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ビハインドヴァイス04

 丸々2時間して、つまり9時に、新田君は学校にきた。

 丁度文化祭が始まった時間である。

「えっとだな」

「昨日の件でしょ」

「うん」

「なにやってんの」

「毎度お馴染み善意活動」

「アホッ!」

 場所は第二音楽室。怒鳴っても外に音が漏れない素晴らしい部屋だ。実行委員の荷物部屋として使っているが、今は大体が出払っている。

 実は私も新田君も、シフトをバックレて別部署のどっかの誰か(本当に知らない人。まだ他クラスの人を把握しきってない)に無理やり押し付けている(まったく知らない人に新田君が巧みな脅しで押し付けた)。

「いやあ、迷惑かけて本当に申し訳ない」

「新田君」

「なにさ」

「新田君は、実行委員であって、正義のヒーローなんかじゃないんだよ。他人の口出しする前に、自分の仕事をやりなさいよ」

「ごめんよー」

「やだ」

「ジュース奢るよ」

 瞬間、頭の中が真っ白になって。

 気づいたら新田君をはたいていた。平手打ち。

しかし帰宅部女子の力なんて目に見えている、はずなのに。

 新田君は、思いっきり吹き飛んでいた。椅子から転げ落ちていた、なんてものでなく、文字通り吹っ飛んでいた。椅子から2、3メートルも。

「え・・・新田君?」

 間抜けな声を出してしまった。

 驚いているのは、当然私だけでなく。

「オイオイ・・・」

 当の新田君は、仰向けのまま無表情で、言った。

「力強すぎだろ、立川」

 さて問題。おかしいのは私の方だろうか。


 その後、2,3仕事(シフト)をこなし、私は自由時間に入った。

私は思いっきり落ち込んでいた。つい、新田くんをはたいてしまったこと。そして、

「私って、こんな力強かったっけ」

成人男性と変わらないくらいの体格の新田くんを、ぶっ飛ばしてしまったこと。まるで、まるで。

「怪力暴力女・・・?」

自分の女性としての存在意義が薄くなる気がする。というか、自分の特長がこうも何度も変わっていくと怖い。

というか怪力だとか、暴力をふるうだとか、オンナノコとして恥ずかしい。それにそんなやつだと新田くんに思われるのは嫌だ。

「あああああああああああああー」

頭を抱えて30秒。

頭痛い。

「そうだ、お昼食べなきゃ」

時刻は10時30分。

しかし腹が減ってはなんとやら。いや、そういうわけではなく、お昼時になると模擬店は行列ができて、時間がない私は泣く泣く断食をせざるを得なくなる、なら早い内に買ってしまえ。

という訳である。


「うえええん、ママー」

文実控え室。その扉の目の前に、幼女がいた。いや、表現が良くない。幼稚園くらいの女の子がいたのだ。

「え」

扉を開けると泣きながらおかーさんを呼ぶ女の子。

迷子?

「ママー」

 周りが若干ざわついているが誰も声をかけようとしなかったようだ。まじかよ。

「えーっと」

 子供相手はそんなに経験がない。さて、どうやって声をかけようか。

 ポケットをあさると、ちょうどいいものが。

「ねぇねぇ」

 と女の子をつっつく。しゃがんできちんと目線を低くして、できるだけ笑顔で。

「なぁに?」

 こっちを向いた。よし、順調。

「お母さん探してるの?」

「うん。いなくなっちゃったの」

「そっか」

 よしよし、順調順調。

「じゃあ、お母さんが見つけやすいところに行こっか。きっとお母さんも探してるよ?」

 よしよしよし、じゅんちょー


「でも、ママが知らない人について行っちゃだめだよって」

 うえええん、とまた泣き始める女の子。

 順調、ではない。もう想定外だ。ああ、どうしようどうしよう。

 木造インフォメーションセンターに連れていってモフる、じゃなくてアナウンス掛ければこの子の親が見つかると思ったのだけど。

 この子動く気がないらしい。

「そうだね、じゃあ、ちょっと待っててね」

 仕方ない。携帯を使おう。

 新田君に電話。

『ただいま、携帯の電源が切れているか、電波の届かない』

 がっかりだ!

 長崎先輩ならどうだ。

『ぷるるるる・・・はい、長崎です』

「あぁ、つながったー!」

 しかもワンコールでだ。

『どうしたの涼乃ちゃん』

「えっと、今迷子の子を見つけたんですけれども」

『うん』

「インフォに連れていこうとしたんですが、嫌がってぎゃん泣きしてまして」

『あー、なるほどー』

 いいよ、こっちで何とかしてみるよ。

 と返ってきた。

「ありがとうございます」

『その子の名前わかる?年齢とか、聞ける?』

「ちょっと待っててください」

 そして、女の子のほうを向いて、

「ねぇねぇ」

 とつっつく。

「なぁに、おねえちゃん?」

「お名前、なんていうのかな」

「ママがしらないひとに、おなまえいっちゃいけないって」

「飴ちゃんいる?」

「いいの?」

「うん。お名前は?」

「りこ」

「何歳?」

「5さい」

 なにこの子、ちょろい。かわいい。

「ありがとね」

「うん!」

 そして立ち上がり、携帯を顔にくっつける。

「りこちゃん5歳、ツインテールでワンピースです」

『涼乃ちゃん、飴で子供つるのはどうなのよ』

「えへへ」

『まぁ、わかったわ。場所は?』

「第2音楽室前です」

『へ?第2音楽室?本当に?』

「はい」

『あー、うん。いいわ。じゃあ今から放送かけてもらうから、しばらくそこでりこちゃの相手しててもらっていい?』

「わかりました」

 さて、ご飯を買いに行けないなー。

 しかたないなー。誰かをパシリに使うしかないなー。

 ラインを開く。

『あさにゃん』

『あさにゃんいうな』

 すぐに返ってきた。

『ごめん、急な仕事が入ったの。ご飯買ってきて』

『ケバブでいい?』

 うん?なぜケバブが出てくる?あそこは1番混んでるはず。

『いいけど、大丈夫?』

『うん(^-^)/』

『じゃ、お願いm(__)m』

了解です、のスタンプが返ってきた。

携帯をとじる。

ぴんぽんぱんぽーん。

と、放送がかかった。流石長崎先輩、仕事が早い。

『迷子のお知らせです。5歳の、りこちゃんという女の子を保護しております。ツインテールで、ワンピースを着た女の子です。保護者の方は、至急、インフォメーションセンターへお越し下さい』


5分後。別の部署の人がりこちゃんのお母さんを連れてきて、私の仕事は終わった。

「えっと、涼乃さん、だっけ。上の名前聞いてないんだ」

その連れてきた人が、話しかけてきた。

「あ、はい。立川涼乃です」

「立川さんね。長崎から伝言預かってるんだよ」

「はぁ」

上級生か。伝言?

「体育館に来てだって。じゃあ、お疲れ様」

「ありがとうございます」

ぴろりん。

携帯のラインだ。浅ネェ、じゃなくて浅倉からだ。

『体育館にいるよー』

偶然にも、同じ体育館。

『わかったー』

調度いい。長崎先輩の要件のついでにケバブゲットだ。

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