医師長話1 愚痴を言ってもいいですか
私は王宮医師長を拝命している、イェルン・ウェルナーというものです。
この数日頭を抱えるような事件?が起きています。
私の今までの知識、経験がまったく役に立たないのです。
本当にどうしたものでしょうか。
今日も最近の日課のセリアテス・クリスチーネ・フォングラム公爵令嬢の診察です。
本当なら、それだけだったはずです。
彼が昨日あんなことを言い出さずにいて、王妃様があのような提案をなさらなければ・・・。
確かに我々には彼女に起こったことを解明しなくてはならないのかもしれません。
ですが、こんな超常現象、普通の人に解明できるとは思えません。
出来ることなら、神殿に丸投げしたいです。
すみません。愚痴です。
私は常識人で通っています。
なので、パウル・ウルバーン医師の考えには賛成できません。
だってね、誰が思います。
怪我をして倒れたご令嬢が、高熱を出し7日間目覚めないだけじゃなく、髪の色が変わって魔力量が増えるだなんて。
その理由を別の人間に乗っ取られた、人格入れ替わり?
そんなのあるわけないでしょう。
そんな魔法を使われたのならどこかに痕跡が残るはずです。
でも、魔術師長も確認しましたがそんな事実はないそうです。
では、どうやったら人格の入れ替わりがおこるというのでしょうか。
はぁ~。
ですが、国王陛下も許可されたことですし、彼とセリアテス嬢との会話を見守りましょう。
・・・結果、あんなことになるなんて。
今、私とウルバーン医師は会議室に戻るところです。
会議室にいる方々も魔道具を通して今までのことを聞いていました。
我々だけでは、対処のしようがないので彼らの意見に従うことにしましょう。
会議室に入り方々に向けて頭をさげます。
「ご苦労だった。まずは、席についてくれ」
陛下の言葉に従い、席に着きます。
皆様の様子を伺うと、皆同じように渋面を作っています。
しばらく、誰も口を開きません。
扉が開いて一人の女性が入ってきました。
彼女も黙って頭を下げて貴婦人の礼をしました。
「お呼び立てして申し訳ない、フォングラム公爵夫人。だが、セリアテス嬢の今後に関わることだ。あなたにも同席していただきたい」
「はい。わかっておりますわ」
彼女の顔には不安と心配が浮かんでいます。娘についていたいのでしょう。
「ミリアリア、大丈夫よ。私の娘達がついているのですもの。心配いらないわ」
王妃様の言葉に微かに微笑んでフォングラム公爵の隣の席に座られました。
「さて、どうしたものか」
陛下の言葉に誰も言葉を返しません。
いえ、返せないの間違いですね。
「ある意味ウルバーン医師が言った通りだったというか。いや、その上をいったというか」
まだ、他の皆様の沈黙は続いています。
話が進まないと思ったのか陛下が切り込んできました。
「本当にアラクラーダ様の神子だとおもうか」
「あれだけでは、何とも言えないだろうな」
魔術師長が答えました。
「セリアテス嬢の言葉は、アラクラーダ様のことを言っているとはおもえん」
「だが、夢でみせられたといっていたぞ」
「セリアテス嬢本人もよくわかっていないと言っていたとおもうがな」
確かに言っていました。
次に学者のキンブリー先生が発言しました。
「この世界の常識と違うと言っておったのぉー」
「それに身分に差がなく、貴族社会の身分制度の無い世界と言ってましたね」
宰相閣下も続きます。
「そして、強い衝撃を受けて記憶を失ってしまったともいっておったのぉー」
「セリアテス嬢もわかっていない、混乱・・・困惑?・・・とらえどころがないと言ってましたな」
キンブリー先生も宰相閣下もセリアテス嬢が言った言葉を反芻しました。
魔術師長が口を開こうとしましたが、それを遮るようにフォングラム公爵が右手を上げました。
「申し訳ありませんが、話し合うのはあとにしていただけませんか」
「何を言うのだ、フォングラム公爵。セリアテス嬢に起こったことを解明しようと検証しておるというのに」
内務大臣が否やを唱えました。フォングラム公爵は大臣を冷たい眼差しで一瞥すると言葉を続けました。
「ですから、先に申し訳ないと言いました。このまま、愚もつかぬことを言い合っていても仕方がないでしょう。私としてはこれからの方針をはっきりさせてほしいのですが」
49話です。
医師長の語りになりました。
いきなり愚痴ってますが・・・。
最後で、パパが・・・。
次話のパパは怖いです。
医師長話は書き終わりましたので、続けて投稿します。
それでは次話で。




