1日目の5 記憶喪失は混乱のもと……
私の言葉に室内にいる人たちは騒然となりました。
お父様、お母様、お兄様が私のそばにきました。
「セリア、私たちのことがわからないのかい?」
「ああ、なんてことでしょう」
「でもセリア、僕達のことお父様、お母様、お兄様って呼んでたよね?」
悲しそうなお父様の瞳に頷き、涙を浮かべているお母様に手を握られました。
お兄様の問いかけに考えながら答えます。
「えっとね、名前は思い出せないのだけれど、お顔を見た時に、私のお兄様だと思ったの。もちろん、お父様、お母様を見たときも、そう思ったの」
三人は少し嬉しそうな顔をしたけど、すぐに真剣な表情に変えて聞いてきました。
「他に思い出せることはないかい?」
しばらく考えてみたけどわからなかったので、素直に答えることにします。
「う~ん、わかんない?」
「記憶喪失?」
誰かのつぶやきが聞こえました。
私の返答に大人の人達は見交わしあい、深刻な顔をして部屋を出て行きました。
部屋に残ったのはお母様と、お兄様とメイドさん達。
お母様はベッドに腰かけて、私を胸に抱き優しく髪を撫ぜてくれます。
お兄様も反対側に腰かけて私の手を握ってくれています。
二人はずっと「大丈夫よ。大丈夫だからね」と言い続けてくれました。
病み上がりということもあり、二人の言葉を子守歌に私は眠りに落ちていきました。
三時間ほど眠って目を覚ましたらお母様とお兄様が手を握っていてくれました。
体を起こすのを手伝ってもらい、さっきのようにいっぱいのクッションで支えられました。
それをお母様とお兄様がしたら、メイドさん達がまた微妙な顔をしていました。
少しだけ果実が入った水を飲み一息つくと、心配そうに私を見ているお母様と目が合いました。
小首をかしげて微笑むとお母様が頬を染めたのが分かりました。
あれ? と思いお兄様にも小首をかしげながら目線で問い掛けましたが、お母様と同じように頬を染めました。
というか、桃みたいに赤いです、お兄様。
何か微妙な空気になった気がするので、疑問をぶつけることにしましょう。
「お母様、お兄様、聞きたいことがあるのですがいいですか」
「まあ、なにかしら」
「何でも聞いて、答えてあげるよ」
「……」
嬉しそうに答える二人に何か違和感を感じます。
(う~ん、なんだろう。これも気にするとダメな気がする。よし、スルーしよう。気を取り直して……)
「先ほど私の髪色が変わったと聞いたのですが、もともとはどんな色をしていたのでしょうか? 後、今の姿を見たいのですが……」
二人は顔を見合わせました。
多分アイコンタクトで会話をしているのでしょう。
その間にメイドさんが少し大きめの手鏡を持ってきてくれました。
手振りで私に鏡を見せるのを止めると、お兄様が話してくれました。
その口振りから前の私が髪色にコンプレックスを持っていたことが分かりました。
茶色で樹木の木肌のような色、濃い感じといっていたので、何となくミルクチョコレートぽかったのかなと思いました。
その後鏡で自分の姿を見たら、プラチナブロンドの可愛い女の子の姿に驚きました。
しばらくすると、お父様がやってきて、医師との話は明日になったことと、もう数日王宮に泊まることになったことを告げました。
そう言われたとたん目覚めたときの心細さを思い出して、泣きそうになりました。
私の涙が零れ落ちる前に、他の部屋になるけどみんなも王宮に泊まっていると教えてくれたので、泣かないで済みました。
王様の配慮なのか、夕食をこの部屋で家族といただくことになりました。
お父様は体が思うように動かせない(足に力が入らなくて立ち上がることができず、ベッドに体を起こしても長時間起きていられない)私を、膝の上に抱き上げてみんなと一緒に食事ができるようにしてくれました。
隣に座ったお母様がいろいろ食べさせようとしてくれましたが、あまり食欲がなく、スープとパンを一切れだけ食べて食事を終えました。
そういえば、肝心なことを聞き忘れていたことに気が付きました。
「あの……私の名前はなんでしょう?」
と、問いかけた時の三人の顔は一生忘れられないことでしょう。
そうして、私は
「セリアテス・クリスチーネ・フォングラム」
という名前を知りました。
私が眠るまでみんなは部屋にいてくれたのでした。
6話目です。
セリア目線がひとまず終了です。
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