24-7 婚約の打診・・・騒動?
クラーラお姉様の宣言に、エルハルト様は目を瞠りました。それから少し思案をなさり、笑みを浮かべてお姉様のことを見つめました。
「もちろん我がキュベリック家は女神様からの下知がなくても、セリアテス様をお守りすることに、全力で協力させてもらうよ」
「ちょっ! それはずるいだろ」
ランベルク様が抗議の声をあげられました。
「どうしてですの」
「ライオットも言ったけど、女神様を引き合いに出されたら、何も言えないじゃないか」
「それでしたら、年齢や家格で侮るようなことをなさらないでくださいな」
澄まして答えたお姉様に、渋面を向けたランベルク様でしたが、すぐに悪戯を思いついたようなニヤリ笑いを浮かべました。
「いいねえ。気に入ったよ、クラーラ姫。聖王家の名にひるまないところや、しっかりと自分の意見を言えるところなどをね。君こそ聖王家に名を連ねるのにふさわしい」
お姉様は『何を言っているのだ、こいつは』という、不審者・・・ではなくて、変な人を見る目でランベルク様のことを見つめました。
ランベルク様は席を立ち、お姉様のそばまで歩いてきて跪きました。
「クラーラ姫、どうかフォンテインへの輿入れを考えていただけないか」
お姉様の左手を取り、手の甲へとキス・・・の前に、お姉様は手を引いてしまいました。
「何を言っていらっしゃるのかしら? そちらの王太子様はご結婚なさっていますよね。お子様もいらっしゃったはずですわ。つまり、私に側妃となれということかしら?」
表情を消した顔でお姉様が問いかけましたが・・・なにやら先ほどの怒りを顕わになさっていた時よりも、怖ろしく感じます。
「そんな提案をするわけないだろう。王弟である、私の妃として来てほしい。大切にすると誓うよ」
再度お姉様の手を取ろうとしましたが、お姉様はどこからか取り出した扇で、パシリとランベルク様の手を叩きました。
「馬鹿にしないでいただけます。打算も推算もすべて透けて見えておりますのに、手を取るわけがないでしょう」
お姉様の言葉に、腰を浮かしかけたローラントお兄様は座り直しました。
「ええ、全くですね。姉にはサンフェリス国王も認めた、婚約者候補がおりますからね」
余裕を取り戻したようなローラントお兄様の言葉です。私もこの言葉で、そうでしたと思い出しました。私のことを聞いて大急ぎでこちらにいらしたので、ファラント様との婚約は内定という状態だそうです。国に戻ったら、改めてジーク伯父様の立太子と、クラーラお姉様の婚約のことが公になると言っていました。
ホッと息を吐きかけたら、またもランベルク様が言いました。
「婚約者候補なら、決定ではないのだろう。それならばフォンテイン王家からとして、打診させてもらおう」
「無駄なことはしない方がいいと思うな~」
オスカーお兄様が白けたような声で言いました。そちらを不快気に見るランベルク様。
う~ん、こう言ってはなんなのですけど、駆け引きってこうやるのですね。勉強になります。
「どうして、無駄だっていうのかな?」
「たとえ、聖王家から打診されても、クラーラを他国には出さないからだね」
ミルフォードお兄様まで参加なさりました。・・・というか、魔術師長の方々は面食らったような顔をなさっていますね。サンフェリス国とは関係のないお兄様がおっしゃったからでしょうか。
「えーと、君は?」
「ミルフォードだったよね。フォングラム公爵家の嫡男の」
フィール様が戸惑ったように言うのに対し、アルハンドラ様が確認を取るように言いました。・・・というか、先ほどオスカーお兄様がミルフォードお兄様のことも紹介したじゃないですか。話はちゃんと聞くべきですよ。
お兄様は全然友好的でない視線を魔術師長の方々へと向けました。そのお兄様の視線に怯んだように視線を外す皆様。
「それでさ、もし断ったらどうするの? 聖王家からの打診なのに不敬だとでもいうの?」
オスカーお兄様が投げやりな感じに聞きました。
「オスカー王子、いくら愛し子様の親戚だからと、そのように振舞われるのはどうかと思うけど」
「だからさ、さっきからそっちがそういう態度をとっているじゃん。それに姉の婚約のことにセリアテスは関係ないだろ。まあ、関係あるとするなら、姉の婚約者候補との話を聞いて、頬を染めて喜んでいたくらいかな」
「なっ! 愛し子様は関係ないと言いながら、名前を出すとは!」
「別に愛し子とは言ってないじゃん。従妹として、従姉の婚約話を喜んだって言ってるのにさ。やっぱ、あんたら、魔法馬鹿だろ」
オスカーお兄様の言い方に呆然とする皆様(魔術師長の方々)。こちら側では(リングスタット国の人間は)、顔に出さないようにしていますけど、何やらオスカーお兄様を応援しているムードが感じられます。何人かは肩が揺れましたもの。
その様子を見ていた私は思いました。
いいかな、言っちゃっても。
チラリとオスカーお兄様のほうを見たら、目が合いました。そして、何やら楽しそうに目を輝かせて頷いてくれました。
「ええっと、少しいいですか」
「セリアテス、何かしら」
「お姉様、もし、なのですけど、婚約を申し込まれたとジーク伯父様(のそばにいるファラント様)が、お知りになられたらどうなるのでしょうか?」
381話。
・・・おい!
ランベルク・・・




