24-19 お父様の・・・懺悔
「本当に言いわけなどできませんね。ええ、こういう事態になって、やっとわかりましたよ。女神様がなぜセリアテス様のことを『愛し子』と、特別なのだと言われたのか。今のこの世界は安定しています。魔物に脅かされることがなく、各国も小さな衝突はありますが争乱にまで発展するような案件はありません。穏やかでぬるま湯に浸かっているような日々です。・・・そんな日々を過ごす我らに、警鐘を鳴らす者として使わしてくださった。女神様の御言葉を伝えるために選ばれたお方を、権威の象徴や権力を握るためだけに、自国に取り込もうと考えたとは。不敬などという言葉では言い表せないくらい、不遜なことをしてしまいました」
フォンテインの大使が苦々しい口調で言いました。
「女神様はセリアテス様をこのようにした我々を許さないでしょうね。聖王家などと、名乗れなくなるでしょう」
「・・・そん・・こ・・・ない」
「「「えっ!」」」
何とか口を開いて言葉を言ったけど、かすれて不明瞭になってしまいました。
「「「セリアテス!」」」
重いまぶたをなんとか開けて、目を開きました。泣きはらした目で覗き込むお母様の顔が見えました。隣には同じように目を赤くしているクラーラお姉様の姿が見えました。
「よかった、気がついたのね」
そう言うと、お姉様は顔を覆って泣き出してしまいました。
「わ・・たしは・・・」
「魔力を放出しすぎて倒れたのだよ」
お父様がお母様を支えるように肩に手を置いて、私と目を合わせるようにして言いました。
「覚えているかい」
「はい・・・おとうさま」
そして探る様な目で見てきました。
「みな・・・さま、は?」
「大丈夫だ。心配しなくていい。ほとんどが軽傷でかすり傷ばかりだ」
そう答えた後、お父様は目を細めました。
「それで、どこから意識が戻っていたんだい」
「おねえさまが・・・お母さまを、なぐさめていた・・・ところからです」
私の答えにお父様は目を瞑りました。
「そうか。すべて聞いていたのか」
重いため息を吐かれたお父様。それから私の左手を取って握りしめてきました。温かい・・・お父様の魔力が流れ込んでくるのが分かります。
「話さないでいいから、聞きなさい。セリアテスは魔力を放出しすぎて、枯渇寸前までいったのだよ。魔力の壁に私たちは手を出すことが出来なかった。ミルフォードとオスカーだけを超えさせることが出来た。魔力の放出が収まるとすぐに、二人はセリアへと魔力の譲渡を行った。自分の負荷を考えずにかなりな量の魔力を注いでしまったのだよ」
「おにい・・・さまたちは?」
「大丈夫だ。すぐにヴィクトールとエルハルト様が二人に変わったからな。だけど急激な魔力の消失に、歩くのもままならない状態になったよ。それも、今は治ったがな」
「なおった?」
「ああ。キンブリー氏の研究の成果だ。魔力を込めて育てた果物は、魔素を多く含んでいる。その果汁を摂取したら、立ち上がれるまでに快復したのだよ」
良かった。安堵の息を吐きだした私。お父様は握る手に少し力を入れました。
「幸いにもここには魔力量の多い聖王家の方々がいらっしゃった。皆が快くセリアテスに魔力を分けてくれたのだ」
そうでした。ランベルク様たちは王国の名前がお名前に入っていました。大使の方々もどうやら王家と血縁関係のある方々ばかりみたいでした。
「では・・・まえのときも・・・おとうさまたちが、まりょくを・・・わけてくれたのですね」
「ああ。知られたくはなかったがな」
苦い声でお父様は答えてくれました。いつの間にかお母様はいなくなり、お父様はベッドの横に跪いていました。私の左手を持ち上げると額につけるようになさいました。
「セリアテス、不甲斐ない父で申し訳ない。頑張るセリアが可愛くて微笑ましくて、止めることが出来なかった。こんなことになるのなら、もっと早く止めておけばよかった。周りがなんと言おうと領地へ送っておくのだった。こんなことを言うのは不敬になるのだろうけど、私は女神様がセリアのことを愛し子にしたことが許せない。記憶を失くすという辛い思いをしたセリアに、女神様に奉仕する立場を押しつけたのだから」
「おとうさま」
お父様は懺悔をするように強く私の手に額を押しつけています。
「それでも女神様に選ばれたからと相応しくあろうとする、セリアのことを止めることができなかった。それだけじゃない。私はセリアテスが嫌がることをさせてきた。さっきだって、セリアテスが対戦などしなくていいと言ったのに、強引に了承させてしまった」
「それは・・・わたしが」
「いいや、違う。いいかい、セリアテス。私達はランベルク様とファラント殿が対戦するように仕向けたのだよ。実際に試合になってしまえば、少しくらい行き過ぎた行為になっても致し方ないと、黙認したのだよ。一番セリアテスの理解者として、守る立場である親の私が、してはいけないことだったのだ」
お父様は言葉を切り、息を吐き出しました。
「このままではセリアテスのためにはならないだろう。もし、セリアテスが平穏を望むのであれば、神殿へ行くことも考えてほしい」
お父様の言葉に体が震えてきます。
「おと・・・さまは、わたしがいらない・・・のですね」
「違う。そうじゃない。セリアのためにならない親であれば、不要だろう」
394話。




