学者話1-4 仮説は・・・ちぃーと、余計なことまで話しかけてしまっておるの
わしは一気にしゃべったことで、口の中が渇くのを感じた。まだもう少しは大丈夫じゃが、出来れば一口水分を含みたいと思った。
まあ、無理じゃろうが。
唾を飲み込んで続きを話そうとしたら、近づいてくる人影が見えた。それは水差しとコップを持った侍女だった。演台にそれを置くとお辞儀をして下がっていった。
大使たちが座るところにもコップと水差しが置かれて行く。セリアテス嬢のところにはミニテーブルが置かれ、お菓子と飲み物が供されておった。
わしはコップに水を入れて一口飲み、一息ついたのだった。
「では続きを話させてもらうかの。農産省から、サクランボの木に実がなったという話じゃったな。種を渡してから、かれこれ8年ぐらい経ったかのう。じゃがなったその実は思っていたのと違っての、かなり小さなものじゃった。もちろん一本の木だけでなく数本・・・あの種から育ったすべての木が、そういう状態だと聞いたのじゃ。
農産省の者たちと意見を交わし合いながら、実際にその気が生えていると所に行ったりもしたのじゃ。そこでわかったのは、あそここの辺りでは空気が違っておるということじゃった。その空気が違うのがなんなのかわからんかったが、そこで面白いものを発見することになったのは僥倖だったの。
それは魔石の発見じゃった。
いやいや、待ってくだされ。わしが発見したのは魔石群ではないぞ。それとは全然違うものじゃ。というよりもこれを見つけたからこそ、魔素と魔力と魔石に関係があるのではと、気づけたのじゃ」
魔石の発見と言ったとたんに、大使ども・・・だけでなく、リングスタットの者どもまで目の色を変えたのう。
・・・いかん。つい、まだ話さないでおくつもりだったことまで言うてしもうた。なんとか誤魔化してみるかのう。
「魔石のことは後で話すとして、先にサクランボの木のことを話させてもらうぞい。結果として、そこへ行ったことである仮説をたてることが出来た。実際にそれを実践するという研究を続けた結果、それまでサクランボがなっていた夏だけでなく、春と秋にも実をつける木を作り出すことが出来たのじゃ。
そうそう、植物の研究はのう、とても時間がかかるのじゃよ。種から育てて花が咲いて実をつけるまで、最低でも5年はかかる。安定した数が取れるようになるにはもう5年ほど必要なのじゃ。そこから交配したりなんだりとしていくと、成果が出るまでに20年、30年かかっても仕方がないことじゃよ。
わしはそのことを踏まえて魔物のことをもう一度考えることにしてみたのじゃ。魔物はやはり何らかの形で変節した生き物ではないかとの。それで、わしは前にいろいろな人から聞き取った、魔物との戦いはどんなじゃったかを調べ直すことにしたのじゃ。
それで判ったことは、魔物は普通の武器では深手を負わせることは厳しかったということじゃった。魔法や魔石を組み込んだ武器でなら、傷を負わせることが出来たそうじゃ。これは個人の力量は関係ないことじゃよ。調査書の証言者に一般兵からのものがあっての、面白いことを言っておったんじゃ。
その者はある騎士の従者という立場だったそうで、魔物との戦いでは騎士と共に奮迅したそうじゃ。その物は魔物との戦いの中で、騎士は致命傷を与えられるのに自分はかすり傷をつけるのがやっとということが、不思議でならんそうじゃった。そんな中で騎士とその者は魔物に囲まれてしまったそうじゃ。囲みの外からも魔物に攻撃を加えていたそうじゃが、二人はいなしていくので精一杯だったという。そこに魔物が突進してきて、期せずして同時に剣を跳ね上げさせられてしまったそうじゃ。二人は落ちてきた剣を掴んで魔物と再び切り結んだそうじゃが、すぐに違和感を感じずにはいられなかった。そう、掴んだ剣は入れ替わっておったんじゃな。従者は今までと違う手ごたえに驚愕したそうじゃが、とにかく魔物を倒さねばならず、騎士と再び剣を変えることもできずに奮迅したそうじゃ。
騎士は・・・それまで従者をかばいながら戦っていたので、従者より疲れていたんじゃな。そして騎士も悟ったのじゃ。今まで自分が魔物を屠ることが出来たのは、おのれの腕によるものではなくて剣のおかげだったのだと。討伐に来るまでは従者との訓練で己が勝つことが少なかったけど、実践によってめきめきと自分の腕が上がったと思っていたが、それが間違いであったとも、の。
剣の魔石はそれまではただの飾り程度に思われていたのが、魔物を弑すのに必要だとわかったのだが、このことは討伐に活かされることはなかったそうじゃ。
それは何故か。
まあ、ここでいうことはないから、割愛するとするかのう。
そこで、わしの興味は魔石へと移っていったのであった」
そう締めくくって口を閉ざした。
しばらくは大使どもは黙っておったのじゃが、わしが続きを言わんことで抗議の声をあげだした(但し小声で)。そんな中でフォンテインの大使が手を挙げた。わしが頷くと大使は立ち上がり言った。
「キンブリー殿、まさか仮説の説明がここで終わりということはありますまいな」
「終わりと言うたら、悪いんかのう」
悪びれずに答えたら、ギリッと歯ぎしりが聞こえてきそうな顔で見つめてきおった。
「こんな中途半端な説明では納得できません!」
372話。
あれ~?
意外と説明に手間取ってしまいました。
1話2000文字では、なかなか話を進められませんね。
なるべく早く次話を更新出来るように頑張ります('◇')ゞ




