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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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学者話1-3 仮説を・・・話す

セリアテス嬢の様子を見ていたわしは、嬢ちゃんが自分の考えを自分の言葉で言っていると、実感していた。


嬢ちゃんは何者じゃ? 

これが女神様が愛し子に選んだ理由か?


いやいや、そんなことを考えている場合では、今はない。


「セリアテス嬢、それでは果物は魔素を含んでおると思っているんかのう」

「えーと、果物だけではないと思います。他の植物や動物も魔素を持っていると思います」

「ほう、動物もとな」

「ええっと、実際に私はまだ他の動物とふれあっていませんので断言はできませんが、でも食事で食べたお肉などからも栄養以外のものを取り込んでいると思いました」


栄養・・・が、何かわからんが、魔素を取り込むのに食事からというのは間違っていない。じゃが、それだけでは一晩で魔力が回復するのは・・・。


おっと、いかん。つい嬢ちゃんとのやり取りが面白くて、わしの説を話すということを忘れてしまいそうになった。リチャード様とセルジアス様から、鋭い視線を向けられてしまったのう。


「セリアテス様、ありがとうございました。どうぞお座りくだされ。ものすごく興味深い話じゃが、これ以上セリアテス様のお話を聞くのは、横に逸れ過ぎてしまいますからのう」


わしはセリアテス嬢が座るのを確認してから、大使たちのほうへと向き直った。


「さて、今のセリアテス様との会話を踏まえて話をさせてもらうとしようかの。まずは先におぬしらが先ほど言っておった『実際に魔物を見たことがない』じゃが、わしは実物を見ておるぞ」


この言葉で、ボンクラ大使たちもやっと気がついたようじゃの。顔色を悪くするもの、引きつらせた程度で治まるものと反応は分かれたがの。さすがに嘘と断じようとする輩がいないことは、さすがというべきか。


「各国において、公式に魔物の目撃情報があるのは、42年前にこのリングスタット国での大規模討伐が最後だとわしは記憶しておるが、大使方はどうであろうか」


大使たちを一巡り見回して、他の意見がないのを確認した。


「わしもその討伐に参加したことが、魔物のことを研究する発端であったな。先ほどわしの弟子が言うた『魔物とは魔素を多く取り込んだ生物(せいぶつ)が変化したもの』は、わしの長年の研究から導き出されたものじゃ。


じゃが、わしの研究は早くに進まなくなってしまってのう。それはわが国だけでなく、他の国からも魔物の目撃情報でさえ聞こえなくなったからじゃ。実際に魔物を見ることが出来なければ、検証のしようがないからなんじゃが・・・それでもわしは記憶にある魔物の姿から、魔物はどうやって発生するのかを、紐解こうとしておった。幸いにも討伐に参加した兵士の中に、絵心があるやつが居ったんじゃ。そやつは覚えている限りの魔物を絵に描いてくれたのじゃ。魔物は一種類ではなかったからなのでな。


わしの記憶とその絵を元にリングスタットにいる動物を、調査して回ってのう。野生動物の特性などを調べると共に、魔物の討伐に参加した者にも話を聞いたりしたんじゃ。魔物の共通項は目が赤いことと陽炎のような黒い瘴気を纏っていることじゃった。他は様々な形をしておったというが、わしも参加しておったとはいえすべての魔物と対峙したわけではなかったのじゃ。


わしが対峙した中にいたのは、クマのように大柄で鋭い爪をもったもの、オオカミのように小回りが利いて俊敏に走り回るもの、中にはムササビのように滑空して飛び掛かってくるものに出会ったが、シカのような立派な角をもったものや、ヤギのように足場の悪いところをものともせずに駆け回るようなやつとは、出会わんかったからのう。


そういうわけで、野生動物と魔物との共通項を調べるうちに、わしの研究は行き詰ったのじゃが、意外なところから仮説への糸口をつかむことが出来たのじゃ。


先程セリアテス様もおっしゃった『果物』からじゃった。皆は果物は季節ごとに実がなる木が違うということを不思議に思うことはなかったかの。わしはある山奥に行った時に、今まで冬に実がならないサクランボの実がなっている木を見つけたのじゃ。そうじゃの、今から30年前くらいになるかのう。その実を持ち帰り、半分は農産省に渡して残りは研究のために手元に置いたんじゃ。


ところでの、皆は知っておるかの。果物というものはもともと一つの季節、ある一定の期間しか実を取ることが出来なかったということをの。文献を調べてみたら、400年ほど前までは季節ごとに食すことが出来る果物は決まっておったようじゃ。では、どうして変節したものが出てきたのか。


わしは採取してきたサクランボの木が生えていた辺りのことを思い起こした。あそこはしいて言うならどん詰まりじゃった。あの手前までは多少険しいところもあったが、人が踏み入ることが出来るものじゃった。じゃが、あの場所は切り立った崖に遮られてそれ以上奥へはいけん所じゃったな。うっそうとした木々に遮られて、崖の高さはわからんかったしの。


じゃが、これだけでは何故、あのところに生えたサクランボの木が季節を無視した時期に実がなるのかは、分から無かったのじゃが、そこに農産省からある報告が入ったのじゃった」



371話。


意外と仮説の説明が長い?

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[一言] すごい! 研究者肌だ!
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