24-10 お兄様たちとランベルク様の対決・・・そして
ガタリと、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった魔術師長の方々は私のそばへと来ました。
「セリアテス様、もう一度見せてください」
「は、はい」
勢いに押されるように、同じように爪の先に火を出します。
「しっかり炎だね」
「ああ、ちゃんと燃えていて熱さも感じる」
「でも、セリアテス様は熱く思われていないようだ」
「そうなると熱を遮断する魔法を使っているのか」
「お前たち、オットマー様が言っておられただろう。そんな思い込みでは駄目だと。炎は熱いものではなくて、自分が魔力を使って出した炎は自分自身を傷つけるものではない、と。自分の力の延長ならば、傷つくはずはないのだとも、言ったではないか」
そう言ってランベルク様も左の人差し指の先に火・・・炎を出しました。一瞬ぶわっと炎は膨らみましたが、すぐに2センチくらいの大きさの炎になりました。安定しないのか炎はゆらゆらと不規則に揺れています。
「なかなか難しいものだな。これなら一気に放出する方が楽だ」
「だからでしょう。オットマー様も言っておられたではないですか。少しの魔力で同じ大きさを持続させることは、良い訓練になるだろうと」
エルハルト様がランベルク様にたしなめる様に言いました。ランベルク様は「確かにな」と言って、炎を消しました。
「他には? セリアテス様は、何が出来ますか」
目をキラキラさせて問いかけてきました。
「えっと、光。これくらいです」
朝、やったように光を出しました。イメージは前のホタルのような光です。ふよふよと私の目線まで光はあがり、そこで停止しました。
「光? って、こんなに簡単に出すことが出来るものなのか?」
「いや、光を出すには雷を出せるようにならないと・・・」
「その前に適性がないと駄目だったはずでは?」
「いや、待て。適正もあてにはならないとおっしゃっていらっしゃらなかったか、オットマー様は」
「おっしゃっていたな」
魔術師長の方々は目を煌めかせました。
「これは大仕事になりそうだな」
「ああ、これまでの常識がすべてひっくりかえる」
「やはり、早く来て正解だったということだな」
頷き合う皆様の輪から外れて、ランベルク様は私へと手を差し出しました。
「さあ、セリアテス様、魔術師の塔へと参りましょう。あちらでしたら少しくらい魔力を込めすぎても、被害が出ることはありませんから」
「えっ? あの・・・どういうことでしょうか」
「大丈夫です、何も心配はいりません。魔術師の塔にて、我らと魔法について語りあおうではありませんか」
「は? えっ、ちょっと待ってください。あの、私は魔法についてよく解っていないのですけど」
「はははっ、何をおっしゃいますか。今までの魔法のことは忘れていいのです。これから私たちと、新しく定義を構築していくのですから」
「構築って・・・私にはできません」
「大丈夫ですよ。セリアテス様は思うままに魔法を使っていただくだけでいいのです。定義づけをするのは、我々がいたしますから」
先程から、会話が成り立っていない気がします。困惑しながらもどうしようかと、クラーラお姉様のことを見ようとした時に、それは起こりました。
ランベルク様は私のことを抱き上げてしまったのです。それも左腕に座らせる子供抱きです。つい、体を安定させるために、ランドルフ様の肩を掴んでしまいました。
「さあ、参りましょう。魔術師の塔までは少し距離がありますから、このままお連れしますね」
「えっ? いえ、下ろしてください」
「ご遠慮なさらずに。さあ、参りましょう」
「「セリアテスを下ろせ!」」
歩き出したランベルク様でしたが、すぐに立ち止まりました。ランベルク様を遮るようにミルフォードお兄様とオスカーお兄様が立ちふさがったからです。
「どいてくれないかな。子供に無体なことはしたくないんだけど」
「それはこちらの台詞だ。セリアテスを下ろせ。そして自分の立場を自覚するんだな」
オスカーお兄様が模擬剣を突き付けて言いました。ランベルク様はそれを見てフンと笑いました。
「そんなおもちゃでどうすると?」
馬鹿にするように言って、右手をお兄様たちに向けました。
「ウインド」
「うわっ」
「グッ」
放たれた魔法でお兄様たちは飛ばされて壁に背中から激突しました。それを見た近衛の方々がさすがに色めきたち動こうとしましたが、不自然に動きを止めたのが見えます。
・・・そこまでを視界にいれた私はゆっくりとランベルク様のほうへ顔を向けました。抱き上げられているので、見下ろす形です。
歩き出そうとしたランベルク様でしたが、周りの反応から私へと視線を向けました。
「あなた・・・か」
「ん?」
「お兄様たちを傷つけたあなたは、私の範囲5メートル以内に近寄らないで!」
「グッ」
支えが無くなった私は、ふんわりと床に足をつけました。そのままお兄様たちへと走ります。
「お兄様~」
「「セリアテス」」
お兄様たちは背中が痛いのか顔をしかめていましたが、私が近づいたことで立ち上がりました。どうやら、ひどい怪我はしていないようです。
「お兄様、よかった・・・ウッ・・・ウワーン」
私はミルフォードお兄様に抱きつくと声をあげて泣き出したのでした。
384話。
よし! 予定通りのところで一区切りです。
次話はクラーラが語ります。
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