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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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聖王家の大使話1 リドカイン・セベシュ・アグニスタのおもわく その1

ガラガラと車輪が回る音と揺れる車内で、私は外から聞こえてくる声が遠のいていくことに、安堵した。


「ふう~」


馬車の背もたれに体を預けて、息を吐きだした。やり切った感に浸りながらも、期待感に口角が上がるのを押さえられない。


まさか、こういった形でリチャード様を出し抜くことが出来るとは思わなかった。


あとは・・・あの御方から連絡が来るのを待つだけだ。


私は座席に置いていたあるものを膝の上にと置き、目を瞑った。



思い出すのは、私がまだリドカイン・セベシュ・フォンテインと呼ばれていた幼き頃のこと。王族、それも第1聖王家の第2王子に生まれた私に、周りにいる者たちは遜って接するのが当たり前だった。


両親や兄は第1聖王家としての務めに忙しくしていた。兄は私と5歳離れていたこともあり、私が周囲のことが分かる年齢になった頃には、もう聖王家の王子として十分な働きをしていた。


忙しい両親や兄に構われないことを、寂しいと感じることもなく過ごしていた私だったが、弟・・・10歳年の離れたランベルクが生まれたことで、気持ちに変化が起きた。

弟は我が王家の中でも一番魔力が多く、それゆえに不安定で目が離せない子供だった。母は・・・あれだけ忙しくしていて、子供(わたし)のことは乳母や近習に任せていたのに、ランベルクのために出来るだけ公務を少なくしてそばにいるようにしたのだ。

今なら私にも解る。魔力過多のために、いつどうなってもおかしくない子供に、まして遅くに授かった子供に、ついていてやりたいと思うのは、母親として当然のことだろう。


私はその様子を離れてみているしかなかった。母に近づこうとしたり、弟を構おうとすれば、やんわりとそばに寄ることを断られたのだから。


私は王宮に居場所がなかった。ただ、毎日与えられる課題をこなす日々。周りからはやる気のない王子とみられていた。


そんな状況が一変したのは、リチャード様がフォンテインに来たことでだった。リチャード様は私的な謁見を申し込んだ。なので、他の貴族のいない私たち家族だけ・・・の前で、リチャード様はフォンテイン王家を叱責してくれたのだ。


今でも一字一句を思い出せる。


「あなた方は聖王家の王族として自分を誇ることが出来ますか」

「リチャード殿、何を言いだすかと思えば。それは我らが『聖王家』に相応しくないと言いたいのですかな」

「そうは言っておりません。ですが、民を導く者としてはどうかと思いますね」

「我らを愚弄する気か。不敬であるぞ」

「そうおしゃるのであれば、なぜ気づかれないのですか。すぐ目の前に、心が悲鳴を上げている者がいるというのに」

「はっ、馬鹿なことを申すな。誰も助けなど欲しておらんわ」

「本当にそうでしょうか。言いたいことを言えずに、言葉を飲み込んで縮こまっている魂に、何故気がつかないのですか」

「何を訳のわからんことをいうのだ。ここに居るのは我が家族のみ。その家族が苦しんでいるなど、あるわけが・・・」


国王は・・・祖父は祖母、父、母と母が抱いているランベルク、兄へと、順番に視線を向けながら言い・・・。


「リドカイン?」


訝し気に私の名前を呼んだ。祖父の言葉に他の家族の視線が私へと集まり・・・驚愕に目を見開いていった。


不意に視線が上がった。見ると近づいていたリチャード様が私のことを抱き上げていた。


「お分かりになっていらっしゃらなかったようですね。リドカイン様は今まで何も言わずに我慢を重ねていました。聖王家の責務については解っておりますが、幼子を顧みない理由にはならないでしょう」

「そんな。私はいつも気にかけていましたわ」

「王太子妃様、それではお聞きしますが、リドカイン様とお話をなさったのは、何時でどのような内容だったか覚えていらっしゃいますか」

「そ、それは・・・」

「他の方々も、リドカイン様と会話をなさったのは、何時が最後か覚えていらっしゃいますか?」


祖父を含め、父たちは答えられずに俯いてしまった。


「家族を孤独に追いやる様な方々が、本当に民衆の望む政策を行えるものでしょうか。この言葉が不敬であるというのであれば、どうぞ投獄するなり何なりとなさってください」


このあと・・・私は家族で過ごす時間が出来た。祖父や祖母、父、母も、家族の誰かが私と会っているのだろうと思っていたと言っていた。普段のことは近習などから報告がなされていて、聖王家の王子として過不足なく成長していると、満足をしていたという。


リチャード様に言われなければ気づけなかったーーーーー。


『リドカイン・セベシュ・アグニスタ』


私の物思いを打ち破ったのは、麗しい声だった。私は目を開き、膝に置いた石を見た。


「これは女神様にはご機嫌麗しゅう」

『ご機嫌が麗しくないのは解っているでしょう、あなたは。ねえ、リドカイン・セベシュ・アグニスタ。あなたは何故、あのようなことをしたの』


私は微かに口角をあげた。


「女神様にもお分かりになりませんか?」

『まあ。女神の私に皮肉を言うなんて。いい度胸をしているわね」

「皮肉などと、滅相もございません。セリアテス様のことを大事に思われる女神様でしたら、お分かりになるかと思いましたので」

『わかるわけがないでしょう。本当にいい性格ね』


女神様が不機嫌を隠さない声で言われたのでした。



407話。

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[一言] うわお! 女神様直々の、お説教!
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