24-2 やりすぎちゃいました・・・
邸に戻った私はすぐに自室に運ばれベッドへと寝かされました。
クラーラお姉様がおっしゃったように、体の疲れというより心・・・ではなくて、精神的に疲れたようです。
深く考えなくても、女神様と対話をし、それにシュレインお兄様にお兄様と呼びかけるミッションまでクリアしたのですもの。気づいていなかったけど、緊張していたのでしょう。
だから、シュレインお兄様にお兄様呼びを受けいれてもらえて、力が抜けてしまったのですね。
そんなことをベッドの中で思い出していると、だんだんと部屋の中が薄明るくなってきました。普段ならそろそろ侍女の誰かが来るのですが、昨日おばあ様に朝の運動は禁止だと言われてしまったので、誰も来ないのでしょうか。
キィー
そんなことを考えていたら、微かに扉が開く音が聞こえました。どうやら蝶番の調子が悪いみたいです。あとで油を注した方がいいと伝えることにしましょう。
天蓋が動いてサラエさんが顔を覗かせました。目が合ったら、にこりと微笑まれました。
「起きていらっしゃったのですね、セリアテス様。おはようございます。先にお声を掛けずに申しわけございませんでした」
「いいえ。ええっと、おはようございます、サラエさん。昨日早くに眠ったからか、思ったよりも早い時間に目が覚めてしまったようです」
「そうでしたか。では、どういたしましょうか。身支度を致しますか」
「えーと、そうしたいのですが・・・」
私は困ったように笑いました。それで、なにかに感づいたサラエさんはさっと顔色を変えると「少し失礼いたします」と言って、部屋を出て行ってしまいました。私は横になったまま、うまくいきそうだと思っていました。
すぐに足音が近づいてきました。それも複数の。
「セリア、起きることが出来ないって!」
まずはお兄様が部屋に飛び込むように入ってきました。
「大丈夫かい、セリア」
「苦しいとか痛いところはないの?」
続いてお父様とお母様です。・・・なんか、あの時の再来みたいですね。
そんなことを思って、お父様に話しかけようとしたら、また足音が近づいてきました。
「セリアテス、熱が出たのか」
「落ち着きなさい、リチャード。セリアテス、お顔を見せてね」
おじい様とおばあ様も部屋に入ってきました。誰かがカーテンを開けてくれたのか、部屋の中が明るくなりましたね。そっと邪魔にならないようにと、天蓋も寄せてくれています。
額に手を当てたり首筋を触ったりして、私の顔をじっと見ながらおばあ様は言いました。
「顔色は悪くないし、熱もないようね。起きることが出来ないのは、疲れすぎたからでしょう。今日はこのまま一日休んでいなさいね」
そう言われてしまい、私は困ってしまいました。どうやら本気で心配をさせてしまったみたいです。
私はおじい様へと目を向けました。おじい様は「なんじゃ」と目を細めて近づいてきました。
「おじい様、起こしてください」
おじい様が背中に手を当てて上半身を起こしてくれたので、そのまま首へと抱きつきました。
「まあ!」
「あら」
「セリア?」
「フウ~」
「よ~しよし」
おじい様はそのまま私を抱き上げてくれました。それで、部屋に居る人の顔を見ると、お母様は驚いた顔、おばあ様は少し呆れた感じで、お兄様は困惑したお顔で、お父様はやれやれという顔をしています。おじい様は・・・なぜか得意げな顔をしていました。お父様が少しムッとしてしまいましたね。
サラエさんとクリスさんは明らかにホッとした表情をしていました。
「驚かせてしまってごめんなさい」
素直に謝ったらお父様に頭を撫でられました。
「心臓が縮まったわい。あんまりこういうことはせんでくれの。ところでの、セリアテスがこんなことをしたのは、なにかあるからじゃろ」
おじい様に聞かれてコクリと頷きました。
「昨日の様子から、今日王宮へ行くことを反対されると思ったの」
「そうか。いたずらを仕掛けるくらい元気だと言いたかったんじゃな」
私はまた、コクリと頷きました。そしておばあ様のほうをじっと見つめました。おばあ様は息を吐き出すと言いました。
「そんなにも王宮に行きたいの?」
「はい。今日王宮に行かなかったら、王女様方に会えないまま領地に行くことになります。ひと月も会えないのです。それは嫌なのです」
おばあ様の目が細まりました。何を言われるのだろうと、おじい様の首に回した手に力が入ってしまいました。おじい様は大丈夫だというように背中を軽く叩いてくれました。
「仕方がないわね。それでも、午前から行くのは許しません。行くのなら午後からにしなさい。もちろん私もついて行くわよ」
おばあ様がため息と共に許可をしてくださいました。
ええっとですね、どうも我が家では、おばあ様が一番発言力が強いみたいです。なのでおばあ様を篭絡できれば、大概のことは通るようです。昨夜に朝運動が駄目だと言われたことで、朝食の時にでも今日の王宮へ行くことも駄目だと言われるのではないかと思ったのですよ。
だからその前にお父様に甘えて言質を取ろうとしたのですが、おじい様とおばあ様がいらっしゃるのが早かった・・・というわけです。
年寄りは朝が早いというのを忘れていました。
そこにまた足音が聞こえてきました。
「セリアテス、大丈夫なの?」
「あっ!」
クラーラお姉様が部屋へと飛び込んできて、その後にキャバリエ公爵家の皆様が現れて・・・伯母様たちに心配させたことを私は謝ったのでした。
372話。




