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ビハインドヴァイス02

てさてさ。今回の語り部は、私、立川涼乃だ。

今回の話の発端は文化祭初日にあるのだが、私はその前日からのことを語ろうと思う。前回のように時系列がごちゃ混ぜになることがないようにするためだ。

 時間は午前6時。

「おはよー」

 ふわわ・・・と仮眠室から出てきたアキ姉・・・じゃなくて浅倉さん。寝癖にジャージでかわいい。夜10から午前2時の前半班で私とは別行動だったので、8時間ぶりの感動(笑)の再会である。ぜんはんはん、って語呂が悪いなぁ。

「うん、おはよう・・・」

「おー、やっと6時か」

 答える私と新田くん。私たちは午前2時から6時の後半班で、睡眠時間4時間から寝起きで4時間ぶっ続けで作業したので、少なくとも私は精神的にボロボロある。無睡で徹夜の新田くんは平気そうな口ぶりだが、目が死んでいる。こうはんはん。

「いいんちょー、先生起こしてきてー」

「えー?先生寝てたの?」

 段ボールの山の中から声。

委員長は、たゆぽんとも呼ばれているが、あだ名が2つなので、どちらで呼ぶかはまちまちだ。今回は、委員長で統一する。

「ちょっと待ってて・・・あれ?出れない!助けてー!」

「えー、まじかよ」

 新田くんが段ボールの山に向かった。

「うわっ、固い!動かねぇ!委員長なにしてたんだ!」

 手伝ってー!

 ほんとに動かないのー?

 うわこれどうしよう!

もう壊すか。

作り直しとかやだー!

と、いった具合に、みんなアクティブだ。どうやらみんな早くも疲れやなにやらが一周してハイになったようだ。

「私が行くよ」

アキ姉、じゃなくて浅倉さんに私は言って、部屋から出ていった。

仮眠室は、隣の隣の教室を二つに分断して使っている。右が男子で左が女子。この教室は、文化祭では使わない教室であり、簡易的な物置小屋になっていたのを、新田くんの指示で改装したものだ。大雑把に巨大パネルを立てて教室を左右に分断し、事前に置いてあった他のクラスの備品は教室の外に出した。そんなに量はないので、後でもう一度かたづけられるだろう。

 長崎先輩の案ではなく、今回は新田くんが自分で考えたらしい。委員長に仮眠室の提案から実行まで行ったという。長崎先輩に頼りすぎというのを嫌ったのか。

 扉を開くと、我らが高槻先生があおむけに寝ていたのを発見した。その他はちゃんと起きてのそのそしてる。正直近寄りたくないのだが、起こさなければこの後に支障が起こりかねない。

 肩を叩き、ほっぺをぺちぺち。

「せんせー起きてください!おーきーてー!」

 が、完全に無反応。ノンレム睡眠。徹夜での作業とはいえ、この後が正念場だというのに何やっているんだこの人は。

「うーん・・・」

 とうめき出した。そして目を開いて、こちらを確認したと思うと一言。

「あと5分・・・」

「ダメです」

「あと・・・気分」

 幼女になった吸血鬼のような発言。

「ダメです起きてください!」

「目覚めの・・・接吻(セップン)

「しません!」

 私の知ってる白雪姫は口を開けてそんな間抜け面で寝ない!夢を壊すな!

 思わず叫んでしまった。

「んー、どーしたのすずのん」

「先生を起こさなきゃ」

「あれ、もう6時?」

「手伝ってー」


 5分後。あらゆる手を尽くしても起きようとしない高槻先生に対する、最後の手段を思いついた。

 よいしょっと。

 ほかの人に手伝ってもらって、物理的に先生を起こした。つまり今、先生は起立している状態なのだが。

「スー、スー」

 先生は熟睡の様である。起立したまま寝ることができる人間の存在を私は知ることとなった。大人って大変なんだ。

 先生の前には、支給された毛布やプチプチ、その他柔らかいものを敷いてある。真実と共に、答えは一つ。

「くらえっ!」

 先生を倒した。即席クッションに顔から突っ込んだ高槻先生。

「うう・・・」

 そして、その状態で固まった。

 対象、完全に沈黙!もう手がありません!

