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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
402/444

25-5 アグニスタ様とおじい様・・・

「リドカイン殿ーーー!」


再度おじい様が低い声を出しましたが、しばらくアグニスタ様の笑いは収まりませんでした。


「まさか、リチャード様の弱点が、セリアテス様だとは・・・」


そう言って、体を折り曲げてククッと笑っていたのでした。



「いやー、本当に失礼いたしました」


笑いが収まり、改めて入れた紅茶を飲んで落ち着かれたアグニスタ様は、私へと頭を下げてきました。


「いいえ。話を聞きたいと言ったのは、私ですから。それにお父様、おじい様のお仕事が知れて、よかったです」


笑顔で答えましたら、アグニスタ様は目元を和らげて微笑まれました。ですが、それだけで何も言おうとはしませんでした。


「あの、アグニスタ様」

「はい」

「先ほどの話の続きをしてもいいですか」


アグニスタ様は瞬きを一つしてから、苦笑を浮かべられました。


「ああ、そうでした。ついセリアテス様の可愛らしさに和んでしまいましたね」


可愛らしさに和む? 私は何かそのような行動をしたのでしょうか。

わからなくて首を傾げたら、アグニスタ様の笑みが深くなりました。


「すみません。今の言葉は忘れてください。それよりも話の続きですね。えー、セルジアス殿を侮った国々は、かなり他の国からの評価を下げまして、数年は肩身の狭い思いをしていましたよ」

「今はそういうことはないということですか」

「ええ、表面上は」

「表面上なのですか」

「そうです。か」

「こら、リドカイン。そのような話をセリアテスに聞かせるでない」


アグニスタ様が理由を話してくれようとしたのを遮ったおじい様。アグニスタ様は真顔になりおじい様へと言いました。


「どうしてでしょうか。セリアテス様はお知りになるべきです。どちらにしろ王国会議で判ることですし」

「お前はー! 女神様に言われたことを忘れたか。子供に何をさせる気じゃ!」


アグニスタ様は口を噤むと、難しい顔をなさいました。いうならば、やってしまった・・・でしょうか。


「いや、本当に申し訳ございません。これは大人が対処するべきことでした。セリアテス様にお話しするべきことではございません」

「でも、必要なお話ではないのですか。私が知っておいた方がいいと思われたから、お話しくださったのでしょう」

「・・・本当に聡いお方ですね、セリアテス様は。そうです。王国会議ではいろいろな思惑をもって、セリアテス様に接触を図ろうとするものが出てくるだろう、という話です。わがフォンテインを含めた聖王家が、セリアテス様をお守りするつもりでしたが・・・」


アグニスタの言葉が口の中で消えました。眉間にしわがよって少し怖いお顔です。


「リドカイン、愚痴を言うつもりなら、帰ってもらうぞ」

「おじい様、先ほどからアグニスタ様に失礼です。お言葉を遮るのもそうですが、お名前を呼び捨てになさるなんて。聖王家の方にとっても失礼です!」


思わずおじい様に言ってしまいました。アグニスタ様に気安い言い方をなさるのはまだいいのですが、呼び捨てはいけません。おじい様は「グッ」と呻って黙ってしまいました。


「その件に関しましては気になさらないでください、セリアテス様」


アグニスタ様が柔らかな笑みを浮かべて、取りなすようにいいました。


「ですが」

「リチャード様は各聖王家から、ある程度でしたら無礼な物言いをしても、咎められることはありませんよ」

「本当ですか」

「ええ。どなたにも子供だった時がありますよね。そして子供というものは何かとやらかすものです。その子供が聖王家の子どもだったら・・・普通は注意などできません。・・・つまり、そういうことなのです」


アグニスタ様は言葉を濁されました。・・・が、つまり、そういうことなのでしょう。アグニスタ様が気にされないのでしたら、私も気にしないことにします。


「さて、余計なことをかなり話してしまいましたが、もう一つだけ。14日にセルジアス殿が『大使はいらない』と言われて、我々が焦燥にかられましたのは、そういったことがあったからでした」


私は頷くだけで何も言いませんでした。アグニスタ様は再度微笑まれてから、表情を引き締められました。


「それでは、本日私がセリアテス様を訪ねさせていただいたことについて、話させていただきたいと思います」

「はい」


私も背筋を伸ばしてアグニスタ様のことを見つめました。


「セリアテス様は『女神様に聖王家と認められない』と私が言ったことを否定なさりましたよね。『女神様はそのように思われないだろう』と思っていらっしゃると考えられましたね」

「はい」


魔力を放出して倒れた後のことですよね。私は頷きながら返事をしました。


「本当に女神様はそうお考えられていらっしゃると思いますか」


重ねて問われて首を傾げました。・・・これは、私の意識がない間に、女神様に何か言われたのでしょうか。


「えーと、違うと女神様は言われたのですか?」

「いいえ、女神様はそのようにはおっしゃいませんでした」


まるで謎かけみたいです。何を言いたいのかわからずに、今度は反対側に首を傾げてアグニスタ様を見ました。


「女神様は我ら聖王家に対し、叱責などはなさいませんでした。ただ一言、言われただけです」


叱責をされなかったのでしたら、良いことではないでしょうか?


そう言おうとしたら、先にアグニスタ様が言ったのです。


「それは・・・『聖王家とはなんぞや?』と」



401話。

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