兄話1-2 い……妹だよね?……妹なんだよね?
王妃様主催のお茶会で僕は令嬢たちの相手をしながら、セリアの様子をうかがっていた。
セリアは王子たちに話しかけに行く様子がない感じだった。
きっとセリアのことだから身分の高い人にみだりに話しかけないということを、実践していたのだろう。
それに人の輪に入れない令嬢方に話しかけている様子がうかがえた。
セリアはなんてやさしいのだろう。
こういう時にさり気ない気遣いができるから『|小さな淑女《リトルレディ》』と言われたのだろう。
しばらくたったとき、セリアの姿が会場内に見えないことに気が付いた。
給仕をしている者に尋ねたら、庭園の方に他の令嬢方と向かったということだった。
僕も庭園に向かおうとしたら、周りにいた令嬢たちもついてきたんだ。
本当に邪魔だと思う。
もう少し静かに出来ないのかな。
セリアを見習って欲しいよね。
庭園の入り口についたときには、騒ぎが起こっていたんだ。
令嬢の一人が怪我をしたということだった。
近衛騎士が医務室に連れて行くために令嬢を抱いてこちらに来るのが見えた。
ドキンと心臓がなり、僕は動けなくなった。
まさか、あのドレスは……。
僕は怪我をしたのがセリアでないことを祈りながら待った。
近衛騎士に抱えられてきたのはセリアだった。
こめかみから血を流しているのが見えた。
一瞬、目の前が真っ暗になったのかと思った。
「フォングラム公爵子息。ご令嬢は医務室に連れて行きます」
近衛騎士が僕の目の前に来たところでそう言った。
ハッと我に返った僕は言った。
「僕も行きます」
僕も騎士の後ろをついていく。
流石に令嬢たちはついては来なかった。
連絡がいったのか別室にいた母上も途中で合流した。
治療をした医者から傷は大したことはないと言われた。
その言葉を聞いて安心したけど、セリアの顔色が悪いのがすごく気になった。
母上も同じことを思ったのか、先に退出することを王妃に伝えにいくと言って出て行った。
待っている間にセリアの顔色は青ざめた色から紙のように白くなっていった。
あまりの顔色の悪さにベッドに横になるように医者が言ってくれたので、セリアの手を引いて連れていこうとしたら、「あ……あたまが……」とつぶやいて倒れてしまったんだ。
それから、七日間セリアは眠り続けた。
高熱がでて時々うなされてもいた。
本当は家に連れて帰りたかったけど王妃様に止められてしまったんだ。
移動の最中に何かあったら、と。
王妃様も自分が主催のお茶会で起こったことだから、責任を感じていたんだと思う。
でも、おかげで僕たちは毎日王宮に通うことになってしまったんだ。
三日目くらいにセリアの変化に気が付いた。
髪の色が少しずつ薄くなっていっていたんだ。それと共に髪に輝きが加わっていった。
今までにこんな話は聞いたことがなかった。
医師だけでなく、偉い学者の人もセリアの変化について話し合っていた。
五日目。
セリアの髪の色はブロンドになってしまった。
王妃様が王宮に僕達家族が泊まれる部屋を用意してくれた。
セリアはまだ目覚めない。
六日目。
熱が下がってきた。
セリアの髪の色はまだ薄くなっていった。
まるで月の光を思わせるプラチナブロンドになってしまった。
七日目。
セリアが目を覚ましたと連絡がきた。
ほっとしてセリアの部屋に向かう。
父上、母上は国王陛下と話をしに行ったから僕の方が先に会えるだろう。
僕は扉を叩くのを忘れて扉をおもいっきり押し開けた。
部屋に入った僕はベッドのそばに行って、セリアの顔を見た途端に動けなくなってしまった。
この顔は僕の知っているセリアだけど、髪の色が変わるだけでこんなに印象が変わるなんて!
それに、な、泣いている。
セリアが?
あの、完璧なセリアが!
僕が混乱していると、
「お……おにい……しゃま?」
とてもかわいらしい声が聞こえてきた。
不安を含んだ幼い言い方に我に返った僕は慌ててベッドのそばに行った。
「どうしたの、セリア? どこか痛いの?」
僕の呼びかけに手を伸ばしたセリア。
戸惑いながらも抱き起したら、縋りつくようにしがみついてきた。
最近はそんなことをされたことがなかったから、驚いてビクッと体を震わせてしまった。
それに力が入らないのかつかまる力が弱弱しくて、腕の中にすっぽりと納まる小さな体に、強く抱きしめたら壊れてしまうのではないかと思ったんだ。
服をギュッとつかまれて、すぐにセリアをギュッと抱きしめた。
嗚咽交じりに家に帰りたいという姿が可愛くてしょうがない。
そういえばセリアがこんな風に甘えてきたのは三歳の時が最後だったなと、場違いにも思い出した、僕だった。
11話→8話
読んでくださりありがとうございました。