23-26 大使たちとお話し合い・・・の前準備?
国王陛下がレオポルド神官長のほうを見ました。神官長は頷くと言いました。
「それでは、国民のことはお任せいたします。他にも話はありますが、それは大使たちがいるところでにしましょう」
「お待ちください。その前にお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんでしょうか、オットマー魔術師長」
「女神様がおっしゃられたことについてです。魔法は女神様に教わったものではないような言い方をなさっていましたよね」
魔術師長の言葉に呆れを含めた視線を神官長は向けました。
「何をおっしゃることやら。そのことも大使たちの前で言いますから、それまでお待ちなさい」
そのまま視線を扉へと向けて歩き出そうとなさいましたが、つっと視線を魔術師長へと戻して言いました。
「魔法にも権利というものが存在しますよね」
そう一言だけ告げて神官長は陛下のほうを見ました。陛下は頷くと宰相へ目を向け、宰相も心得たように頷いて案内するように、一番先に部屋を出られたのでした。
向かったのは会議室でした。そこには前にお会いした学者のクラウス・キンブリーを含めた、何人かの方がいらっしゃいました。私達が入ると緊張をした顔で、皆様立ち上がり頭を下げました。
その様子に神官長は確認するように私のことを見てから言いました。
「皆様、頭を上げてください。すぐに移動しなければならないので、ここでは一言だけ問います。皆様は魔物について、なにか気づいていることはありますか」
「ま、魔物のことですか?」
集まっていた方々は顔を見合わせて困惑しています。その中から、キンブリー氏が軽く手を挙げてゆっくりと口を開きました。
「神官長様は魔物の何を知りたいのでしょうか」
「質問で返すということは、あなたは何かを知っていらっしゃるのですね」
一瞬、キンブリー氏になにか違和感を感じましたけど、それは次のキンブリー氏の言葉でわかりました。
「ほっほっ、相変わらずいけ好かん言い方をするのう。時間がないようじゃし、今はいいにしといてやるかの。じゃが、こちらからも一つ聞かせて貰おうかの。それは女神様と関係があるのかの?」
「場所と立場というものがあるでしょう、キンブリー先生。ええ、女神様からセリアテス様がお聞きになられたことが関係しております」
どうやらキンブリー氏は言い方を変えていたのですね。そして神官長の言葉で皆様の視線が私へと集中しました。
「あ、あの、女神様と先ほどお話しした時に『魔物の大量発生』のことについて訊いてみたのです。魔物の大量発生は必ず起こると言っておられました。それから魔物の発生の仕方について、気づ・・・研究している方がいるとお聞きしました」
あやうく失言しそうになりました。言い直したことをにっこりと笑顔を見せて誤魔化せたと思ったのですよ。だって、いつものように皆様は微かに頬を赤くしていらっしゃいましたから。
「ほうほう、女神様がのう。そうか、そうか。わしの研究もあながち間違ってはおらんようじゃのう」
私はキンブリー氏の言葉に血の気が引いて行くのがわかりました。が、皆様はキンブリー氏のことを見ているみたいで、私のことを何か言って来る人はいません。
「やはりキンブリー先生はご存じなのですか」
「いやいや、わしのこれは仮説じゃったんじゃよ。それよりも時間がないような口ぶりだったじゃろ。ここでわしの説を小一時間ほど話してもいいんかの?」
「それは困ります。では、各国の大使たちの前でお聞きすることになりますが、よろしいですか」
「ほお、大使たちとな。まあ、いいじゃろ。わしのお説をたっぷり話させていただくとするか」
かっかっかっと楽しそうにキンブリー氏は高笑いをしています。神官長はその様子を若干肩を落として? ・・・いえ、脱力した感じに見て、諦めの表情で首を振っていらっしゃいました。
ええっと、神官長とキンブリー氏は知己の仲ということでいいのかな。見ていて気安い感じがするもの。
キンブリー氏は笑うのをやめると、一瞬眉をしかめたあと不敵な笑みを浮かべて言いました。
「そこにおるのはリチャード様ではないかの。相変わらずわしの真似をしておるのかのう」
「何を言うのかと思えば、変な言いがかりを言うのではないわい。わしのこの言い方はフォングラム領の者たちの言い方ではないか。息子に家督を譲ってから領におったから、うつってしまっただけじゃ」
おじい様は嫌そうな顔をしてキンブリー氏に答えました。その様子にニヤリと笑みを浮かべるキンブリー氏。
「まあ、そういうことにしておいてやろうかのう」
おじい様はムッとした顔をして何か言い返そうとしたようですが、皆様が見ていることに気がついて不機嫌そうに顔を背けたのでした。
そのやり取りを唖然と見ていた私へと、キンブリー氏が近づいてきました。
「驚かせてしまったかのう」
「あっ、えっと、その、少し?」
私の戸惑いが分かったのか、キンブリー氏は優しい声で話しかけてきました。
「わしはのフォングラム公爵領の出身じゃ。なのでの、リチャード様の幼い頃を知っておるんじゃ」
意味ありげな視線をおじい様に向けて言うキンブリー氏。その視線を追って再度おじい様の顔を見ましたら、先ほどよりももっと機嫌が悪そうに見えます。どうやらおじい様にも苦手な方がいらっしゃったみたいですね。
364話。
あれ? あれ~?
ちょろっと出演だったはずの学者様が~……!
学者のじっちゃん無双はあるのだろうか?




