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月光の姫と信望者たち  作者: 山之上 舞花
第3章 魔法と領地ともろもろと
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神官長話1-1 女神様の言葉は絶対 前編

目の前で起こっていることに、私は感嘆の吐息をそっと吐き出した。ここで思い切り息を吐き出して、女神様のお邪魔をするわけにはいかない。


それでも、目は先ほどからセリアテス・クリスチーネ・フォングラム様から、離すことができないでいた。


ああ、なんと神々しいのだろう。

女神様がセリアテス様をお選びになったのは、これが理由だったのだろう。


感動に打ち震えながら、私ことリングスタット国総神殿の神官長をしているレオポルド・アゼ・リングスは、ただただ見つめていたのだった。



先ほど、セリアテス様を礼拝室に一人残し部屋を出た時には、このようなことが起こるとは思っていなかった。女神様と愛し子の対話が行われるだけだと思っていた。


それが何ということだろう。思っていたより早くに緊急事態を知らせるベルの音が響きわたった。

リチャード様との胃の痛くなるようなやり取りを中断し、腰を上げた私の耳に女神様の麗しい声が聞こえてきた。女神様からの呼びかけに急いで礼拝室へと向かった我ら。


祭壇前に立たれていたセリアテス様は、女神様の神気を纏って光り輝いておられた。直視するのを拒む太陽のごとき輝きではなく、夜の闇を優しく退け導き照らすような月の光のような輝きを纏われておられる。


同じ輝きを女神像もしているので、女神様がそちらにおられることがわかります。・・・そう、これが神殿に女神様がいらっしゃる時の状態です。フォンテインの大神官様でさえ、女神様とお話をなさるのに、この状態しか知らないでしょう。(ニヤリ)


思考を余計なほうに向けていたために、女神様のお言葉を聞き逃してしまい、女神様に語り掛けられて焦ってしまった。・・・どうやら無難な返事を返せたようだが、続けて言われた言葉に一瞬意味がわからずに素で「はっ?」と、返してしまった。ついでに嫌な汗が噴き出てきた。

女神様が続けられた言葉に、打ち合わせと違うと尚更汗が噴き出してくる。

女神様の真意がわからずにぎこちない動きで、セリアテス様に「ご不快な思い」をと、問いかけることしかできなかった。

・・・が、セリアテス様がホッとしたような表情で言われたことで、このことはセリアテス様の懸念を振り払うために、女神様が話の流れをこうしたのだと、私は理解した。


そして、打ち合わせ通り(・・・・・・・)に女神様による私の『終生におけるリングスタット国総神殿神官長就任』の命をいただきました。


セリアテス様が慌てて私へと縋りついてきまして、泣きそうな顔で「私のためにそこまでしないでください」とおっしゃられました。何かを誤解している様子に、宝物を扱うようにそっと触れて分かり易く言います。・・・少し本音が漏れてしまったことで、セリアテス様に引きつった笑いを浮かべさせてしまったのは、申しわけなく思ったのでした。


だけど、これでリチャード様には私の真意が伝わったことでしょう。女神様もそこをご指摘なさってくださっていますし。なんやかやと申しても、私が(・・)リングスタット国総神殿の神官長でいることがどれほど重要なのかは、リチャード様はお分かりです。もう密かに私の身を守るためにフォングラム公爵家の者がついていることに、気づいていましたし。



私はもともとリングスタット国の公爵家の出です。残念ながら生家は数年前になくなってしまいました。

そして、私の出自は少々複雑です。父は公爵だったのですが、母は正夫人ではなく妾に当たる人だったのです。母は没落した伯爵家の令嬢で、正夫人の召使いとして雇われていたのを、公爵が見初めた……ということになっています。

本当はその当時公爵位を継いでいた方の子ではなく、その方の引退をした父親の子であったそうです。私が生まれる直前に亡くなってしまいましたが、母の腹の子は実子であると認めていたそうです。公爵も母のことを頼まれていたこともあり、異母弟である私のことも良いように取り計らうつもりでいたそうです。


ですが、生まれた私を見て状況は一変しました。私の容姿は金髪にラピスラズリの瞳です。公爵家は王家に近い家であり、私の父の母(つまり祖母)は王家より降嫁された方だったので、私にこの色が出ても本来なら問題はないはずでした。

兄が同じ瞳の色をしていたのならばです。兄の瞳の色はアズライトでした。兄はすぐさま、私のことを父の子ではなく自分の実子と公表なされたそうです。その時には兄は結婚をしていて8歳になる息子がいました。


兄の夫人は、最初は私の身の安全を図るための措置と納得していたようですが、そのうちに母を気づかう父の様子に疑いを持つようになられたそうです。私が3歳の時に母が亡くなり、それが夫人が虐めたことにより病んで亡くなったと噂が流れたそうです。私のことを疎んで罵詈雑言を浴びせているなどと、そういう噂も流れたようでした。


実際は私は夫人とその息子(つまり甥)に、とても可愛がられました。甥のことを本当の兄だと思っていたのです。真実を知ったのは学園に入ってからでした。



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