24-17 魔力暴走、再び・・・
「セリアテス様!」
ランベルク様が声を掛けてきました。目を開けると、必死な顔をして手を伸ばしています。
「駄目です。魔力を押さえてください、セリアテス様」
薄い膜がかかったみたいに、ランベルク様がぼやけて見えます。揺らめく膜がきらめいて・・・それに阻まれているかのように、ランベルク様の手は私に届きません。
「セリアーーーーー」
お母様の悲鳴のような声が聞こえてきました。そちらを見ると、おばあ様に抑えられるように捕まっているお母様がいます。
「セリアテス様、気持ちを落ち着けてください。循環です。魔力を循環させるのです」
近いところでオットマー先生の声が聞こえました。
何を言っているのでしょうか。私は落ち着いています。
そう、私はここに居てはいけないのです。人が怪我をするようなことを願うような者が、女神様に愛し子と言われて良いわけがないのです。
「セリアテス、駄目、駄目よ。それ以上魔力を放出しないで」
クラーラお姉さまが泣きながら叫んでいます。
お姉様、こんな不甲斐ない従妹でごめんなさい。私を可愛がってくれてありがとうございます。大好きです。お姉様。
「駄目だよ、セリア。一人で考えて、思い詰めるだなんて」
「そうそう。僕らは君の騎士なんだからさ」
不意に肩に手が置かれました。右側にミルフォードお兄様、左側にはオスカーお兄様がいます。
なんで? 近づけないようにしたはずなのに・・・ドウシテ?
「もう、大丈夫だよ。セリアには僕らがいるからね」
「一人で苦しむなよな」
ナンデ? 私のセイでランベルク様はケガをシタのよ。
「そこは自業自得だよ。僕らに怪我をさせたんだからさ」
「まあ、ファラントは少しやり過ぎたとは思うけどね」
ホラ、わたしガ原因ジャナイ。
「そんなことないから。セリアはランベルク様の怪我を癒してあげただろう」
ソレはワカラないワ。体ノ中のケガはミエナイのダカラ。
「うん。そのためにも医師に診てもらわないとね」
「というか、これじゃあ怪我人が続出しているんだけど」
ナニ、ヲ、いってイルの?
周りを見ると、私へと近づこうとする騎士の方がいっぱいいた。風に煽られたのか、小石などが飛んで顔や手足に傷を負わせていく。
……風ジャナイ。これは私の魔力が、起こしていること。
自覚した私は頭へと手をやった。
「あっ、あっ、イヤー!」
叫ぶと同時にプツリと意識は途絶えたのでした。
「ウッ、ウッ」
誰かが泣いている。浮上してきた意識に、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
「泣かないでください、叔母様。セリアテスは大丈夫ですわ」
「でも、どうしてこの子がこのような目に合わなければいけないの」
「それについては、本当に申し訳ございません。セリアテス様のお気持ちを考えずに制裁を加えた私が悪いのです」
「そうね。ファラントが悪いわ。セリアテスのことを見ていたのならわかったはずよ。自分に嫌がらせをした者や蔑ろにした者でさえ、許すような子なのよ。あんな血を吐くような怪我をさせれば、セリアテスが自分のことを責めてもおかしくないでしょう」
「はい。申しわけございませんでした」
泣いているのはお母様? お姉様がお母様のことを慰めているの?
ファラント様はお姉様に責められているのね。
「それにしてもこのような方法で本当にセリアテス様は目を覚まされるのでしょうか」
「それは大丈夫じゃ。前に同じことがあったからの」
「だから、聖王家の無駄に多い魔力をセリアテスに分けてください」
フォンテインの大使の方? おじい様? お父様まで何を言っているの?
「ランベルク殿、そろそろ変わろう」
「私は大丈夫だ。先ほど、セリアテス様が回復してくださった。その分をすべてセリアテス様にお返ししたいのだ」
・・・回復? 何のことなの?
ああ、まぶたが重い。重くて目が開けられないわ。
「だけど、ランベルク殿はセリアテス様の一番そばにいたじゃないか。魔力圧に晒されていただろう。擦り傷だらけだぞ。せっかく体の中の傷を治してもらったのに、その姿を見たら心配させることにならないかな?」
「ぐっ、わ、わかった。手当が終わったらすぐに戻ってくるからな。そうしたらすぐに変われよ」
「はいはい。わかったわかった」
えーと、先ほどがアルハンドラ様で、心配するようなことを言ったのがフィール様、最後がライオット様よね。ランベルク様は・・・怪我? 擦り傷?
「伯父上、これからどうなさるのですか」
「どうもせんわい。セリアテスは、今まで通りフォングラム家で過ごすのじゃ」
「伯父上、そんなことを言っているのではないと判っていらっしゃいますよね」
「わかっとるわい」
「それで、ランベルクたちのところまで移動したのは、風魔法を元にしたものでしたね。そのあとの治癒の魔法は・・・あれは女神様の加護の力でしょうか」
「どうしてそう思うのじゃ」
「もし、セリアテス様が治癒の魔法を使えるのであれば、ランベルク殿の魔法で怪我をした兄君たちに使っていたからですよ。それをしなかったということは、あれは加護によるものとしか思えませんね」
「・・・セリアテスにしか使えん魔法か」
「ええ、そうです。そしてこれは秘匿するしかないですね」
「そうか?」
「はい。というかわかっておられるのでしょう。ランベルク殿に治癒の魔法を願ったのは、ランベルク殿の命の危険を感じたからだと。これを知られたら助かりたいと思うものが殺到することになるでしょう。下手をすれば理に反する行為を強要されかねません」
エルハルト様・・・怖いことをおっしゃらないでください。
392話。




