25-8 カテリア伯母様は・・・
思わずおじい様のほうを見てしまいました。おじい様はカテリア伯母様が『厚顔無恥なお父様』と言った時に、「おい!」と低い声を出していました。
「フフッ、おかしいでしょ。不遜な態度でいても許されるお父様が、それでも逆らえないものが第1聖王家にはあるの」
私はもう一度おじい様の顔を見てから伯母様のほうを向いて頷きました。
「それでは次ね。各王家のことや各国共通の決め事についてを少し話すわ。女神様の愛し子としてのお披露目会の時のことを覚えているかしら。その時にこの国の貴族家の名前を覚えていたわね」
「はい。でも、名前を読み上げてくださったので、うろ覚えでも大丈夫でした」
そう答えたら、伯母様は微笑んで目を細められました。
「その時に各国共通で、各階級の貴族家の数が決められていると、話したでしょう」
「はい」
「それ以外にもいろいろあるのだけど、今伝えなければならないのは、王家の婚姻のことね」
それは私も疑問に思ったことでした。王家同士の婚姻が行われないとは、どういうことなのでしょうか?
「フフッ、やはりセリアテスも気になっていたのね。実際には王家同士の婚姻自体はあるのよ。でも、次期王、女王の伴侶に、他国の王族がなることがないという、話なのよ」
「ええっと?」
どういうことなのでしょうか? 王家同士の婚姻はあるけど、次期王妃や王配にはなれない・・・ということで、合っているのでしょうか。
「私の友人であったレイフォード王の姉であるべアトリクス様も、他国の公爵家に嫁いでいるわ」
「えっ? ええっと、公爵家は・・・有りなのですか」
「ええ。それでも継承順位は調べてあるから、べアトリクス様の旦那さまやお子様たちに王位が継承されることはないでしょうね」
リングスタットの王女様が、他国の公爵家に嫁いでいたことに驚きました。
「だから各国の王妃様は自国の有力貴族家から出ているのよ」
そうなのですね。・・・って、待って。それはおかしいでしょう。だって、エルハルト様のお母様・・・キュベリック国の王妃はおじい様の妹ですよね。
伯母様の顔を見ましたら、伯母様はにこりと笑いました。
「あら、気がついたのね。そう、キュベリック国の王妃様は自国の貴族ではなくて、他国の公爵家の出よ。・・・それも、フォングラム家になるだけどね」
「それは・・・よろしかったのですか」
「ええ。フィーネリア様は王妃として嫁がれたわけではなかったのよ。もともとはディンガー公爵家へ嫁がれたの。あの当時、キュベリック国はごたごた続きで、王家を継ぐ方が居なくなってしまい、王妃様のご実家から養子を迎えてその方が王におなりになられたわ。その家がディンガー公爵家だったのよ。なのでフィーネリア様は国王の甥に嫁いだのね。あの国も安定して、世継ぎも生まれて安泰だと思っていたのよ。でも、フィーネリア様が嫁がれて最初のお子様をお産みになられた頃に、国王一家が事故で亡くなられてしまったの。そして、国王の甥である現陛下がお立ちになり、やっと落ち着いたというわけなの」
伯母様は・・・目を伏せて私と目を合わせないようにして、言いました。『国王一家が事故で亡くなられてしまったの』と言われた時には、少し声が震えていたように思います。
・・・ああ! そうでした。サンフェリス国でも、この前同じ様なことがあったではないですか。王太子一家と仲が良かったと、クラーラお姉様が話してくれたではないですか。
「伯母様・・・」
伯母様に辛いことを思い出させてしまったと声を掛けたのですけど、何を言えばいいのでしょう。
「セリアテス、ありがとう。気を使わせてしまって、ごめんなさい」
「いえ・・・私は何を言っていいのかわからなくて、言葉に詰まってしまいました・・・」
だんだんと声が小さくなってしまいました。そんな私に伯母様は手を伸ばしてそっと優しく抱きしめてくれました。
「いいえ。あなたは本当に優しい子ね。あの時も、私たちを気遣ってくれたのよ。あなたが居なければ、私たちは・・・気持ちを落ち着けて戻ることが出来なかったわ」
しばらく私を抱きしめていた伯母様が、ゆっくりと抱擁を解いて私から離れました。
「とりあえずはこんなところかしら。他の詳しいことは、領地から戻ってからにしなさいね」
伯母様は微笑んでそう言いました。私は頷きかけて、もう一つ聞いておかなければいけないことがあると思いました。
「伯母様、お聞きしたいことがあるのですけど」
「何かしら?」
「おばあ様やおじい様が言った『火種』って、何ですか?」
そう言ったら、伯母様はスッと目を細めて、おばあ様とおじい様へと視線を向けました。でもすぐに目元を和らげて、私のことを見てきました。
「あら、ごめんなさい。私には何のことだかわからないわ」
「伯母様?」
軽く首を傾げて伯母様を見ましたら、伯母様はひくりと笑みに作った口角を震わせました。
「伯・母・さ・ま」
一言ずつ区切って言えば、伯母様は私から目を逸らして、他の大人たちのことを順番に見ているみたいです。
「カテリア伯母様?」
再度おねだりするように言いましたら、伯母様は降参するように両手をあげました。
「気づかなかったふりをしてくれないの? そういうことは解る子でしょ、セリアテスは」
「子供にそれを求めるのは間違っていると思います!」
きっぱりと言い切ったら、伯母様はもう一度おじい様へと鋭い視線を向けたのでした。
404話。