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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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兄話 4-1 気づきたくなかったことを突き付けられる

 セリアテスがクラーラに連れられて部屋を出て行った。

 大人たちは顔を見合わせて、アイコンタクトをしていた。


 僕、ミルフォードはローラントとオスカーと共に今夜泊まる部屋へと向かった。

 部屋に入り、僕らは先ほどのことを話し合った。


「ポールの話はどう思う?」

「う~ん、なんかわざと同じ話を繰り返してなかったか」

「話をはぐらかしたかったのだろうか」


 三人で話していても、結論が出るわけではない。でも思惑を読めなくて、眉間にしわが寄ってしまう。


「別に俺はミルフォード様がたを困惑させるつもりはないですよ」


 部屋の隅から声が聞こえて、僕らは身構えた。

 声の主はポールで、でも部屋に入った時に気配は感じなかった。

 というか、気が急いていたからかだろうけど、警戒を怠ったことに嫌気がさしてくる。


「あー、すみません。皆様と話がしたくてこちらで待たせていただきました。勝手に入り込んだのは……そこはお目こぼし願います」


 慇懃に腕を胸の前に持ってきて礼をする仕草が、嫌に芝居がかって見える。


「ふ~ん、君、その態度って、罰せられたいのかな」

「今更取り繕っても良いことにはなりませんから。それよりもあまり長くこちらに居て、リチャード様に不審に思われたくありません。なので、話をしても?」


 人を食ったような物言いに、目が丸くなる。おじい様が不審に思うって?


「いいだろう。話を聞こうか」


 ローラントが足を組み尊大な態度で言った。

 けどポールはそんなことは、気にも留めていないようだった。


「そうですね、まずは先ほどの話ですが……リチャード様への嫌がらせです。裏読みがお得意な方ですから、俺の言葉にどんな裏情報があるか、フル回転で探っているでしょう。嫌がらせなのはコモナー執事長も気づいていたようです」


 あの話のどこが嫌がらせだったのだろうか。僕にはわかりそうもない。


「でも話したことは憶測だけど真理に近いと思っています。それにこのままだとセリアテス様が限界を迎えます。また魔力暴走を起こしたりしたら、どうするつもりなのでしょうね」


 ポールの言葉にギョッとして彼のことを見つめた。


「どういうことだい」

「言葉通りですよ。このままじゃセリアテス様は爆発しますよ」

「爆発……」


 彼の言葉に嫌なものを想像してしまった。


「ああ、違います。そういう意味ではありません。制御がきかなくなるという話です。で、リチャード様に嫌がらせをしたのは、初手から対応を間違えたからです。さっさと領地に連れていって療養させればよかったのに、ここまでかかったから。ほんと、何のためにセリアテス様が記憶を失くすことになったのかを、わかってないんだから」


 ポールの言葉に僕らの動きが止まった。そしてすぐにポールに詰め寄った。


「君はセリアテスが記憶を失くした理由を知っているのか」


 胸倉を掴んでそう言えば、強い力で振り払われた。


「違いますよ。理由なんて知りません。ですがあの時のことを調べた結果、ある推測に辿り着きました」

「推測? なんだ? 言え」


 オスカーが威嚇するように鋭く言った。


「というか、皆さん鈍過ぎ。少し考えればわかることなのに。セリアテス様が倒れられてから目覚めた時の言動です。幼い……三歳くらいの子供のような舌ったらずの幼い言動だったんでしょ」

「そうだけど」


 それが何だというんだ!


「だから、三歳くらいと云えば、セリアテス様が淑女になろうと努力を始めた時と一緒でしょ。つまり、セリアテス様は淑女になる前に戻りたかったんですよ」

「戻りたかった……セリアが」


 僕は茫然と呟いた。

 えっ? なんでそうなるの?

 母上のようになりたくて、頑張っていたのじゃないか。


「何があったのかは知りません。きっかけが何なのかも。でも、たった七歳の女の子がすべてを忘れてやり直したいと思うくらいには、追い詰められていたのだと思います」


 ポールの言葉に愕然とした。

 今までのことを思い出して……血の気が引いて行くのがわかった。

 僕は何を見ていたのだろう。

 記憶を失くす前のセリアとはつかず離れず……と言えばいいが、性別の違いを言い訳にほとんど交流がなかった。

 かわいくないわけじゃないけど、たまにうっとしいと思うこともあった。

 それを……記憶を失くしたのをいいことに、良いお兄ちゃんぶっていた。


 記憶を失くした理由を探らなかったわけじゃない。怪我が理由だと思い込んだのも、本当は気づきたくなかったから。

 自分がいかに無関心だったのかを。


「おい、ミルフォード」


 心配そうにのぞき込んでくるオスカー。心配ないと言いたいのに、言葉が出てこない。


「ミルフォード様、反省は後でしてください。それよりもここからが本当に話したかったことです。

 俺は先ほどまで、自分に別の世界の記憶やゲームの知識のことを話すつもりはありませんでした。ですが、セリアテス様が追い込まれていると感じたので、話すことにしたのです。

 まあ、話した結果があれでしたが。おかげで話して良かったと思いましたよ」


 ポールは先ほどのことを思いだしたのか、顔を歪めていた。


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