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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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いとこ話2 セリアテスを寝かせて、内緒話

可愛い従妹の髪を撫でていると、気持ちがいいのか、セリアテスは目を閉じた。私は撫でながらそっと眠りの魔法をかけた。

途端にセリアテスは私に凭れかかるようにして、眠ってしまった。


「姉上、少し強引じゃないですか?」

「ええ、でもセリアテスには聞かせたくない話よ。それにこのまま、今日一日同じ馬車で移動が出来るとは限らないでしょう」

「そうですね。クラーラの言う通りです」

「それじゃあ、さっさと話すか。あまり長くセリアテスを眠らせておくと、あとで拗ねられるかもしれないからな」


弟たちは察しよく言葉を返してきた。


「それで、どう思ったかしら」

「お爺様たちの思惑ですか。そうですね、無駄にセリアテスを危険に晒すわけは、ないですよね」

「となると、やはり王都にいる民たちの動向を見たかったのかな」

「それもあるとは思うけど、一番はセリアテスに見せたかったんじゃないかと、僕は思うな」

「セリアテスに? それは、どうしてかしら」


そうオスカーに問えば、弟は人の悪い笑みを浮かべて言った。


「やだなー、言わなくてもわかってるくせに。図らずもさっきセリアテスに言ったことだよ」

「それって? ・・・ああ、待って。そうね、セリアテスは常識的に考えて(・・・・・・・)『女神様の愛し子』につく警護のことについては解っていたわ。でも、それが自分を警護する人たちだと、実感できていなかったのよね」

「そうなんだよ。どこかセリアテスは他人事のように考えているみたいだよね。愛し子という立場を気にしているのに、本質を解ってないというかさ」


眉を寄せて渋面を作るオスカーは、本当に10歳なのかと疑ってしまうくらい年寄りくさい。と思う。


「姉上、なんか変なこと考えてない?」

「変なことなんて考えてないわよ。普通に考えているわ」


オスカーは疑わしそうに私のことを見てくるけど、私はセリアテスに慈愛の視線を向けて誤魔化した。時々弟は鋭すぎるところがあるのが困りものだわ。


「まあ、いいけどね。それで、この後はどうなると思う?」

「そうだね、お爺様たちは『愛し子』の影響力を知りたいんだと思うな。そうすると、昼食を取る町の様子次第で、何か手を打つんじゃない」


オスカーの問いにミルフォードが答えている。けど、まだまだ甘いわね。お爺様が次の手を考えていないわけないでしょう。


「違うよ、ミル。お爺様はもう手配は済ませているはずだ。そうでなければ、護衛の人数がこれだけで済むはずはないだろう」


オスカーの言葉に少し考えたミルフォードはすぐに、何かに気がついたような顔を向けてきた。


「そうか、コモナー執事長がいないということは、もう別に動いているということか」

「多分それが正解だよ。それにさ、女神様に叱責されただろう、リングスタット国は。今回のセリアテスの領地行きを、リングスタット国の威信に懸けても、何事もなく済まさなければならないはずさ。だけど、動かせる騎士や兵士の数には限りがあるだろ。そうなると動けるのは高位貴族の私兵になるだろうね」

「そうか。先ほど、なんか一般の人に交じっていかにもな感じの人が多くいるなと思ったけど、密かに警護していたのか」

「だと思いますよ、兄上。今もすれ違った荷馬車の商人風、あれもどこかの貴族の私兵でしょう」


オスカーの言葉に私は瞬きをして、窓の外へと目を向けた。徒歩で通る人のための道に、人の姿が見えた。馬車が進むたびに何人もの人の姿が見えたけど、まさかあれが全部どこかの貴族の私兵とは言わないわよね。

目線を前に戻すと、オスカーが呆れたような視線を向けてきていた。


「姉上、そんなわけないでしょう」

「何のことかしら。それよりもお爺様はどこで動くと思うの!」


もう、オスカーってば、私の思考を読むような言葉を、言わないで欲しいわ。・・・というか、まさか本当に私が考えていることを、読めるなんてことはないわよね。


「そうですね、多分昼食を取った後でしょうか。そこまで行けば、王都からかなり離れますからね」

「僕も兄上に同意。その先に川辺で開けたところがあったよね。宿屋に泊まる回数を減らしたい商人なんかが、休むところだね」

「商人だったら宿屋に泊まった方がいいんじゃないの」

「それは規模によるんだよ、ミル。普通は宿屋のほうが安心だけど、荷馬車を何台も連ねる小隊(キャラバン)だと、その荷馬車分もお金がかかるだろ。町によっては荷馬車を何台も止められる宿屋があるかどうか怪しいし。一番いいのは町のすぐそばで野営することだけど、それが出来ない場合は水場の近くで野営するほうが都合がいいのさ」

「確かにそうだね。それじゃあそこに、コモナー執事長は先回りしているのかな」

「だと思うよ。答え合わせは行ってみればわかる、ということで。それじゃあ姉上、そろそろセリアテスを起こそうか」


オスカーにそう言われて、私は眠りの魔法を解こうとして、もう一度弟たちのことを見た。


いつの間にか、弟たちは成長していたようね。本当に頼もしいわ。・・・いいえ、末恐ろしいのかもしれないわね。


視線を弟たちから私に体を預けるセリアテスへと向ける。


大丈夫。きっと大丈夫だわ。お爺様たちだって、可愛い孫を手駒にするつもりはないはず。でも、セリアテスの意に染まぬ方法を選択するかもしれないわ。

この弟たちなら、そんな大人の思惑からも、セリアテスを守ってくれるはずよ。


優しくセリアテスの髪に指を滑らせながら、私はセリアテスに掛けた眠りの魔法を解いたのでした。




430話。


今回は『26-9 王都を出て最初の街・・・』で、王都を出た直後に起こったことです。

セリアテスを眠らせてこっそり会話です。

眠りの魔法を解かれたセリアテスは、自分が眠ったことに気がつかないことでしょう。


気がつかないかな~?

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