 私たち『即席目覚まし部隊』があきらめかけたその時、扉を開く音がした。

 制服が若干崩れている委員長と、新田くんだ。後ろから光が差し込んでまぶしい。

「高槻先生」

 はぁ、はぁ、と息が荒い。委員長の救出は割と大変だったようだ。

「何やってるんですか、もう時間ですよ。早く起きてください」

「もう少しだけ・・・」

 新田君の説得にも1ミリも動かない先生。だがしかし。

 

 さてお立会い。

「あれ、ばらしますよ」

 新田くんのその一言が言い終わる前に、高槻先生が飛び起きたのだ。

 そして、みんなを見まわして一言。

「さぁ、作業の調子はどう?そろそろ6時だし、教室前に集合ね。ほらみんな急いだ急いだ」

 高槻先生改めてこの野郎。その瞬間、たくさんの冷たい視線が仮眠室の1人の教師に向けられたのだった。


前回のように雑談ばかりというわけにはいかない。文化祭というイベント故に、非日常的な事が起こりやすい。そして、視点ひとつひとつから、物語は形を変えるのである。

この後、私たち12人の精鋭たちは近くの銭湯に行った。担任引率の上で、ではない。担任はその後のデスクワークが残っている。

着替え等の準備も事前にしてあり、何事もなく、ノゾキ等の珍事も無く、7時半に教室に戻ってきたのである。

そして、また作業に戻った。居残り組でないメンバーも、この時間にはほとんど登校してきていて、クラスの作業は、打ち合わせも含めて、2時ピッタリに終える事ができた。

実行委員の作業は、昨日のうちに大半を仕上げてあり、2時間の作業と30分のミーティングを終えると、もうやることが無くなっていた。11時から私と新田くんは参戦し、今に至るのである。

何事もなく、スムーズに事が運んだ。

嵐の前の空白のように。


2時30分。

クラスの打ち合わせも終わり、明日に備えて早く帰ることとなった。

私は、新田くんと駅への道を歩いている。女子と帰る選択肢もあったのだが、新田くんから聞きたいことは山ほどある。正直今日中に2人きりで腹を割って話し合うタイミングが欲しかったのだ。

私が泣きじゃくった自販機を通り過ぎたところで、新田くんが言った。

「僕電車の中で寝るから、飛鳥駅で起こして」

飛鳥駅とは、この辺りのターミナル駅というやつだ。ターミナル駅が何かわからないって?乗り換えできる大きい駅のことだよ。

「ごめん、眠い」

見ると、新田くんの目は死んだ魚の様で、(くま)もひどい。割と疲弊しきっているようだった。

この状態の新田くんに説明を求めるのは酷か。仕方ない。

「いいよー」

と、答えたと同時に。

「おぉ、中村じゃないか」

いきなり、正面から声をかけられた。前を見ると、髪は整っていて、黒いスーツの細い体。見た目三十路くらいの背の高いおっさん。

はじめ、声をかけられたことに全然気付かなかった。当然だ。私も、新田くんも名前に「ナカムラ」なんて読みは無いのだから。

しかし、新田くんがそれに反応した。

ふと横を見ると、新田くんが立ち止まってその男を見ている、どころか怯えた様子を見せているのだ。

「あー、邪魔したかな」

「いえ・・・」

とほぼ条件反射気味に答えてしまった。しかし、邪魔されたわけでもないのだが、新田くんの怯えようを、動揺の様を見せられると、あまりいい気がするわけでもない。

何者なのだ、こいつは。

新田くんを、どこか懐かしげな表情で見たと思いきや、今度はこちらを向いて言った。

「中村の、中学校の頃の担任の岡崎隆太郎です」

名乗られた。が、その前に中村とは、誰だ。いや、この岡崎という男から察するに、答えはわかりきっている。

「立川涼乃です。新田くんのクラスメイトです」

この男の言う中村とは、恐らく新田くんのことだろう。考えるまでもない。

だが、なぜそんな間違いを起こすのだ。いや、それも大体の見当はつく。この男と新田くんの繋がりが薄い内に、新田くんは名前を変えたのだ。恐らく春休みの間に。

「あれ、新田?・・・あぁそうか、そういうことか。なるほど」

なぜだ。

なぜ、新田くんは名前を変えたのだ。

そしてなぜ、新田くんは今怯えているのか。

そこまで考えてから、私は1歩下がった。

ダメだ。多分、今新田くんをこの男に干渉させてはいけない。新田くんの過去に何があるかわからないが、今は、ダメだ!

「新田くん!」

私は新田くんの手を引き、走り出した。反応が少し遅れたようだが、新田くんも走る。

「あぁ!ちょっと!」

後ろから声がするが、確認している暇はない。

私たちはそのまま駅へと駆け込んで行った。

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