ヒャッキヤギョウ・ブラック01
狐、猫、ストーカー云々があって短期間ながら波瀾万丈だったが、ようやくここまで来た。そう、文化祭前々日からの準備期間だ。各部署、各クラスが前々から準備していた小道具大道具をセッティングするための時間であり、この日から授業が無い。それぞれのボスと手下たちが走り回り、買い出しやペンキ塗りに勤しみ始める。
ということを前々から予測して、僕の所属している部署は大抵の準備は終わっており、後は組み立てるだけの状態でこの日を迎えることとなった。
2日間の準備期間と3日間の文化祭。割とヘビーな日程だが、長崎先輩は事前に予定を組んでいるらしく、予定通りいけば自由時間も多くなるらしい。
8時00分。
「新田くん、ホントに居残り参加するの?」
「うん。まぁ雑用くらいしか出来ないだろうけどね」
「実行委員の方は大丈夫なの?無理してやらなくてもいいんだよ」
「あーっと、ホラ、僕全然クラスの作業に顔出してないからさ、なんかやっとかないと」
「うわ真面目じゃん」
「そうかな」
クラスの女子、委員長さん。名前はなんて言ったっけ。まだクラスの人の名前覚えきれてないんだよなぁ。
「わかった。許可証持ってきた?」
「ハイ」
「んーと・・・うん、おっけ」
「マメだね」
「仕事だし」
「流石学級委員」
「まぁね」
そう言い残して委員長さんは女子の群れに戻っていく。
新田くん参加だってー。
えー、意外ー。
・・・。なんというか、自分が女子のネットワークの中でどういった扱いになっているか考えるだけで恐ろしいな。今の発言で気持ち悪いとか思われたらやだなーとか思ってビビるわ。
女子のひそひそ話って見てるだけで不安になるし。
「新田、参加できんの?つか偉いなー」
「うっさいわサボり魔」
「そんでそんでー、新田くんはどの子が目当てなのかな?」
「ねぇよ?僕の行動原理はそこにはないからな」
「えー、でもでも夜の作業中に夜の作業に入っちゃうとか想像してたりしない?」
「そんな妄想が通じるのは盛りの中学生までだ。つか監視の目がキツイって噂だし」
「うわまじかー、参加しなくてよかったわ」
とほざく悪友、神崎祐介は、割と最近仲良くなったやつだ。
特に特徴もなく、僕より背が高いくらいしか書くことはない。あと黒髪。
文化祭の作業には非積極的な態度だ。まぁ僕は特に困って無いからいいけど。
「薄情者」
「まぁおれは当日のために英気を溜めておく必要があるからなー」
「それはいいけどさ」
「なに?」
「あの委員長がシフト任されてるから多分サボった分だけ働くことになると思うよ。真面目過ぎるしやりかねない」
「いやああああ!楽しい楽しい文化祭があああ!」
「そんで溜めた英気はクラスの店番で使い果たされるわけだ」
「く、くそう!なんとかして媚びを売らないと!」
どうしてそこに行きつく。
「例えば?」
「何か弱みを握る!」
「今お前が握られてるのはなんなんだよ」
「じゃ、じゃあ適当に優しくする!」
ノープランだった。
「あ、そうだ僕初日ご飯買いに行く時間無いから、パシリ頼んでもいい?」
「なんで今言うんだよ!」
「思い出した」
「この野郎!慈悲はないのか!」
「まぁ、神崎の残り少ない10分を削るのはさすがに酷か」
「おれそんな減らされんの?泣くよ?」
と、精神を擦り減らされて涙目になる神崎。いじめ過ぎただろうか。
こんな冗談が通じなくなるくらいには、神崎は作業をさぼっている。
「二人ともどうしたの?」
と声をかけてきたのは、浅倉だった。今日からクラスTシャツでの作業ができるので、早速着替えたようだ。作業の邪魔になるのだろうか、茶色いロングヘアを後ろでまとめている。この前のメリーさん事件では肩にかける感じだった、やはり髪型が違うと印象が変わるものだ。正確に反して、スポーティというか明るい感じが出ている。そして青いシャツから浮き出る胸のふくらみは意外と大きかった。気づかなかった、隠れ巨乳だったのか。
「浅倉さん!助かったよなんとかしてくれよたのむよー」
と情けない声を出す神崎。
オーヨシヨシと頭をなでながら、僕のほうを見る。
「で、どうしたの?」
「サボりまくってたから、シフトきつくされたらどーしよー」
「あー、なるほど」
と軽く笑うと、神崎から手を放した。
そして。
「アンタのせいで私が準備に追われたんじゃ!自業自得だ観念しろー!」
「痛い痛い痛い痛い!ごめんなさいいいいいいい!」
ゴリゴリゴリィ!この世のものとは思えない効果音。委員長と共に地獄の前準備期間を過ごした浅倉の恨みが爆発する。