祖父話1 後悔するようなことは・・・
眠っているセリアテスを見守りながら、わしは激しい後悔に苛まれていた。
新しいことを知る楽しさに、もう少しで取り返しのつかないことになるところだった。
ことのおこりはなんだったか。
そう、セリアテスがゴムが欲しいと言ったのだった。
ゴムを何に使うか聞いたら、服を改良したいと言い出しおった。
それもセリアテスの言う「彼女」に教えてもらったことらしい。
それに、服の改良は魔物の大量発生にも関連していることだという。
確かにセリアテスの言う通り、貴族が着る服は一人で着られるようにはできていない。
これでは、有事の際には困るだろう。
わしも40年前の討伐の時には苦労したものだ。
それが当たり前だとおもい改良しようなどとはおもわなかった。
まして、それが、女性の討伐参加に繋がるなどと、誰が思う。
だが、セレネの言う通り、これから起こることを先に教えてもらっているのだとしたら。
男も女も関係なくことに当たらなくてはならないのだとしたら。
できる準備はしておくべきだ。
セリアテスは男の子が着る服を欲しがった。
それが、必要だと理由をちゃんと話してくれた。
言うことには一理あった。
そして、紙にどういう風に変えたいのか書いていった。
紙に書かれた、服の改良点。
それから、ボタン、ベルト、ホックの素材と形。
どういう風に使われるのか書かれているものを見て、不覚にもワクワクしたわしは、それらを用意してしまった。
用意ができると作業室にセリアテスを連れてきた。
用意した物を見てもらい、大丈夫そうなので、ボタンから作ってみることにする。
作り方は知らないというセリアテスに見ているようにいい、わしは木の棒を手に取った。
風魔法を使い棒を細かくする。
そのうちの一つを平たくて丸い形に魔法で、削っていく。
きれいになった物をセリアテスに見せて、良さそうだったから、次の木切れを同じように削っていった。
何をしているのかわかった、セレネとミリアリア、ミルフォードも同じように作り始めた。
楽しくて、同じ物を作るために集中していた、わしらは気が付かなかった。
セリアテスが魔法を使おうとしていることに。
記憶を失くしたセリアテスには魔法は使えないと思ってしまっていたのだったから。
気が付いたときには、セリアテスは木切れを手のひらに載せ、呪文を呟いていた。
魔法は発動し、平たくて丸い形になっていた。
それどころか、穴が2つあいた、ちゃんとしたボタンができていたのだ。
わしは、不覚にもセリアテスに声をかけそびれてしまった。
そう、タイミングを逃してしまったのだ。
セリアテスは穴のあいたボタンに、首をかしげていたが、その手が針金に触れた。
と、思ったら形が変わって、絵に描かれていたホックへと変わってしまったのだ。
セリアテスが小さな声で何かを言っている。
いや、何かじゃない。
「とりあえず20個・・・あと、サイズは・・・あの形も・・・」
その通りにいろいろな形のものができていく。
「セリア?」
セリアテスの様子に気が付いたミリアリアが名前を呼んだ。
気が付かないのかセリアテスは動物の皮を手に取った。
「・・・幅は3センチ・4セン・・・5・・・長さ・・メートル・・・」
動物の皮が切られていく。
次に金属の塊を手に持った。
「バックルは・・・棒・部分・・・通す・・・ベルトを止める・・・」
皮にも触れていたからかベルトができていた。
「う~ん。かわいくない。・・・皮に模様を・・・先・・・丸く・・・私が使う・・・」
セリアテスが言葉を言うたびに皮の形が変わっていく。
まだ、納得できないのか、皮の長さを変えたり、穴を大きくして金属で囲んだりしていた。
満足したのかセリアテスの口元に笑みが浮かぶ。
「クスクスクス」
笑いが漏れてくる。
それと共にセリアテスの周りに陽炎が立った。
体から魔力が放出されていく。
「セリア?セリア!」
ミルフォードが声をかけながらセリアテスに手を伸ばす。
見えない壁にはじかれたように手は届かない。
放出された魔力がシールドの役目をしているのだろう。
「まずい」
「リチャード、これは」
「お義父様、セリアは、まさか」
「おじいさま」
「ああ、暴走しかけている。このままでは非常にまずい」
「リチャード様」
「屋敷の者を集めよ」
「はい」
ふらりとセリアテスが歩き出した。
廊下に出て裁縫室のほうへ歩いていく。
後をついて行きながらシールドを解除しようと魔法を唱えるが、一向に解除出来なかった。
裁縫室に入ったセリアテスはミルフォードの服に触った。
針が宙に浮き糸が勝手に針に通る。
シャツが見る見るうちに形を変える。
「クスクスクス」
セリアテスが笑っている。
ふと、セリアテスの手が止まった。
「ボタン・・・置いて・・・面倒・・・引き寄せ・・・」
その言葉と共に放出される魔力量が増えた。
セリアの手元にさっき作った物が出現した。
「あなた、早くしないとセリアの体がもたないわ」
「わかっている。だが、わし1人の力ではシールドを壊すこともできん」
「リチャード様」
セリアテスは笑いながら服を作り替えていく。
作り替えるだけじゃない。
新しい物を作り始めた。
布を切るために、金属からハサミまで作った。
次々と新しい服が出来ていく。
シールドを解除しようと魔法を唱えるがはじかれてしまう。
セリアテスの魔力の放出量が少し減少した。
もう、時間がない。
「あなた!」
「これから、わしと、セレネと、ミリアリアで一点に魔力を集中させてシールドを壊す。ミルフォードはシールドが壊れたらすぐにセリアテスを眠らせるんだ。いいな」
「「「はい!」」」
魔力を細い槍のように練り上げる。
「いまだ」
ミルフォードの合図と共に魔法を放つ。
パアァーン
何かがはじけるような音がした。
「セリア!!」
ミルフォードがセリアテスを抱きしめた。
「お、おにいさま?」
「わかる。セリア」
「あ、ああ・・・」
セリアテスの身体がガクガクと震えだした。
そして、ミルフォードの魔法で眠りについたのだった。
94話です。
さて、今話は少し長めです。
あの部分を1話で話したかったので。
じいさまから見た、魔力暴走の裏側です。
そうです。
あの時、何もしてなかったわけではないのです。
ということで。
では、次話で。




