25-18 確認は・・・大事です
再びジーク伯父様がイアソート様に詰め寄りました。今度は何故か、おじい様とお父様、カテリア伯母様までがイアソート様に詰め寄っています。
おかげで、私の前の圧が・・・。
ローラントお兄様が、私を抱き上げてソファーから離れさせてくださらなかったら、圧死・・・は冗談としても、本当に身動きが出来なくなっていたことでしょう。
クリスさんもソファーから立ち上がり、皆様に場所を譲っていました。
それで私はというと、お兄様たちと一緒に椅子に座っています。お兄様たちは呆れた視線をおじい様達へと向けていました。
「ところでセリアテス、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか、オスカーお兄様」
「さっきのことなんだけど、なんでイアン料理長のことを父上に話したの」
オスカーお兄様は目を煌めかせて聞いてきました。・・・これって、悪戯を思いついた時の表情に似ていますけど、そんな面白いことはないですよ。
「えっと、その、私はイアン料理長はキャバリエ公爵領の出身者だと思ったのです」
「そういえばそう言っていたね。でも、どうしてそう思ったの?」
「料理長とお会いした時にイアン・キャバリエと名乗られたのです。てっきり庶民の方は家名など持たないから、住んでいる領地の名前を名乗られると思いました」
お兄様たちは顔を見合わせました。
「ああ、そういうことか」
「記憶がないって、こういうことなのね」
ローラントお兄様とクラーラお姉様が、解ったというように頷かれました。
「あのねセリア、確かに庶民には家名を持たない者もいるよ。でもさすがに住んでいる領主の家名を、そのまま名乗ったりしないんだよ」
「そうさ。それについては、イアソート伯父上が迂闊だった、だね。本来なら、キャバリエではなくて、キャベリッツもしくはバリアーズと名乗るのが、うちの領民には多いんだよ。領主館がある都市のキャバリアーズからもじって名乗っているのさ」
ミルフォードお兄様とオスカーお兄様が、教えてくれました。
「そういう決まりがあるのですね」
「決まりというわけではないよ。他にも自分が生まれた村の名前を名乗ることもあるしね」
「あっ、やはりそうなんですね」
私が相づち的に返事をしたら、お兄様たちはまた顔を見合わせました。
「これは、緊急ではないけど、領地に行くまでに教えておいた方がいいのではないかな」
「そうね。中途半端に偏った知識よね」
「えーと、ローラントお兄様、クラーラお姉様、何かまずいのでしょうか」
「いえ、まずい・・・というわけではないのだけど」
お姉様は言葉を濁されてしまいました。眉根を寄せて困ったように微笑みました。
「あっ、そう言えばミルフォード、ミルは何時から知っていたの?」
「えっ、僕? それはオスカーと一緒だよ」
「そうか。それじゃあ、ミリアリア叔母上。記憶を失くす前のセリアテスは知っていたんですよね。教えたのですか」
オスカーお兄様はミルフォードお兄様に確認してから、お母様へと問いかけました。この言い方ですと、ミルフォードお兄様は最近まで知らなくて、私は前から知っていたようです。
「教えたわけではないのよ。たまたまお義父様とイアソート様の会話を聞いてしまったセリアテスが、私に聞いてきたからだったのよ」
「あー、やっぱりそうか。セリアテスって、前から変に鋭いところがあったよね。叔母上もセリアテスにウルウルの目で見られて、誤魔化せなかったんでしょ」
「わかってくれるのかしら、オスカー様」
「叔母上、様はいらないですよ。ええ、分かりますよ。記憶を失くしたと云っても、セリアテスはセリアテスです。全然変わっていませんよね」
オスカーお兄様の言葉にクラーラお姉様がクスクスと笑いながら言いました。
「そうね。相変わらず真面目で、でもお茶目なところもあって、それから人の気持ちを慮れる子だわ。ええ、本当に変わっていないのね」
「・・・ええ、知りたいことは答えを見つけるまで、放してくれなかったの。それなのに私の立場などを思って、我が儘は言わなくなってしまって・・・。それをセリアの成長と思って、寂しいけど一歩引いて見守ろうと思ったのよ」
お母様は少し遠い目をして、悲しそうに言いました。
「お母様は寂しかったのですか」
「ええ。・・・ああ、違うわ。私が悪かったのよ。他の子より早く大人になろうとするあなたに、どう接していいのかわからなくってしまったから。その気持ちを読んだセリアが、私と距離を置くようなことになったのは、私の自業自得なのよ。あなたを甘えさせてあげられなかったのは、私が悪かったのね」
記憶を失って目覚めた直後、家族との距離が遠い気がしていたのは、気のせいではなかったのよね。少しずつ距離をつめて、今では溺愛というくらいに甘やかされている・・・と思う。それでも、過去をなかったことにはできないから、このように思い出して後悔をするのだろう。
「お母様、私は・・・記憶を失くす前の私も、お母様のことが大好きです」
そうでなければ、お母様をお手本にして、小さな淑女と呼ばれるまでになるわけがないわ。
416話。
オスカー、さりげなく問題を投下しておいて、あとは放置かい。
・・・というか、オスカーに任せると、疑問をさっくり解決してくれるから、好き。




