9-5 クスクスクス・・・とても楽しいわ
てのひらに乗った木切れを見てみます。
おー、私にも出来ま・・・あれ。
穴もあいてちゃんとしたボタンになっています。
なんででしょう?
うーん。
と、悩んでいたら、針金?に、手がふれました。
ホックの形を思い浮かべたら・・・。
針金の形が変わってホックになりました。
うーんと、とりあえず20個あればいいいかな。
あと、サイズはあれと、これと。
あ、あの形も欲しいな。
思い浮かべるとその形に変わっていきます。
楽しくなった私は動物の皮を手に取りました。
えーと、幅は3センチと4センチと5センチにして、長さは1メートルくらいかな。
うん。これくらいね。
次に金属の塊を手に取りました。
バックルは穴に通す棒の部分と、ベルトを通すところと、ベルトを止める奴と・・・。
あら、皮も触っていたからベルトができちゃった。
う~ん。かわいくない。
えーと、じゃあ、皮に模様を入れて、先をちょっと丸くして、長さは私が使うくらいで・・・。
うん。いいかんじ。
じゃあ、これはどうかしら。
皮の長さを変えてみたり、穴を大きくして金属で囲んだりしてみて・・・。
クスクスクス。
これはこれでいいわね。
とても楽しくて笑いが漏れてくる。
クスクスクス。
あと、なにができるかしら。
そういえば裁縫室に布があるっていってたわね。
ふらりと歩き出した。
気持ちが高揚して気分がとてもいい。
廊下に出て気配を探ると、3つ先の部屋に人の気配がする。
ああ、やはりここが裁縫室だったのね。
あら、お兄様に頂いた服も持ってきてくれたんだわ。
クスクス。
じゃあ、シャツから始めましようか。
針と糸は、ああ、あったわ。
まずは前立てを作って・・・。
クスクスクス。
ほんと、魔法って便利だわ。
手を使わなくても魔法で針を動かせばいいのだもの。
次は、ボタンホールを作って・・・。
これってミシンじゃなくて手でやるのって、どんなマゾって思うわね。
で、ボタン。
あら、置いてきてしまったわ。
取りに戻るのも面倒ね。
引き寄せってできないかしら。
それなら作ったもの全部欲しいわ。
うーん。あそこにあったから、あれをここに・・・。
クスクス。
あらあら、これも簡単だわ。
では、ボタンをつけて。
と。
まあ、もう、出来てしまったのね。
クスクス。
じゃあ、つぎは・・・。
ズボンにベルト通しをつけて、ベルトを通す。
クスクスクス。
既存のエプロンに胸当てをつけて、肩紐から腰に通すように紐をつける。
クスクス。
布を操って割烹着をつくる。
クスクスクス。
私の普段着用の服を取り寄せて、前側にボタンをつける。
クスクス。
お茶会に着る服を取り寄せて、背中にホックを取り付ける。
クスクスクス。
それから・・・。
クスクスクス。
ああ、楽しいわ。
さあ、次は何をしようかしら。
パアァーン
何かがはじけるような音がしました。
「セリア!!」
突然声が聞こえて誰かに抱きしめられました。
私より少し背の高いハニーブロンドの髪。
「お、おにいさま?」
「わかる。セリア」
「あ、ああ・・・」
身体がガクガクと震えてきました。
それと共に私の意識は闇に包まれたのでした。
目が覚めた時には、ベッドの周りに人がいっぱいいました。
アルンスト侯爵家とルートガー公爵家のみなさまもいます。
モソモソと起き上がりました。
なんでしょう。
みなさまの目が・・・悲しみ?・・・憐憫?・・・憐れみ?
いえ・・・憂い?・・・案じる?・・・懸念?
何。私はどうしたの。
何なの。この感情は。
肩に手が置かれました。
顔を見るとお父様です。
いつの間にか私は、手で頭を押さえていました。
「大丈夫か、セリア」
「わ、わたし、私は。・・・どうしてしまったのでしょうか」
「落ち着いて、セリア」
「だって、なに、この感情。知らない。私じゃない。なんなの、これは!」
「落ち着きなさい、セリアテス!」
お父様が強く肩を掴んで揺さぶりました。
ヒステリーを起こしかけた私は、それでハッとしました。
お父様が私の目を見ています。
「身体は。どこか変な感じはしないか」
言われて自分の身体に意識を集中します。
どこも異常がないのがわかりました。
「だいじょうぶです」
「では、倒れる前のことを覚えているか」
「倒れる前ですか?」
あれ、私どうしたんだっけ。
たしか、服の改良をする話をして、それから部屋を移って・・・。
ああ!
わたし・・・わたしは!
「わ、私は、ま、魔法を、使った、のですね。それも、せ、制御、できなくて・・・。た、多分、危ない、状態に、なった、のだと、おもい、ます」
握った手が震えています。
「そうだ。お前は魔力の暴走を起こした。あのまま魔力を放出し続ければ身体が持たなかっただろう」
今更ながら、身体が震えてきました。
89話です。
私にとってとても怖い回になりました。
今話を書いている時に、登場人物の感情に引きずられてしまったのですよ。
後半部分を書いていて、本当に体が震えてきました。
これは続けて書いた次話を、書き終わるまで続いたんです。
登場人物が話しを勝手に進めてくれる分にはいいのですけどね。
これはきつかったです。
では、次話で、会いましょう。




