いとこ話1 キャバリエ家姉弟は・・・
結局、どうしてもローラントたちと一緒の部屋で寝たいというセリアテスに、根負けした弟たちは、ベッドを一つ私とセリアテスに譲ってくれた。三つ並べたベッドの真ん中のものを私とセリアテスが、右側のベッドはローラントで、左側のベッドにオスカーとミルフォードが寝ることになった。照明の明度を落として横になったけど、ふと、昔のことを思い出して「フフフッ」と笑ってしまった。
「どうかしましたか、クラーラお姉様」
「気持ち悪い笑いを漏らさないでよ、姉上」
可愛らしく聞いてきたセリアテスと、可愛くないことを言うローラント。ローラントが横になっているベッドを軽く睨んだ後、私はローラントたちに話しかけた。
「気持ち悪いはないでしょう、ローラント。でも、ねえ、思い出さない」
「何をですか」
「そうねえ、そろそろ5年くらい前になるかしら。フォングラム家へと向かう途中の宿屋で、私たち三人がこのようにベッドを並べて寝たことを」
「そういえば・・・ありましたね。もっと前はオスカーが小さいからと父上たちと同じ部屋でしたから、宿屋では大概姉上と同室でしたね」
「あー、あの時か。翌年からは姉上は別の部屋で寝られるようになりましたね」
オスカーも思い出したのか、会話に加わってきた。
「それも一度だけでしたよね。たまたま部屋が取れなかったとかで、子供だけ同室にしたのは」
「ええ、次に二部屋しか取れなかったときは、私はお母様と同じ部屋になったもの」
隣にいるセリアテスが身じろぎをして、私のほうを向いた。
「旅行は、大変でしたか」
「ええ。と言いたいところだけど、私は基本馬車に乗っているだけだったから。手配などは家令がしてくれるもの。お付きで来る侍女たちのほうがよっぽど大変よね」
しばらくセリアテスは黙っていた。
「そうですね。移動に時間はかかるし、着替えやら、いろいろ持っていかなくては、なりませんし、警護の方たちも、必要になりますし」
ポツポツと移動をする時に必要になりそうなことを上げていくセリアテス。
「そうですよね。お姉様たちが来た時も、馬車は一台だけではありませんでした。もう一台は侍女の方々が乗られていたのですよね」
「ええ、そうよ」
「荷馬車も二台でしたね」
「そうだけど、セリアテスが領地に行く時には、そこまでの荷物はいらないのよ。領地にはいろいろ置いてあるのですもの。私たちは国を超えての移動だったし、今回はお父様のことで王宮に行くことがわかっていたから、あの荷物になったのよ」
「あっ、そういうことでしたか」
なにやら余計なことに気を回しそうな気配がしたので、危惧しそうなことを先に言ってみた。それは正解だったようで、ホッとしたような声が聞こえて安心した。甘えるように私に体を寄せて手を握ってきたので、私もセリアテスの手を握り返した。
本当に私の従妹は可愛すぎる。
◇
姉上に甘えるような気配がした。・・・というより、姉上が少し興奮しているのか、若干呼吸が荒くなっていた。きっとセリアテスに甘えられて嬉しいのだろう。
やれやれと思いながら、今のセリアテスの言葉の意味を考えてみる。
まあ、考えるまでもないか。これは今になって、馬車をもう一台用意してほしいと言ったことを、気にしているのだろう。そんな必要はないのにね。
元々、フォングラム家の馬車は祖父母用と、叔父一家用と二台用意されるはずだった。王宮へと行くときはお爺様たちまで一緒に乗っていたけど、領地への移動は時間が掛かるから、ゆったりできるように二台に分けるつもりでいたはずだ。
先程はセリアテスが部屋へと現れたことにとても驚いた。少し緊張を滲ませた様子に、どうやらセリアテスは私たちに何かを伝えたいようだとわかった。名前を呼んだら素直に私の腕の中に飛び込んできた。
可愛い私の従妹は、これまでのお礼を改めて言いたかったらしい。
自分の部屋に来るのを待ちわびていた姉上が、すぐに乱入してきたのには笑えたが、私たちの呆れた視線をものともせずに、セリアテスを可愛がることしか頭にないようだった。
自分の部屋に連れ帰りたいようだったけど、セリアテスがどうしても私たちと一緒に寝ると言ってきかないので、姉上までこの部屋で眠ることになってしまった。姉上はぶつぶつと文句を言っていたけど、照明を落とす前にすごく嬉しそうな顔をしているのを見てしまった。セリアテスと一緒のベッドで眠るなど、今までしたことはなかったのだろう。姉上にはこれ以上ないご褒美だったね。
◇
姉上と兄上が話しているのに、合いの手的に言葉を挟んでいく。確かに姉上が言うように、一緒の部屋で眠るなんて、あの時以来だ。男女の6歳差というのは大きい。だから、セリアテスが我が儘を言わなければ、こんなことはもう起こらないだろう。
「ねえ、もしかしてミルフォードも寝てしまったのかしら」
しばらく三人で話していたら、姉上が声のトーンを落として訊いてきた。
「も、ということは、セリアテスも寝ちゃったんだね」
横で、すやすやと寝息を立てているミルフォードを起こさないように、僕も声を落として返事をした。
「ええ。今日は余計な話をたくさん聞いたから、疲れたのでしょうね」
「本当にアグニスタ殿には、困ったものだね」
「お爺様の推測は当たっていたのかな~」
「そんなのどうだっていいわよ。セリアテスを悩ますという悪行以外、どうだっていいわ」
「・・・ということは許さないんだね、姉上は」
「もちろんよ」
「でもさ、どうしようもないんじゃないの」
「そこはそれよ。からめ手で報復をさせて頂くわ」
見えないけど、姉上はニッコリと笑っていることだろう。・・・報復って、きっとフォンテインに対して、香水の値段を地味に上げるのだろう。香水はそれぞれの国向けに調整をして売り出していると、聞いている。たしか、姉上はそのことに関わっていた・・・はずだよね。母上も。
うっわ、こわ~。
女性の美への追及って・・・。
いやいや。そこは姉上(と母上)に任せておこう。
さて、明日からまた、楽しい時間が過ごせるようにしないとね。
国に戻る前に、ミルフォードを甘やかしておかないと。セリアテスは姉上が思う存分甘やかすだろうし。
そろそろ僕も寝ないと、明日に響くかな。
おやすみ、ミルフォード、セリアテス。
いい夢を!
419話。
閑話です。
キャバリエ姉弟の楽しい会話(?)です。
次から、やっと領地へと向かいます。
さあ、サクサクと・・・進むといいな~。
ここまでお読みいただきありがとうございます。




