ヒャッキヤギョウ・ブラック02
居残り作業。
とてつもなく作業量が多い場合、担任との協議の上で学校に泊りがけで作業するというものだ。が、泊りがけでやるほど作業量が多いクラスはそうそう多くない上に担任の負担が恐ろしいほど大きいので、なかなか許可が出ないものだ。それは僕のクラスも同じだった。だがしかし。
「えー、皆さんのクラスの出し物への誠意を感じ、その意義があると感じまして、私監督の上で居残りでの準備を認めます」
ヒャッハー!やったー!と叫び声がホームルームの中で響く。
僕は笑顔で先生を見つめた
そんなこんなで、僕のクラスは居残り作業を実施することとなった。
時は戻り、今日9時30分。
僕は長崎先輩の命令で、クラスTシャツ展示教室の内装を行っていた。
細かい作業ばかりだったのが、力仕事も入ってきて新鮮だ。
体をふらつかせながら、机を運ぶ。
「あれ、新田君。早いね」
関心関心、といいながら胸を張ってドヤる立川。遅刻してなに言っているのだ。
「胸を張っても割とむなしいのな」
「・・・ッ!!!その左腕ぶっ壊してやろうかァ!!?」
どうどう。
「この遅刻野郎め」
「負けた!セクハラ野郎に説教されてる自分が恥ずかしい!」
「遅刻を恥ずかしがれよ」
「たった15分でそこまで言わなくても」
「長崎先輩」
「すみませんでした」
最近、立川と長崎先輩の上下関係が際立ってきた。というか、怖いお母さんといたずら娘のような、女体化波平と女体化カツオというか。
「今日の作業量がどれほどのものか知っての発言かい?ミス立川」
「それは人がいなかったのが原因でしょ、ミスター新田」
「ほんと集まらなかったな」
結局のところ、人手不足は解消されなかった。初期の段階からの問題である故、何度も何度もいろんな人に呼びかけたが、部活との両立の難しさ、そもそもクラスのほうに参加したい、と完全に拒否された。とりつく島もなかった。
「新田君、その左腕どうなの?」
僕の左腕の上腕二頭筋。の包帯を指さして立川は言う。
「かっけーだろ」
「中二?」
「え、これかっこよくない?」
「いや、よくわかんない」
「えーロマンじゃん」
「ロマンが何かわからないけど少なくとも二の腕に巻かれた包帯ではないと思う」
「わかってないな。ロマンを解せないなんて」
「うわ、新田君らしからぬクッサいセリフだ」
「立川にとってロマンってなに?」
「栗」
マロンだった。答える気はないのか。
「これはさ、両手使えないと作業に支障が出るし。一応な」
そこのハサミとって。
ハイ。
この部屋の設計は質素なものだ。机を二段に重ね、左右の幅をとりつつL字の道を作る。空いたスペースに審査用紙とそれを書く場所を設ける。積み上げた机は百均の布で地味に彩り、そこにクラスTシャツを展示する、というところだ。教室の外も軽く装飾する。これも意外と時間を食うのだ。
ガムテープどこー?
そこだよそこ。
どこー?
これらの作業をあと2時間で終わらせる必要がある。そしたら早めの昼休み、そして体育館の整備に装飾。
下校時刻に間に合うように長崎先輩の組んだスケジュール。明日の活動が軽くなるようにするため、今日中に全体の3/4を終わらせる必要がある。
らしいのだが、人数的にスケジュールが鬼畜になってしまうのだ。
「左腕はまぁ、パッと見ではわかんないでしょ」
「まぁね。でも今朝見たときはビックリしたよ」
「昨日病院行って貰ってきてね。うん、調子よければ続けるかも」
「長崎先輩なんか凄かったね」
「ビックリ仰天だったな」
大声あげて、ナニソレー!って。
「でも慣れないと大変でしょ?」
「うん」
もう外したい。言わないけど。
そーいえば。と立川が前置きして、こちらを向く。首を傾けているので、サラサラした髪が揺れて、目が隠れそうになる。
「なんでわざわざ先生を脅してまで、居残り作業実施させたの?」
「なんのこと?」
「せんせーから許可でたとき、新田くんだけ喜び方違ったよね」
なんか、思い通りに行ったみたいな。
自信満々の目をして、こちらを見る立川。
「よく見てるな」
「なんのことかな」
そこで誤魔化すのかよ。
「もしかして、またなんかあったの?」
「いや、違うんだけど、その前に」
僕は左手にガムテープの芯を持ち替えて、言う。
「とりあえず、お前は今日の居残りに参加するなよ」
「やーだね。ついてくよーだ」