ヒャッキヤギョウ・ブラック03
時はまた戻り、なんか申し訳ない。
数日前。
お昼休み前、僕は長崎先輩をラインで呼び出した。
『お昼空いてますか』
『空いてるよー!』
『食堂で少し話したいことが』
『わかった。窓際の席で』
といった具合だ。窓際って社会人的にあまり嬉しくないワードらしいのだが、まだまた未熟な僕にはわからない。
「あー!新田くん携帯使ってムグゥ」
「声が大きい」
両手で全力で立川の口を塞ぐ。バシバシ叩かれたが知ったものか。
「ぷはぁ!なにすんのなにしてんのなんなの!」
「むやみやたらに人の携帯を没収させようとしちゃいかんな」
うがー!立川が唸る。
「で、何してたの?パズドラ?」
「長崎先輩とライン」
「え。・・・そっか。もうそんな関係に」
「しつけえぞ恋愛脳」
ここまでテンプレ、というやつだ。こんな駄弁りがないと話が始まらない。でも、どちらかというとお約束か。
「仕事だ仕事」
「嘘つき」
何の仕事とは言ってないから嘘じゃないもん。
そんなこんなで立川を振り切り、食堂へ。僕はお弁当だから食券だのなんだのの手間はいらない。長崎先輩の言い方、じゃなくて書き方だと、早く着いた方が席をとっておこう、ということだろう。
食堂を見回すと、もう長崎先輩が窓際の席にいた。早い。
そのとなりにもう一人女子がいた。しかもチャラい。怖い。正直近づきたくない。
普通に駄弁っているが、僕はあの人を知らない。絶対に文化祭実行委員の人じゃない。
「こ、こんにちは」
「おー、こんにちは」
長崎先輩が返す。
「あ、来たの?」
そしてチャラいのが振り向いてきた。振り向いてきた振り向いてきたうわ怖い!
「あれ、怖がられちゃった」
「どちら様で」
「この子のクラスメイトのたちもりきくりよ。よろしく」
たちもり。
「新田君の話したら、会ってみたいっていうからつれてきたの」
「そうそう、結構面白いことやってるようでね。いいね、君」
まさか、こんなところで会うとは。
「日月と書いて、たちもりですね」
「そう。おねえちゃんがお世話になったようだね」
日月有里。たちもりゆり。少し茶色いロングヘアで、前髪にピン止め。眼鏡を掛けて、右肩に鞄をさげている。身長は僕と同じくらいだが、とても華奢な体躯をしている。もう成人しているらしいが、高校生にまじっても違和感がないくらいの容姿だ。私服姿で、毎日どこかで遊んでいる。
そして、立川の猫を祓うことに、彼女は協力してくれた。都市伝説とか怪異、妖怪。それに呪術。オカルトの分野に関して、広く浅く取り扱っている、歩くオカルト辞典の有里さん。
日月菊理はいとこ、だそうだ。言われてみれば、似てる。気がするだけかもしれないが。
清楚系の有里さんに比べて短めの茶色い髪の毛。立川の髪の毛がはねているように、アホ毛が頭にちょんっと乗っている。
「いえーい。ぴーすぴーす」
菊理さんは目のあたりに手を当てる。
「なんでいきなりキャラ変わって、西尾維新先生の化物語みたいなこと言ってんすか。しかもかなり新しいキャラのやつで」
斧乃木ちゃんだった。
「たっちゃん!いきなり脱線させない!」
長崎先輩が軌道を戻す。
「ごめんね、この調子であと何回か脱線する」
「その回数を数えればいいんですね」
「違う」
じゃなかった。
「今日呼び出したのは、一つお願いしたいことがあって」
「お願い?」
「はい。僕のクラスで居残り作業したいという意見があって、なんとか先生を説得できないものかと」
「そうなの。いいわよ。出きることなんでもやるわ」
即答だった。こちらから頼んだ身の上だが、長崎先輩は少し甘い気がする。
「なんでも、というか1つだけなんですけど」
「私に何をさせる気なの!?」
「掌返しが早い!そして僕は何をさせようとすると思ったんですか!」
「ツッコミが長い。失格」
菊理さんにツッコミのダメ出しされてしまった。
じゃない。この調子だと話が続かないな。
「先輩のクラスと僕のクラスで連携をとりたいんです」
「却下」
即答だった。
「新田くんにしては珍しいね。こすい手だし、計画性ないし」
「うわすごい。全部ばれてる」
幸運の女王は伊達じゃない。
因みに、僕のとりあえずの案。僕のクラスと長崎先輩のクラスで連携をとるというのは、僕のクラスで客を集め(それができる出し物の予定だ)そこでクーポンの類いを配布する、という手だ。
客足は増える、客は商品を買っていく。上は検討しようとするだろう。
まぁ、「あそこだけずるい」なんてもめ事になるから却下は当然だろうが。
「うまく説得する方法が思い付かなかったわけでして」
「なるほど、それで何かいい案がないか聞きに来たんだ」
冷ややかな目で見る菊理さん。
「いい案ねー」
何も気付いてない様子の長崎先輩。なんだこの差は。
そして、
「うん。あるよ。いい案」
長崎先輩のいい案とは、脅迫だった。