25-7 カテリア伯母様たちも呼んで・・・
しばらく応接室にいる人は誰も言葉を発しませんでした。みんながみんな、なにかを考えているようでした。
そこに扉をノックする音がして、カテリア伯母様たちが顔を出しました。
「あら、アグニスタ様はお帰りになられましたのね」
「ああ、とんでもない火種を置いていきおった」
「まあ、お父様がしてやられるだなんて。アグニスタ様もやりますわね」
伯母様はコロコロと笑いましたが、目は笑っていないです。伯母様たちが椅子に座られてお茶が皆様の前に改めて置かれてから、おじい様がおもむろに話し始めました。
「どうやらリドカインのやつは、セリアテスの性格を見抜きおったようでな、各王家のことや各国共通の決め事などを、しっかりと教え込めと言って、帰りおった」
・・・えっ? あの会話のどこにそんな言葉がありましたか?
「それにの、本来の目的の『女神様の愛し子の言葉』を、しっかり引き出していきおった。これでは先日のあれも、楔にも戒めにならんようじゃ」
「まあー、それでは各国の大使館をなくすことも、撤収することもできなくなりましたの?」
「ああ、それだけではない。最後の手段の王家と公爵家を入れ替えるという手も、使えなくなった」
・・・最後の手段? 王家と公爵を入れ替えるのが?
「まあ、嫌ですわ、お父様。そのようなことを考えたこともないでしょうに」
「・・・そうじゃな」
伯母様がコロコロと笑い、おじい様がニヤリ笑いで返しています。・・・なんでしょう、このやり取りは。若干胃に負担がかかってくる気がします。
「それで、実際にはどのようなやり取りがありましたの?」
伯母様の問いにおじい様が、アグニスタ様が来てからのやり取りを、ほぼ再現して話しました。聞き終わった伯母様はジークフリート伯父さまと顔を見合わせてから、ため息を吐かれました。
「本当にさすが、聖王家というべきかしら。それともフォンテインの王族というべきかしらね」
それから、伯母様は私へと目を向けました。
「お父様、お母様、私からセリアテスに話してもいいかしら」
「カテリアからか。それは構わんが」
おじい様はお父様へと目を向けました。お父様が頷いたのを見てから、伯母様は私のことを手招きしました。私が立ち上がって伯母様のそばへと行こうとすると、おばあ様に手を掴まれてしまいました。
「お母様、それはなんですの?」
「あら、孫が可愛くて、そばから離したくないだけよ。別にいいでしょう。セリアテスがここに居ても」
「それならば、お母様も一緒にこちらに来ればいいでしょう」
呆れたように言った伯母様は、それからフッと口元を緩めました。
「あのお母様でさえ、セリアテスには甘くなるのね」
そう言われたおばあ様は無表情になって立ち上がり、私の手を引いて伯母様のそばの空いている椅子へと座ったのでした。
「詳しいことはまた後ほど、家庭教師かお父様たちが教えてくれると思うわ。今はアグニスタ様がおっしゃったことについて、かいつまんで教えるわね。でも、その前にお父様が手玉に取られたフォンテインの王族のことを、少し話そうかしら」
伯母様は私に微笑んで聞いてきましたので、私は頷きました。
「フォンテインが聖王家の中でも特別なのはわかるかしら」
「たしか、第1聖王家なのですよね」
「ええ。まだ荒れた世界だった時に、女神様に忠誠を誓った者たち。そして、混沌として殺伐とした世界だったのを、秩序ある世界へと変えることになった、立役者たち。その中でも一番魔力が多く、敬虔に女神様のことを慕った者が、フォンテイン国を興した者だったの」
「国を興した?」
「ええ、そうなの。他の6家はフォンテイン国を一緒に作った者たちで、その働きが認められて女神様から直々に国を作るように言われたのよ」
私は伯母様の言葉に戸惑ってしまいました。簡単にと言いながら、この世界の国の成り立ちの話を聞かされるとは思わなかったからです。
「そのような話は・・・」
「皆は知らないでしょうね。知っているのは各王家と、王家から臣下に降りた公爵家くらいだもの。・・・ああ、そうとは言えないかもしれないわね。100年間の騒乱で、各国も混乱に陥っていたもの。正しい史実は伝わっていないのかもしれないわね・・・」
伯母様は少し考えていましたが、すぐにハッとした顔をして、私へと笑みを浮かべた顔を向けました。
「まあ、とにかく、6家は女神様直々に国を作るにあたって、加護を与えられたのよ。でもフォンテインは加護を与えられてから国を作ったわけではないの」
「それで、第1聖王家なのですね」
「ええ。それで、かの国の王族は両極端な人が生まれやすいのよ」
伯母様はそういうと苦笑を浮かべられました。
「両極端ですか?」
「ええ。リドカイン様とランベルク様を見ればわかるでしょう」
「そうですね」
人畜無害な顔をして人を手玉に取るリドカイン様と、ご自分の興味があること以外には感心を示さない・・・いえ、疎かにしてしまうランベルク様。
「それに、厚顔無恥なお父様でさえ、第1聖王家であるフォンテインの王族には、どうしても無意識に遠慮してしまうのよ」
403話。