」
「えっと、美術部」
「じゃあ美術部の誰かだ。まぁ部活は長いから、時間が解決してくれるかもね」
「え、ちょっと。なんで部活関係なの」
「立川、浅倉さんの携帯番号知ってる?」
「うん。ラインの登録のついでに」
「じゃあ家の電話は?」
「それは・・・知らない」
「うん、それが普通だ。浅倉さんて奥手というか内気というようなところがあるから、家の電話番号まで教えるということはないんじゃないかな」
「う、うん。家のを教えたことはないよ」
「え、でもメリーさんは浅倉さんの家にまで電話を掛けていたよね。どうやって電話番号を手に入れたの?」
「部活の大会とか、浅倉さんの場合は絵のコンテストとかコンクールとかかな。そういうのの応募用紙書くときってさ、隣の人のが見えたりしない?」
その場で必要事項を書けば、印鑑なしでも普通に応募できるものなど沢山ある。美術室でそれを書いているときに、盗み見るのは容易だろう。
「教室の机は離れてるけど、美術室は大きいのがいくつかだからね。こっちの方が可能性が高いよ」
勿論、教室でもそういった書類が配られることがあるが、大半は印鑑が必要なものばかりだ。そういった面でも、だ。
「さて、犯人を突き止めるまではした、けど。どうする?」
「へ?」
「僕ができるのはここまで、だけど中途半端に巻き込まれた以上、これからのことはキチンと知っておきたいな」
「それは、その」
「あぁ、でも後は女子の内輪で終わるか。立川が間に入れば、ちゃんと中立を保てば、和解まで持ってけるかもね」
「・・・うん」
立川は納得いってないようだが、反論はしなかった。言い返しても無駄、と判断したのだろうか。
「でもその前に、浅倉さんをいじめた理由を教えて」
「腹立ったから」