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ヒャッキヤギョウ・ブラック08

今回のオチ。

鬼と対面したところから。


「それは困るな」

この辺かな。

「そこが閉じると、今宵の宴を行えない」

鬼は言う。

「取って喰うような野蛮な真似はしないし、邪魔をしないで欲しいものだな」

身長2メートル強。野蛮な姿の鬼はそれだけ言うと、あぐらをかいて肘をついて、こちらをじっと見てきた。

いや、じっと見てこられても困る。

口を開いたのは、菊理さんだった。

「鬼か」

「如何にも」

「何故此処に?」

菊理さんの口調がやけに格好いい。

「宴を開くためだ」

他に何がある、と鬼。わけがわからない。

「あの鏡から来たのか」

いや、菊理さんは強がっているのか。弱気でいったら、なめられるから。

「無論」

「その鏡は」

話に割り込む隙がない。

「その鏡は、いつからあるんだ」

「さて、いつだったか。永いこと生きてきたから、時間というものに執着はないからな」

長いこと永いこと、不死身の鬼は、生きてきた。

「その奥には、何があるんだ」

「何でもいる。死者の魂も、鬼も狐も猫も河の童も、何でもいる」

「怪異、妖怪」

「そんなところだ」

「話が通じるもんだな」

「カタカナ語もいけるぞ」

「そいつは凄い」

「お前の口調の方が古臭いぞ」

「お前の存在の方が古臭い」

「言いおる」

そして、彼らは互いの手を握りあい、そして、何故か、菊理さんと鬼の間に友好的な関係が保たれたのであった。

「あの」

ようやく、僕は口を挟む余裕を手に入れた。

「なんだ」

「えっとその」

「なんだ坊主。そこの娘のように顔を上げて話せ。少し前と違って、その調子じゃあすぐに女に負けてしまうぞ」

女も戦う世なのだろう、と続ける。

「何も少し前から『たいむすりっぷ』してきたわけじゃない。文化も何も、きちんと眺めてきたんだ。そうしてみると、世界とは、なかなか広いものだったのだな。それを知るまでおれは井の中の蛙のようだった」

タイムスリップが平仮名だ。カタカナ語を使えてない。

「年に1度、ここで宴を開くのだ。いそいそと何かを作る若人を酒の肴にな。と言っても食いはしない。ただ眺めるだけだ」

喰わない。襲わない。そして、無害。

人を騙す鬼はいるのだろうか。

「何故、こんな早くに出てきてるんですか」

「お前達からしたら、むしろ遅いだろう」

「丑三つ時とかじゃないんですか」

「それはあれだ、お前も昼の14時に起きたりしないだろう」

なんだろう、日本人と外国人が互いの言語を話しているような、しかもこちらの方が下手で気まずい感じに似ている。

「猫も、狐もいると言いましたね」

「タメ口で構わん。おれは偉くもなんともないからな」

カタカナ語を使ってきた。さっきのはわざとか?

