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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
422/444

26-2 自分の部屋へ・・・の前に、お兄様の初恋話?

思わず、瞬きを数回しました。


「好きな人・・・ですか?」


ミルフォードお兄様の言葉には、裏読みできそうな響きがありました。

けど、う~ん。お兄様と恋バナをするって、どうなのでしょうか。

というよりも、いまのところそういった感情を持てる方には、出会っていないです。

しいて言うのなら、記憶を失くして目を覚ました時にはじめて見た、おに・・・。


いいえ。何を言おうとしているのよ、私。

私はまだ7歳だし、初恋がまだだっておかしくないのよ。うん。


「えーと、お兄様のことが大好きですけど」


とりあえず、お兄様大好きアピールをしてみました。お兄様は、一瞬目を見開いて息を飲んだあと、頬を少し染めてしまいました。


「いやセリア、そういった意味じゃなくて」

「嫌ですわ、お兄様。恋愛的な意味でしたら、私にはそんな人はいません。記憶を失くす前に好きな人がいたとしても覚えていませんから、私にとっては初恋もまだですわ」

「あっ・・・。そうか、初恋もまだ・・・か」


お兄様はなにやら考えるようにつぶやいています。私はちょっと沸いた好奇心からお兄様に聞きました。


「そういうお兄様の初恋はどなたなのですか? それともまだとか?」

「初恋は済んでいるよ。・・・あっ」


叫ぶように言った後、お兄様は口を押えました。視線を逸らされてしまい、なんか面白くありません。


「ふう~ん。私には言えない相手なのですね」

「えっと、セリア?」

「別にいいですけどね。お兄様が好きになった方ですもの。とーっても、素敵な方なのですよねえ。ええっ、きっとそうですよね」

「あのさ、確かに素敵な人だけど、でも、その・・・」


なぜか嫌味な言い方をしてしまい、嫌な気分になりました。

そしてお兄様が初恋の相手を『素敵な人』と言ったことで、悲しくなってしまいました。

涙がせり上がってくるのを感じて、私は俯きました。


どうしよう。先ほどまでの楽しさはどこかに消えてしまいました。


お兄様が私の手をぎゅっと握ると引っ張りました。そのまま近くの部屋へと入って行きました。そこは小部屋で文机みたいなものと椅子と棚があるだけの部屋でした。


「どうしたの、セリア」


お兄様はかがむと私の頬に手を当てて、親指の腹で目の(ふち)を目元から目尻へと触りました。つられたように目尻から一筋涙が零れてしまいました。お兄様の指が涙の後を辿るように動きました。


「ごめんね。この前も思い出せないのが辛いと言っていたのに。余計なことを言ったね」


どうやらお兄様は誤解したみたいです。


「違います。初恋の相手が思い出せないのが辛いのではなくて、お兄様が・・・初恋の方が素敵な人と・・・いうから・・・」


考えるより先に言葉が口をついて出ました。・・・これではお兄様の初恋の人に嫉妬したと言っているみたいじゃない。・・・違うもん。お兄様に置いていかれるようで、寂しかった・・・って、あれ?


「あー、そうか。僕の初恋の人が気になったのか」


お兄様は嬉しそうに笑いました。


「ち、違います。気になりません」


ツンと顎を上げて否定しましたが、お兄様の優しい笑みは変わりません。


「そうなの? ・・・うん。ええっとさ、内緒にしてくれる?」

「内緒ですか?」


お兄様の言葉に首を傾げました。その私へと顔を寄せたお兄様は内緒話をするように小声で言いました。


「僕の初恋はね、4年前で、泣いている女の子を優しく慰めていた人なんだ」

「泣いている・・・女の子? えっと、その子を慰めていた方なのですか」

「うん。僕は大切な女の子を泣かせてしまって、どうやっても泣き止んでくれなくて困っていた時に、泣き止ませてくれたんだ」


・・・えーと、大切な女の子を泣かせてしまい、泣き止まない女の子を泣き止ませてくれた方のことを、好きになった・・・のですよね。


ん?


んん?


お兄様の大切な女の子?


「あの、お兄様、間違いでなければ、お兄様の大切な女の子って・・・」

「あっ、気づいた? そうだよ、セリアのことだよ」

「4年前というと、私が3歳の時ですよね」

「そうだよ。あの時はセリアがもらったお花を駄目にしちゃって、同じものを取りに行こうと、オスカーと二人で森に行ったんだ。そうしたら、崖から落ちるわ、川にはまるわ、とげとげの木で怪我をするわで、大変だったけど、ちゃんと同じ花を手に入れることが出来たんだよ。でも戻った僕たちの姿に、セリアが大泣きしちゃってね。父上たちに怒られたことより、セリアを泣かせたことの方が痛かったなー」


当時を思い出したのか、苦笑を浮かべて言いましたけど・・・お兄様ー!


「その時の怪我は?」

「うん? 全然、大したことなかったよ。ほとんど擦り傷だったし」

「崖から落ちたのは?」

「えーと、崖といっても高さは1メートルくらいだったかな? あの時は僕たちは6歳だったから、少し高くてね。飛び降りるか、気をつけて降りようか考えていたところに、イノシシに驚いたウサギが飛び出してきて、驚いて落ちちゃったのさ。でも下は落ち葉が溜まっていたところで、怪我はしなかったよ」

「川にはまったのは?」

「石を伝って川を渡ろうとしたんだけど、石が濡れて滑るものがあったんだ。オスカーがバランスを崩したから咄嗟に手を掴んだら、一緒に川に入っちゃって。でもくるぶしまでしか水はなくて、溺れる心配はなかったね」


ということは・・・。


「お兄様の初恋相手は、クラーラお姉様ですか?」

「そう、当たりだよ」



421話。

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