25-17 とりあえず・・・領地に一緒に
大人たちが何も言わないまま愛の告白を見せつけられること数分。いい加減どうしていいのかわからなくなった私は、ジッとおじい様を見つめました。私の視線に気がついたおじい様が、ニコリと笑い返して来ました。それでも、ジトーと見つめていたら、おじい様の口元が引くつきだしました。
そして、根負けしたようにイアソート様のほうへ視線を向けると、おじい様は言いました。
「さて、とのう、イアン・・・イアソート殿と、クリス嬢の言い分は解った。じゃが、ここで答えを出せというのは無理じゃろう。なんと云ってもの、二人には話し合いが足りておらんじゃろ。それはジークフリート殿とイアソート殿のことにも言えるじゃろう。だが、わしらは明日には領地へ行かねばならんし、ジークフリート殿は国へと帰らねばならん。そこでの、イアソート殿とクリス嬢には領地まで一緒に来てもらうことにしようと思う」
「リチャード様、それは」
イアソート様が何か言いかけましたが、おじい様は手を挙げて言葉を止めました。
「先ほど、クリス嬢が言うたじゃろ。お前たちがこの国に来てから、追っ手が我らの周りをうろついたことがあったか? ないであろう。それにの、もう奴らも今までのようにはいかんぞ。わしらに手を出すということは、セリアテスに、女神様の愛し子の家族である我らに手を出すということじゃ。女神様を敵に回す気概が、やつらにあるのかのう」
おじい様は腕を組んで不敵な笑いをしました。
「イアソート殿、先ほどのことはセリアテスに言うことではないのう。それに王族としては稚拙じゃの。だが、其方は女神様の意向も願いも知らんからのう。今回は大目に見てやるわい。それにの、其方たちを保護したのはわしじゃ。これからのことを決めるためにも、領地で話し合いをしようではないか。もちろんわしら大人だけでの」
最後の言葉と共に、グッと睨むようにイアソート様を見たおじい様。イアソート様は押し黙ったまま、頷くだけでしたが、クリスさんは「承知いたしました」と頭を下げたのでした。
「セリアテスもそれでいいかのう」
「はい。おじい様にお任せします」
ニコリと笑顔で返事をすれば、おじい様も好々爺の顔に戻り、笑ってくれました。
「ジークフリート殿も良いかの」
「はい、リチャード様のおっしゃる通りにいたします。先ほどは醜態をさらしてしまいまして、申し訳ございませんでした」
「いや、わしも黙っておったからの。二人の身の安全をはかるためとはいえ、すまんかったの」
そのおじい様の言葉にジーク伯父様は、ハッとした顔をしてカテリア伯母様のことを見ました。
「カテリア、君は兄上がフォングラム公爵家に匿われていることを、知っていたんだな」
「ええ、そうですわ。こちらに来た時に、顔を合わせる機会がございましたから」
「なぜ、その時に言ってくれなかった」
「あら。何を言えというのでしょうか。私が知った時には、まだクリス様に危険が迫っておりましたのよ。お父様は他の国々においても有名な方です。お父様がクリス様を助けたことは、あちらに知られていましたわ。さすがに領主館に侵入を試みる馬鹿は少なかったようでしたが、フォングブルクの街中には一時期不遜な輩があふれておりましたの。ミリアリアがセリアテスを身籠ったと知らせが来たことで、王都へと移動することが出来て、やっと脅威が薄れたのですわ。そういう事情がありましたのに、あなたに知らせてあちらにまで伝わる危険性を冒せるわけはありませんわね」
ジーク伯父様は黙れられたあと、今度は視線をクラーラお姉様、ローラントお兄様へと向けました。
「お前たちも気づいていたのか」
「嫌ですわ、お父様。私たちはこの事実に驚いておりますのよ」
「それにしては落ち着きがないようだが」
そうなのです。先ほどからお姉様たちはそわそわと落ち着かない様子でした。
「それは・・・ええ、もうよろしいですわよね」
お姉様はそう言って立ち上がると、イアソート様のそばへと行きました。
「はじめまして、イアソート様。私はジークフリートが一子、クラーラ・ヴィレン・キャバリエと申します。以後お見知りおきくださいませ」
軽く淑女の礼をして顔を上げたクラーラお姉様は、綺麗な笑顔を見せました。
「伯父様とお呼びしても、よろしいでしょうか?」
「あ、ああ。イアソートだ。他の目がある時は、フォングラム家の使用人として扱ってもらえると助かるが」
「承知いたしましたわ、伯父様」
お姉様がもう一度笑顔を返すと、隣に並んだローラントお兄様もイアソート様へと、挨拶をしました。
「ローラント・クラッセン・キャバリエです。といっても、この名を名乗るのも、あと少しですが。伯父上、お会いできて嬉しいです」
ローラントお兄様はイアソート様へと、手を差し出しました。イアソート様はその手を握りながら言いました。
「私もだよ。君たちがこの館に来るたびに、名乗れないことが歯がゆかった」
手を離したローラントお兄様はオスカーお兄様に譲るように、一歩横に移動しました。
「オスカー・エルハルト・キャバリエです。一時期サンフェリスを名乗るけど、キャバリエ公爵家は僕が守るから安心してくださいね」
「もちろん。君になら、安心して任せられるだろう」
オスカーお兄様はニヤリ笑いで手を出し、同じようにニヤリ笑いで手を握るイアソート様。
・・・あれ? オスカーお兄様は、先に面識があったのでしょうか。
それに気がついたジーク伯父様が、二人へと厳しい目を向けました。
「オスカー、お前は知っていたのか?」
「やだなー、父上。僕が知ったのは、数日前ですよ。大体、父上たちに気づかれない魔法を使うだなんて、まだまだ未熟な僕たちに出来るわけないじゃないですか」
ニヤニヤと笑って言うオスカーお兄様。ジーク伯父様は一瞬呆けたあと、イアソート様に怒鳴りました。
「兄上ー!」
415話。
伯父と姪、甥の初めての顔合わせ・・・って。
オスカー、一応恩人ではないのかー?
そしてさりげなく、サンフェリスに戻らない宣言と、跡継ぎ宣言をしている、とは・・・。