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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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兄話 4-2 体調不良の予告

 ポールはギュッと目を瞑ると、何かを振り払うかのように首を振った。


「追い込まれていると思ったのは、セリアテス様の体調が安定しないことからです。女神様から直々に祝福を授かったのなら、もっと健康でいられると思うんです。

 ですが、体は健康になっても心が不安定では、体調が安定しなくても仕方がないでしょう。

 そして一番肝心な話ですが、明日、セリアテス様は熱を出されるでしょう」

「熱……なんで?」

「ん~、今までの反動……ですかね。セリアテス様は良くも悪くも真面目なお方です。自分が置かれた立場を、よく分かっています。だから、子供であることよりも『女神様の愛し子』という立場に重きをおいてしまっていました。


 はあ~。本当に周りの大人は何をしているのやら。

 強権を発動して、さっさと王都から連れ出せば良いものを。


 そんなだから、セリアテス様が大人のことを信用しきれないんですよ」


 聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「セリアが……大人を……信用していない……って?」

「ええ、そうです。それもクラーラ様を含めた皆様のことしか信用できていません」


 僕たちは、僕とローラントとオスカーは顔を見合わせた。お互いにそのようなことを思ったことがないと目が言っていた。


「だけど、馬車だって、楽しそうにしていたし」

「それはセリアテス様の気遣いです。あとは普段と違うことにわくわくしていたのでしょう。でも信用していないことはセリアテス様の言葉からわかりますよ」

「セリアの言葉? ……まさか、叔父上や祖父と一緒の馬車を嫌がった……あれ?」

「無意識なのでしょうが、ご一緒したくなかったのでしょう。馬車の中は密室ですから」


 絶句してしまった。セリアが父上やお爺様と一緒に馬車に乗らないのは二人への罰だと思ったのが、無意識の拒絶だったと知ったのだから。


「王都を離れたことで、『愛し子』という枷から、離れることが出来ました。気を張る必要が無くなれば気持ちも緩む。気持ちが緩めば無理していたものが表に現れるでしょう」

「そんなことになったら……」


 ローラントの表情が暗くなる。セリアのことを心配しているのだろう。


「ここで問題なのが、セリアテス様の体調不良を理由にして、王都に戻ろうとすることです」

「それのどこが問題なんだい。領地に向かうより、王都に戻る方が近いだろ」


 苦いものを口に含んでいるような表情でオスカーが言った。


「お判りでしょう。そうなるとセリアテス様はこれから王都を出ることが適わなくなるかもしれないということを」


 グッと喉がなった。それは僕なのか、ローラントなのか、オスカーだったのか。


「なによりセリアテス様が領地に向かうことを望んでいます。ですから、どうかお願いします。セリアテス様の味方をしてください。最終手段として、コモナー執事長を味方にして強行突破しても構いません。フォローは神殿騎士や我らがいたします」


 先ほどまでの無礼な態度を改めて、真摯な態度で頭を下げるポール。そっとテーブルに紙が置かれた。 

 それをローラントが手に取ろうとしたけど、ポールは押さえることですぐに渡そうとしなかった。

 ポールのことを見れば口元に指を一本たてて当てた。

 それから。


「すみません。話が長くなりました。皆様も久しぶりの遠出です。お疲れのところを申し訳ありませんでした。では、失礼させていただきます」


 紙から手を離し不敵な笑みを見せてから、ポールは部屋を出て行った。

 それを僕らは何も言えずに見送った。


 まだ、聞きたいことがあったはずだ。言いたいこともあったはずで。

 終始ポールの手の上だったと、僕らより子供に手玉に取られたことが悔しかった。


 ローラントは紙を裏返し書かれたことを読んだあと、僕たちに渡してくれた。オスカーが受け取り僕は横から覗き込んだ。


「なっ!」


 書かれていたことは……女神様も信用できないという言葉。

 理由はセリアの元に嬉しそうに現れたわりには、セリアの記憶喪失に触れなかったこと。その後の対応が愛し子に対してどうかと思われること。女神様なら髪の色が変わった理由がわかりそうなのに、それに触れてこない事、等々。

 それにどうやってなのか、我がフォングラム家が女神様と話したことも知っていたようで、祖父と女神様の関係に疑問があると書いてあった。


「どうしたものかな」

「兄上でもわかりませんか」

「オスカー、私だってまだ子供だよ、二人よりは年が上だとしてもね。そんな僕らの言葉を聞いてくれるかな」


 ローラントは話しながら紙をもう一度見た。それから暖炉のところへ行き放り投げた。紙なのですぐに燃え尽きた。


「うーん、聞いてもらえなくてもいいんじゃないかな」

「オスカー」

「だってそうでしょ。もしセリアテスの体調が悪くなって、それで王都に戻ろうとするのなら、セリアテスに本当に嫌われるじゃん。叔父上やお爺様の自業自得になるでしょ。どうせなら徹底的に嫌われたほうが、セリアテスのためになるんじゃない」


 オスカーが楽しそうに言った。

 

 ……この会話を聞かれているって解って言っているんだから、本当にオスカーはいい性格をしていると思うな。



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