25-3 アグニスタ様と・・・お話
アグニスタ様は項垂れてぶちぶちと愚痴を言いだしました。おじい様とお父様はその様子に眉間にしわを寄せて、不機嫌そうに見ています。
ええっと? 本当に何があったのでしょうか?
「アグニスタ様、こちらにお越しくださいな。まずは座ってからお話を致しましょう」
いつの間にか立ち直ったお母様が、女主人よろしく、アグニスタ様に話しかけました。アグニスタ様もハッと気づかれて、ソファーのほうへと来ました。
私もアグニスタ様の前に移動しました。アグニスタ様が私に先に座るように、手ぶりで促したので、ソファーに座りました。お母様は当たり前のように私の隣へと座りました。お父様・・・が、私の隣に座ろうとなさいましたら、一瞬嫌そうな顔をしたアグニスタ様が見えたので「お父様、あちらへどうぞ」と言いました。
お父様は驚いた顔をした後、すごすごと椅子のほうへと行かれました、ね。
・・・その様子をアグニスタ様は、驚きに目を丸くしていらっしゃいます。
さて、紅茶とお菓子が置かれて準備は整いました。
「先ほどは丁寧なご挨拶をありがとうございました。それで、本日はどういったご用件でいらっしゃったのでしょうか」
まどろっこしいことは嫌なので、すっぱりと切り出しました。・・・あ、でもその前に。
「もし、お父様やおじい様に聞かれたくないお話でしたら、席を外してもらいますので言ってくださいね」
ブフッ
離れたところから、なにかを噴き出すような音が聞こえてきましたけど、私は知りません。一瞬そちらに視線を向けたアグニスタ様は、フッと口元を緩められました。
「いえ、他の方に聞かれて困る話をしに来たわけではないのです。・・・(それにしてもセリアテス様はお強いですね)」
小声で付け加えられたので、お父様たちには聞こえていないでしょう。私は軽く首を傾げて「そんなことはないと思います」と答えました。でも、本題に入る前に聞いておきたいことがあります。
「あの、アグニスタ様のお話の前に聞いてもいいですか」
「何でございましょうか」
「先ほど、おじい様とお父様に言われたことです。なにか、おじい様たちがご迷惑をおかけしたのではないですか」
「セリア、それは・・・」
「違うのじゃ。あれはあやつらが悪かったのであって・・・」
「お父様、おじい様、私はアグニスタ様にお聞きしています。黙っていてくださいませんか」
慌てて遮ろうと口を挟んできたので、邪魔をされないようにぴしゃりと言いました。お父様とおじい様は口を噤んだようで、それ以上は何も言ってきません。
アグニスタ様は私とお父様たちの様子を見て、面白そうに笑いました。
「アハハハハ、すみません、セリアテス様。少し愚痴を言わせていただいただけですので、お気になさらずに」
「ご迷惑は?」
「かけられたというほどではございません。聖王家の務めのうちですから」
「本当ですか?」
「はい。先ほども言いましたが、侮る様な失言をしてセルジアス殿を怒らせた彼らが悪いのです」
爽やかな笑顔で答えてくれたので、どうやら本当のことのようです。
「えーと、簡単でいいので、何があったのかお聞きしてもいいですか」
「ええ。セリアテス様はセルジアス殿が外交を担当しているのはご存じですか」
「はい」
「では、リチャード様も外交をなさっていたことも、ご存じでしょうか」
「はい、聞きました」
「もともとフォングラム公爵家は外交を担当する家だと聞いています。ただ質が悪いことに外務大臣ではないのですよ」
「はい?」
思わずアグニスタ様のことを凝視してから、お父様とおじい様のことを見てしまいました。
「リチャード様は精力的なお方でしたので、各国を回っておられました。特に駐在大使に無理難題を吹っかけてきた国に赴いて、交渉の末、リングスタット国に有利な条件で条約を締結なさっていましたね」
再度おじい様のことを見つめてしまいました。おじい様は私と視線を合わせないように逸らしてしまいましたけど。
「そのリチャード様の後をセルジアス殿が継がれて、リチャード様と同じ様に各国に挨拶に回られたのです。それを好機と捉えた馬鹿がいる国が何カ国かありまして、セルジアス殿に暴言を吐いて、ついでに『聖王家ではない国の一大使が調子に乗るな』と失言をしました。それに対しセルジアス殿は『わかりました。これでリングスタットとそちらとは、何も関係ない国とします。それでは私共は失礼させていただきます』と言って、大使館を引き払ってリングスタット国へと帰られました」
ん?
「最初はリングスタットの大使館が無くなったことは、大したことだと思われなかったのです。ですがすぐに、自国の商人たちから訴えがあがり、困ることになったのです」
んん?
「それはリングスタット国を出入国する時や商品の関税などが、今までの何倍もかかるようになったからなのですよ」
今度はお父様へと視線を向けましたら、おじい様と同じ様に視線を逸らされてしまったのでした。
「ああ、このことはセルジアス殿に非はありません。国交がない国の商人に関税を優遇する必要はありませんよね」
「ええっと、国交がない国ですか」
「そうです。セルジアス殿はちゃんとその旨を告げて、大使館を撤収しましたから」
399話。
さて、少しセリアちゃんに変化が出ています。
祖父と父に強気な発言をしていますよね。
これは、二人がセリアちゃんを追い詰めたと思って、懺悔したことに関わっています。
あのあと、セリアちゃんに鬱陶しいくらいしたでにでまして・・・。
「気にしてない」「家族なのだし」「普通にしてください」と言う、セリアちゃんの言葉を無視するかのような態度をしました。
それに女神様から何を言われたのかは、教えてくれなかった。
その結果、16日の朝から父と祖父に強気発言をしています。
おかげで迂闊なことは言えなくなった二人は黙るしかなくなりました。(やーい!