「知り合いが、猫と狐に憑かれてたんです。もし、それがこの鏡から現れてきたものならば、僕はその鏡を破壊せざるを得ないんです」

「そうか、そうか。猫は知らぬが狐には心当たりがある。悪戯が好きでな、よく人にとり憑いてはその辺から落ちる。スリルがあるらしい。おれは気が知れんがな」

「それは、」

「しかし破壊は出来ないだろう。これは半永久的に稼働し続けるからな。稼働し続けるからには陣は崩れないし、陣が崩れない以上この鏡は稼働し続ける」

全く、あの女はヤヴァイな。と鬼は言った。ヤバいを噛だのか。

あの女とは、誰だ。

「けど、移動させることはできるはず」

と呟いた。それに菊理さんは返す。

「いや、もう無理」

「なんでですか」

「オカルトの力で縛られてるのもあるけど、そもそも、鏡の外枠が錆びてくっついてる」

よくみてみると、本当に錆び付いていた。なにもなければ力をかければ強引に外すこともできるかもしれないが、オカルトのエネルギーだのなんだので、力業を使えない。

「多分新田くんはお姉ちゃんから十分な説明を受けてなかったんだ。私は、お姉ちゃんから、新田くんのお仕事の修正をするように頼まれてきたの」

「修正、ですか」

「うん。今から、この屋上に結界を張る」

「どういうことですか」

「今、この鏡から流れてくるエネルギーは、垂れ流しの状態にあるの。そこに、結界っていうダムを作って、周囲への影響を調節しようってところらしいよ」

「え、でも今の状態は全体から見れば安定しているんじゃ」

「部分的に見たら不安定この上ないよ。立川さん、だっけ。あんな感じの弊害が割と多いから、流石に蓋が必要になったんだね」

鏡のエネルギーの弊害は、何も立川の狐だけではない。この学校の七不思議は、全てこの校舎絡みなのである。

鏡から垂れ流しにされた霊的エネルギーが、心霊現象や怪奇現象を引き起こしても、何らおかしくない。

「おい鬼」

自分の2倍はある鬼に、菊理さんは呼び掛ける

「なんだ」

「鏡にはなにもしない。この屋上を囲うように結界を張る。いいな」

「ああ、構わん。話は大体把握したからな」

そして、僕は貴重な睡眠時間を生け贄に、屋上の装飾を始めた。


午前1時半。

作業を終えた僕と菊理さんと、それを酒を飲みながらそれを見ていた鬼(その類いの欲がないのか、服という服を着ていない。6月とはいえ深夜だ。寒くないだろうか)は鏡の前に集まった。

「とりあえず、鏡から流れてくるエネルギーで結界を張った」

「そうか、お疲れ様だ」

「えっと、そろそろおいとましても」

「まだ時間あるでしょ」

「えー」

そんな具合で、だらだらとそこに居続けている。


「結界を張ってくれたのはこちらからしても有難い。範囲内で何をやっても外に影響しないからな」

鬼がそう言った。

「何をするんです」

「相撲だとか賭博とか」

丁度鏡に背を向けている状態だ。

「先輩、もう時間ヤバいです」

「そうか、それは残念だ」

何故か、鬼が答えた。

「なぁ、少年」

「なんです」

僕が立ち上がると同時に、鬼が呼び掛けた。

「急いで生きるのも良いが、たまには周りを見渡して生きてみろ。そこで見つけたものは、お前にとって大切であり続けるだろうよ」

「・・・そうですか」

餞別の言葉、というやつか。

「後ろを見てみろ」

後ろ?

僕は言われるがままに振り返った。


さて、お立ち会い。

僕の目に飛び込んできたのは、河童のようななにかが相撲を取り、見たことのないような動物が地や空を駆け回り、純白の着物を着た人間やら、鬼やら、背から羽が生えた天使やらが酒を飲み、そしてそれらは皆楽しそうである、そんな風景だった。

こういった、オカルトが混沌として集まっているのを百鬼夜行と呼ぶのだっけ、いや違ったか、なんて考えながら、僕はその光景に見とれていた。

「少年、今あるものを大切にしろよ」

後ろから、そんな言葉をかけられた。


深夜2時。

僕は作業に復帰した。

が、早々に立川に捕まり、委員長が尋問室(空き教室)を提供し、僕は拘束されてしまった。

「新田くん!なんで起こしてくれなかったの!?」

「なんか、寝顔かわいくて起こす気失せたんだ」

軽い冗談。

「怒るよ」

「寝坊したお前が悪い」

はぁーーーーーー。と。

長いため息をついて、立川は話題を切り替えた。

「で、なにやってたの?」

「えっとだなー」

なんて説明しようか。事が事なので、今回の件は立川に内緒である。

「実は、」

「きゃ!」

突然、立川が悲鳴をあげた。

「き、狐火!」

僕の後ろを指差して言う。僕はすぐに振り向いたが、若干青い光が見えたような見えなかったような、といった感じだった。

恐らく、結界を張る前に流れたエネルギーが、変質して、小規模な怪奇現象を産み出したのだろう。誰かが憑かれたりとかは無いだろうが、出来るだけ内密にしておきたかった身としては、2番目に悪い状態だ。

「実は、僕はさっきまでそこらに悪霊退散の御札貼ってたんだよ。だから、御札の影響受けてないみたいだし特に悪いやつじゃないと思うよ」

僕は最大限の誤魔化しを利かせた。

さて、立川の機嫌をとるにはどうしようか。

ヒャッキヤギョウ・ブラック完

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