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ビハインドヴァイス03

 今日は楽しい楽しい文化祭当日だ。

私と新田くんは、7時に学校の食堂で合流する約束をしている。昨日の件もそうなのだが、そもそもシフトの確認やらなにやらで、今日は忙しいのだ。優雅に珈琲や茶を飲む時間は取れない。

食堂の時計の針は、ない。そこに設置されたデジタル時計は6時45分を示している。デジタル時計より針が指すアナログ時計の方が見やすいんだよなぁ。私立校の変な意地なのかなんなのか、費用だけかかって無駄なものも多い。

新田くんは、まだ来てないようだ。

先に教室に行ってしまうか。ロッカーに荷物を置いてきてしまおう。

そう決めて、私はゆっくりと階段を昇った、つもりなのだが、4階まですぐに着いてしまった。

教室の壁には、『脱出ゲーム』なるものが描かれていた。私のクラスの出し物だ。高精度で作り上げた上、仕掛けの故障を把握するための構造など、割と手が込んでいる。また、謎を半日周期で切り替えるようにしてあるので、客足が途絶えることもない。

1年生は、模擬店ができない。よって、教室展示、出し物が中心となる。教室展示のコンテストも、tシャツコンテストと同時平行して行われるので、神崎くんのような例外を除いて、皆気合いが入っている。

教室に入ると、委員長が歩き回っていた。

「たゆぽんおはよー」

「あ、すずのーん!」

なにしてるのん?

最終チェックなのん!

「たゆぽん、今日は大丈夫なの?」

「大丈夫。今日明日は絶好調だし」

と、他愛もない会話をしながら、荷物をロッカーにしまう。鍵付きロッカー。みんなめんどくさがって、鍵を閉めない。

「ちょっと下行ってくるー」

「ねぇすずのん」

「なに?」

「新田くんと付き合ってんの?」

ぶふぅっ!おもいっきり吹き出した。

え?なに?付き合ってる?私が?

「ゲホゲホ、なに・・・それ・・・」

「いやさ、すずのんと新田くんと結構つるんでるじゃない。仲いいし」

「そうかなぁ?」

「うん。みんなそうじゃないかと思ってたけど」

「えー、まじか」

「案外お似合いだと思うよ」

「えー、そうかなぁ?」

「うんうん。もう付き合っちゃいなよ」

「でもねー。付き合うとかねー」

 想像つかない。考えたこともなかった。

「なんかそういうの興味なさそう」

「そうでもないよ。新田くんって、おっぱい星人じゃないかって噂も流れてるし」

「やめてやめてそんな新田くん聞きたくない聞きたくない」

 耳を塞ぎ、うずくまる私。私が気付いてないだけで、割とそんなものなのだろうか。

 がっかりだ!

「なるほどねー。すずのんって、新田くんのこと結構信頼してるんだ」

 話を戻す委員長。

「そうなのかな」

「そうなんだよ。そっかー、じゃあ恋愛感情に至らないか」

 ふざけんな恋愛脳。って新田くんはそう切り捨てるんだろうなぁ。

 いや、意図的に逸らしているのか。恋愛とかの話から結構遠いような感じがしてたけど、何か触れられたくない秘密とかあるのかな。

「結構お似合いだと思うんだけどなー」

 つまんないの、と口をとがらせる委員長。恋愛トークをめんどくさがる新田くんの気持ちが良く分かる。

「あれ、今何分?」

 教室には、時計というものがない。各自の腕時計やら携帯やらで確認するのが普通なのだが、どちらも鞄に仕舞ってしまった。時計は残しておくべきだったか。

「6時55分」

「そっかー、じゃあもう行かなきゃ」

「仕事?」

「んー、そんな感じ」

新田くんの件、とは言わなかった。言いたくなかった。

今回の件に、新田くんに、あまり人を巻き込ませるべきではない。そう思ったのだ。

「行ってらっしゃい」

「ハーイ」


「来ない」

7時05分。

新田くんはまだ来ていない。もうどこかのクラスの人たちが作業を始めている。

食堂で座り、今日のシフト表を机に拡げて10分。

私は椅子から立ち上がって、左右の確認。先生は、居ない。

おもむろに携帯を取りだし、ラインを開く。新田くんはツイッターをやっていないので、動向がよく分からない。

『遅刻』

と打った。これで急かす。

『ごめん』

すぐに返信が来た。

『あと2時間くらい遅刻する』

新田くんの、高校生活初の遅刻だった。昨日のことで何か思うことでもあったのだろうか。

『何かあったの?』

と送信して、そして頭が真っ白になった。

そうだ、何かなくちゃこんな日に新田くんが遅刻してくるはずがない。何かあったのだ。

何があった?

昨日のあの男、新田くんの元担任、岡崎。昨日この学校の近くに来ていたのが、何かの偶然ではなくそれを装ってのことだとしたら。昨日は私が居たが、今朝は1人だ。もし、1対1で遭遇してしまったら。

あの男が新田くんの過去に深く関わっているのは予測できる。

そして、昨日の今日で新田くんがいなくなった。あの男がそれに関わっていると見るのは自然な流れだ。

と、頭のなかでショートしかけつつも、なんとか考えを巡らせる。

ふとスマホに目線を落とすと、10秒も経たない内に返信が返ってきていたようだった。

『寝過ごした』

うん。嘘だ絶対に嘘に決まっている何かあったのにそこから阻害しようとしている私の時はあんだけ首突っ込んできたのに自分の時だけ偉そうに自分で解決しようとしてるこの前誰かに頼らないのは良くないとか語ってたのにーーーーーー。

と、私はキレた。

「君、なんで携帯使ってるんだ」

その後ろから先生が注意してきた。


私、立川涼乃は、只今不機嫌である。

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